確率分布と期待値

表も裏も$\dfrac{1}{2}$の確率で出る硬貨を投げ、表が出たら100円もらえ、裏がでたら何ももらえないというゲームをする。このゲームを何回も続けると、100円もらえるときもあれば何ももらえないときもあるが、1回のゲームにつき平均して50円はもらえると期待できる。以下では、偶然によって支配される出来事において期待できる値、「期待値」について考えてみる。

確率変数と確率分布

確率変数とは何か

10本のくじがあり,そこから1本のくじを引くという試行を考える. A賞が当ると1000円,B賞が当ると500円,C賞が当ると100円もらえるものとする.

\begin{array}{|c|c|c|c|}\hline 賞&A賞&B賞&C賞\\\hline 賞金(円)&1000&500&100\\\hline 本数(本)&2&3&5\\\hline \end{array}

A賞,B賞,C賞の当る確率は,それぞれ $\frac{2}{10},\frac{3}{10},\frac{5}{10}$ であるから,賞金と確率の関係は表のようにまとめることができる.

\begin{array}{|c|c|c|c|}\hline 賞金(円)&1000&500&100\\\hline 確率&\frac{2}{10}&\frac{3}{10}&\frac{5}{10}\\\hline \end{array}

ここで,1本のくじを引いた結果もらえる賞金を $X$ 円とすれば, $X$ は1000,500,100のどれかの値をとる. このとき, $X$ がどの値をとるかは試行の結果によって決まる.

また, $X=1000$ となるときの確率を $P(X=1000)$ のように書くとすると,これはA賞に当るという事象の確率であるから

\[P(X=1000)=\frac{2}{10}\]

と書くことができる.他のものも同様にして

\[P(X=500)=\frac{3}{10},P(X=100)=\frac{5}{10}\]

と書ける.

一般に,いまの $X$ のように,試行の結果によってその値が定まる変数を確率変数(probability variable)という. 確率変数を表すのには,大文字のアルファベット $X,Y,Z$ を使うことが多い.

確率分布とは何か

(無題)

先程まとめた表

\begin{array}{|c|c|c|c|}\hline 賞金(円)&1000&500&100\\\hline 確率&\frac{2}{10}&\frac{3}{10}&\frac{5}{10}\\\hline \end{array}

は,確率変数と,その値となるときの確率の対応を示したものであり, この対応のことを確率分布(probability distribution)という.確率分布を上のように表にしてまとめたものを確率分布表(probability distribution chart)という

確率変数 $X$ が, $x_1,x_2,x_3,\cdots,x_n$ という値をとる試行での確率分布が

\[P(X=x_i)=p_i\quad(i=1,2,3,\cdots,n)\]

とすると,確率分布表は

\begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|}\hline X&x_1&x_2&x_3&\cdots&x_n&計\\\hline P&p_1&p_2&p_3&\cdots&p_n&1\\\hline \end{array}

となる.

期待値

期待値とは何か

さて,先程のくじ引きにおいて,このくじを1回引くとき,平均していくらの賞金が期待できるかについて考えてみよう.

\begin{array}{|c|c|c|c|}\hline X&1000&500&100\\\hline P&\frac{2}{10}&\frac{3}{10}&\frac{5}{10}\\\hline \end{array}

このくじの賞金は総額で

\begin{align} 1000円\times2本+500円\times3本+100円\times5本&\\ =4000円& \end{align}

であるから,くじ1本あたりの賞金は,平均して

\[4000円\div10本=400円\]

と考えられる.

この計算の見方を少し変えると(総額= $money$, くじの本数= $kuzibiki$ とすると)

\begin{align} &\frac{money}{kuzibiki}\\ =&\frac{1000\times2+500\times3+100\times5}{10}\\ =&\underbrace{1000}_{確率変数}\times\underbrace{\frac{2}{10}}_{確率}+\underbrace{500}_{確率変数}\times\underbrace{\frac{3}{10}}_{確率}+\underbrace{100}_{確率変数}\times\underbrace{\frac{5}{10}}_{確率} \end{align}

と表すこともできる.

一般に,確率変数 $X$ のとり得る値のすべてが

\[x_1,x_2,x_3,\cdots,x_n\]

であり,その値をとるときの確率がそれぞれ

\begin{align} &p_1,p_2,p_3,\cdots,p_n\\ &\qquad(p_1+p_2+p_3+\cdots+p_n=1) \end{align}

であるとする.つまり,確率分布が $P(X=x_i)=p_i\quad(i=1,2,3,\cdots,n)$ のとき

\[x_1p_1+x_2p_2+x_3p_3+\cdots+x_np_n\]

の値を,確率変数 $X$ の期待値(expextation)または平均(mean)といい $\boldsymbol{E(X)}$ と表す.

