$n=m,m+1$ を仮定して$n=m+2$ を示す

$n=m,m+1$ を仮定して$n=m+2$ を示す

$n=m$ の場合を仮定しただけでは, $n=m+1$ の場合を証明できないときもある.このようなときは,さらに $n=m$ に加えて $n=m+1$ の場合も仮定した上で, $n=m+2$ の場合を証明してやるとよい.

いろいろな数学的帰納法~その2~

$x+\dfrac{1}{x}=t$ とするとき,すべての自然数 $n$ において

式 $x^n+\dfrac{1}{x^n}$ は $t$ の $n$ 次多項式で表される $\tag{1}\label{takosikinokinoho1}$

ことを証明せよ.

  1. $n=1$ のとき
  2. \[x^1+\frac{1}{x^1}=t\]

    となり,確かに $\eqref{takosikinokinoho1}$ は成り立つ.

    $n=2$ のとき

    \[x^2+\frac{1}{x^2}=\left(x+\frac{1}{x}\right)^2-2=t^2-2\]

    となり,こちらも確かに $\eqref{takosikinokinoho1}$ は成り立つ.

    $\blacktriangleleft$ $n=2$ の場合の成立を示すのは,2. の証明で必要となるからである

  3. $n=m,m+1$ のとき( $m$ はある自然数とする) $\eqref{takosikinokinoho1}$ が成り立つと仮定する,つまり
  4. \begin{align} x^m+\frac{1}{x^m}&=P_m(t)\tag{2}\label{takosikinokinoho2}\\ x^{m+1}+\frac{1}{x^{m+1}}&=P_{m+1}(t)\tag{3}\label{takosikinokinoho3} \end{align}

    が成り立つと仮定する.ただし,式 $P_i(t)$ は $t$ の $i$ 次多項式を意味するものとする.

    このとき, $\eqref{takosikinokinoho1}$ で $n=m+2$ とおいた場合の成立,つまり

    \[x^{m+2}+\frac{1}{x^{m+2}}=P_{m+2}(t)\tag{4}\label{takosikinokinoho4}\]

    か成り立つことを以下示す.

    \begin{align} &(\eqref{takosikinokinoho4}の左辺)\\ =\ &x^{m+2}+\frac{1}{x^{m+2}}\\ =\ &\underbrace{\left(x^{m+1}+\frac{1}{x^{m+1}}\right)}_{仮定\eqref{takosikinokinoho3}}\left(x+\frac{1}{x}\right)\\ &\qquad\qquad-\underbrace{\left(x^m+\frac{1}{x^m}\right)}_{仮定\eqref{takosikinokinoho2}}\\ =\ &t\cdot P_{m+1}(t)-P_m(t)\qquad\because\eqref{takosikinokinoho2},\eqref{takosikinokinoho3} \end{align}

    $\blacktriangleleft$ 仮定 $\eqref{takosikinokinoho3}$ を強引にくくり出し,つじつまあわせの部分で仮定 $\eqref{takosikinokinoho2}$ が欲しくなる

    $t\cdot P_{m+1}(t)$ は $m+2$ 次多項式, $P_m(t)$ は $m$ 次多項式であり,その差 $t\cdot P_{m+1}(t)-P_m(t)$ は,必ず $m+2$ 次多項式になる.

    たとえば,2次多項式 $2t^2-3t+4$ から1次多項式 $3t+2$ を引くと $2t^2-3t+4-(3t+2)=2t^2-6t+2$ となり,2次多項式が得られる.

    よって, $t\cdot P_{m+1}(t)-P_m(t)$ は $t$ の $m+2$ 次多項式となるから, $P_{m+2}(t)$ とおくことができ、これは $\eqref{takosikinokinoho4}$ の右辺である.

    よって, $n=m,m+1$ のとき $\eqref{takosikinokinoho1}$ が成り立つと仮定すれば, $n=m+2$ の場合も $\eqref{takosikinokinoho1}$ が成り立つことがいえた.

1. 2. によって,数学的帰納法からすべての自然数 $n$ について, $\eqref{takosikinokinoho1}$ は成り立つ.

吹き出し無題

実際に問題を解く場面は,いきなり上記のようにきれいに書き始められるようなことはないと言ってよい.実際には $n=1$ 成立を確認して, $n=m$ 成立を仮定し $n=m+1$ 成立を示そうとするのだが, $n=m+1$ 成立を示そうとしたときに,前提条件が足りないことに気が付く.そこで $n=m$ に加えて $n=m+1$ の場合も仮定した上で, $n=m+2$ の場合を証明するという発想に行き着くのである.