先程のくじ引きの例では,くじ1本あたりの賞金の平均値が期待値である.

期待値の $E(X)$ の定義

確率分布が $P(X=x_i)=p_i\quad(i=1,2,3,\cdots,n)$ のとき,

期待値 $E(X)$

\[E(X)=x_1p_1+x_2p_2+x_3p_3+\cdots+x_np_n\]

と定義する.

期待値の計算~その1~

次の1. と2. ではどちらが有利と考えられるか.

  1. さいころを1回振り,(出た目) $\times$ 100円もらえる.
  2. さいころを2回振り,1回でも6の目が出たら1200円もらえる.

1. と2. それぞれの期待値を求めてから判断する.

  1. もらえる金額を $X$ 円とすると,確率分布は
  2. $X$ $100$ $200$ $300$ $400$ $500$ $600$
    $P$ $\dfrac{1}{6}$ $\dfrac{1}{6}$ $\dfrac{1}{6}$ $\dfrac{1}{6}$ $\dfrac{1}{6}$ $\dfrac{1}{6}$ $1$

    となるから,期待値 $E(X)$ は

    \begin{align} E(X)&=\frac{1}{6}(100+200+300\\ &\qquad\qquad+400+500+600)\\ &=350 \end{align}
  3. 2回のさいころの結果,出る目の順列は $_{6}\Pi_{2}=36$ 通りあり,これらは同様に確からしい.このうち,1回でも6の目が出るのは,(数えて)11通りあるので,もらえる金額を $Y$ 円とすると,確率分布は
  4. \begin{array}{|c|c|c|c|}\hline Y&0&1200&計\\\hline P&\frac{25}{36}&\frac{11}{36}&1\\\hline \end{array}

    となる.よって,期待値 $E(Y)$ は

    \[E(Y)=\frac{11}{36}\times1200=\frac{1100}{3}\fallingdotseq367\]

以上1. と2. の期待値の結果から,

2. の方が有利

と考えられる.

期待値の計算~その2~

次の問いに答えよ.ただし,計算には期待値の定義を使うこと.

  1. 1,2,3,4と数字の書いてあるカードがそれぞれ1枚ずつ計4枚ある.カードを2枚引くとき,そのカードの番号の和を確率変数 $X$ として,期待値 $E(X)$ を求めよ. また,カードの番号の積を確率変数 $Y$ として,期待値 $E(Y)$ を求めよ.
  2. 1,2,3の数字の書いてあるくじ(引いたら元に戻すものとする)を2回引き, その数字の和を確率変数 $X$ として,期待値 $E(X)$ を求めよ. また,数字の積を確率変数 $Y$ として,期待値 $E(Y)$ を求めよ.

  1. 確率変数 $X$ の確率分布は次のようになる.
  2. \begin{array}{|c|c|c|c|c|c|}\hline X&3&4&5&6&7\\\hline P&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}&\frac{2}{6}&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}\\\hline \end{array} \[E(X)=\frac{1}{6}(3+4+5\cdot2+6+7)=\boldsymbol{5}\]

    また,確率変数 $Y$ の確率分布は次のようになる.

    \begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|}\hline X&2&3&4&6&8&12\\\hline P&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}\\\hline \end{array} \[E(Y)=\frac{1}{6}(2+3+4+6+8+12)=\boldsymbol{\frac{35}{6}}\]
  3. 確率変数 $X$ の確率分布は次のようになる.
  4. \begin{array}{|c|c|c|c|c|c|}\hline X&2&3&4&5&6\\\hline P&\frac{1}{9}&\frac{2}{9}&\frac{3}{9}&\frac{2}{9}&\frac{1}{9}\\\hline \end{array} \begin{align} E(X)=&\frac{1}{9}(2+3\cdot2+4\cdot3+5\cdot2+6)\\ =&\boldsymbol{4} \end{align}

    また,確率変数 $Y$ の確率分布は次のようになる.

    \begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|}\hline X&1&2&3&4&6&9\\\hline P&\frac{1}{9}&\frac{2}{9}&\frac{2}{9}&\frac{1}{9}&\frac{2}{9}&\frac{1}{9}\\\hline \end{array} \begin{align} &E(Y)\\ =&\frac{1}{9}(1+2\cdot2+3\cdot2+4+6\cdot2+9)\\ =&\boldsymbol{4} \end{align}

確率変数の1次式の期待値

確率変数 $X$ のとる値が $x_1,x_2,\cdots,x_n$ のとき, $X$ の1次式 $aX+b$ は

\[ax_1+b,ax_2+b,\cdots,ax_n+b\]

という値をとる,別の新しい確率変数であると考える.

確率分布を $P(X=x_i)=p_i\quad(i=1,2,\cdots,n)$ とすると, $a\neq0$ ならば

\[P(aX+b=ax_i+b)=P(X=x_i)=p_i\]

が成り立つ.

よって,確率変数 $aX+b$ の期待値 $E(aX+b)$ は

\begin{align} E(aX+b)=&(ax_1+b)p_1+(ax_2+b)p_2\\ &\qquad\qquad+\cdots+(ax_n+b)p_n \end{align}

となる.

確率変数の1次式の期待値

さいころ投げを1回行い,出た目を確率変数 $X$ とするとき, $E(2X+1)$ を求めよ.

$2X+1$ の確率分布は次のようになる.

\begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|}\hline X&3&5&7&9&11&13\\\hline P&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}\\\hline \end{array}

これより

\begin{align} E(2X+1)&=\frac{1}{6}(3+5+7+9+11+13)\\ &=\boldsymbol{8} \end{align}

$\blacktriangleleft$ (参考) $X$ の確率分布

\begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|}\hline X&1&2&3&4&5&6\\\hline P&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}\\\hline \end{array} \[E(X)=\frac{1}{6}(1+2+3+4+5+6)=\frac{7}{2}\]

いま,この例題において,確率変数 $2X+1$ の計算の様子をわかりやすくするため

2X+12 $\cdot$ 1+12 $\cdot$ 2+12 $\cdot$ 3+12 $\cdot$ 4+12 $\cdot$ 5+12 $\cdot$ 6+1
P $\dfrac{1}{6}$ $\dfrac{1}{6}$ $\dfrac{1}{6}$ $\dfrac{1}{6}$ $\dfrac{1}{6}$ $\dfrac{1}{6}$

となおしてから,期待値 $E(2X+1)$ を計算してみると

\begin{align} &E(2X+1)\\ =&\ \frac{1}{6}\{\ (2\cdot1+1)+(2\cdot2+1)+\\ &\qquad(2\cdot3+1)+(2\cdot4+1)+\\ &\qquad(2\cdot5+1)+(2\cdot6+1)\ \}\\ =&\ \frac{1}{6}\left\{2(1+2+3+4+5+6)+6\right\}\\ &\uparrow Xの係数2でくくれる部分をくくった\\ =&\ 2\cdot\frac{1}{6}(1+2+3+4+5+6)+1\\ =&\ 2E(X)+1 \end{align}

つまり, $E(2X+1)=2E(X)+1$ が成り立つ.

暗記確率変数の1次式の期待値

$X$ を確率変数, $a,b$ を定数とするとき

\[E(aX+b)=aE(X)+b\]

が成り立つことを証明せよ.

確率変数 $X$ の確率分布を

\[P(X=x_i)=p_i\quad(i=1,2,\cdots,n)\]

とする( $n$ は自然数)このとき

\begin{align} &E(aX+b)\\ =&(ax_1+b)p_1+(ax_2+b)p_2\\ &\qquad+\cdots+(ax_n+b)p_n\\ =&(ax_1p_1+bp_1)+(ax_2p_2+bp_2)\\ &\qquad+\cdots+(ax_np_n+bp_n)\\ =&a(x_1p_1+x_2p_2+\cdots+x_np_n)\\ &\qquad+b(p_1+p_2+\cdots+p_n)\\ &\blacktriangleleft Xの係数aでくくれる部分をくくった\\ &\qquad(bでもくくった)\\ =&aE(X)+b \end{align}

確率変数の1次式の期待値の公式

$X$ を確率変数, $a,b$ を定数とするとき

\[E(aX+b)=aE(X)+b\]

が成り立つ.

吹き出し無題

この公式は,確率変数を $a$ 倍すれば,期待値(平均)は $a$ 倍になり, 確率変数に $b$ を加えれば,期待値は $b$ だけ大きくなることを主張している. 感覚的には明らかといえるだろう.

確率変数の和の期待値

確率変数 $X$ の確率分布が $P(X=x_i)=p_{x_i}\quad(i=1,2,\cdots,n)$ ,確率変数 $Y$ の確率分布が $P(Y=y_i)=p_{y_j}\quad(j=1,2,\cdots,m)$ ,となる試行を考える.

$X$ が値 $x$ をとり, $Y$ が値 $y$ をとる確率を $P(X=x,Y=y)$ と書くとし

\[P(X=x_i,Y=y_j)=p_{ij}\]

とする.

2つの確率変数 $X,Y$ はいろいろな値をとるが,それらを足した値をもまたいろいろな値をとり, この値を別の新たな確率変数と考えることもできる.この新しい確率変数 $Z$ を

\[Z=X+Y\]

と書くことにする. $Z$ の確率分布表は以下のようになる.

$y_1$ $y_2$ $\cdots$ $y_m$
$x_1$ $x_1+y_1$ $x_1+y_2$ $x_1+y_m$
$p_{11}$ $p_{12}$ $p_{1m}$ $p_{x_1}$
$x_2$ $x_2+y_1$ $x_2+y_2$ $x_2+y_m$
$p_{21}$ $p_{22}$ $p_{2m}$ $p_{x_2}$
$\vdots$ $\vdots$
$x_n$ $x_n+y_1$ $x_n+y_2$ $x_n+y_m$
$p_{n1}$ $p_{n2}$ $p_{nm}$ $p_{x_n}$
$p_{y_1}$ $p_{y_2}$ $p_{y_m}$ $1$

このとき, $Z$ の期待値 $E(Z)$ は

\begin{align} E(Z)=&(x_1+y_1)p_{11}+\cdots+(x_1+y_m)p_{1m}\\ +&(x_2+y_1)p_{21}+\cdots+(x_2+y_m)p_{2m}\\ &\qquad\quad\qquad\qquad\vdots\\ +&(x_n+y_1)p_{n1}+\cdots+(x_n+y_m)p_{nm} \end{align}

確率変数の和の期待値

硬貨1枚とさいころ1個を投げる試行を考える.硬貨に表が出たときは1,裏が出たときは0を対応させる確率変数を $X$ とする.また,さいころに出た目を確率変数 $Y$ とする. $E(X+Y)$ を求めよ.

$Z=X+Y$ とすると, $Z$ のとる値は1から7までの整数となる.

例えば, $Z=2$ となるのは $X=1,Y=1$ のときか, $X=0,Y=2$ のときであり,これらは排反であるから

\begin{align} P(Z=2)=&P(X=1,Y=1)\\ &\qquad+P(X=0,Y=2)\\ =&\frac{2}{12} \end{align}

である.同様にして,計算すると次のようにまとめられる.

\begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|c|}\hline Z&1&2&3&4&5&6&7\\\hline P&\dfrac{1}{12}&\dfrac{2}{12}&\dfrac{2}{12}&\dfrac{2}{12}&\dfrac{2}{12}&\dfrac{2}{12}&\dfrac{1}{12}\\\hline \end{array}

これより, $Z$ の期待値 $E(Z)$ は

\begin{align} E(Z)=&\frac{1}{12}(1+2\cdot2+2\cdot3+2\cdot4\\ &\qquad+2\cdot5+2\cdot6+7)\\ =&\boldsymbol{4} \end{align}

となる.

$\blacktriangleleft$ (参考1) $X$ の確率分布

\begin{array}{|c|c|c|}\hline X&0&1\\\hline P&\dfrac{1}{2}&\dfrac{1}{2}\\\hline \end{array} \[E(X)=\dfrac{1}{2}\]

$\blacktriangleleft$ (参考2) $Y$ の確率分布

\begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|}\hline Y&1&2&3&4&5&6\\\hline P&\dfrac{1}{6}&\dfrac{1}{6}&\dfrac{1}{6}&\dfrac{1}{6}&\dfrac{1}{6}&\dfrac{1}{6}\\\hline \end{array} \[E(X)=\dfrac{1}{6}(1+2+3+4+5+6)=\dfrac{7}{2}\]

いま,この例題において,確率変数 $X+Y$ の計算の様子をわかりやすくするため

$1$ $2$ $3$ $4$ $5$ $6$
$0$ $0+1$ $0+2$ $0+3$ $0+4$ $0+5$ $0+6$
$\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{2}$
$1$ $1+1$ $1+2$ $1+3$ $1+4$ $1+5$ $1+6$
$\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{2}$
$\dfrac{1}{6}$ $\dfrac{1}{6}$ $\dfrac{1}{6}$ $\dfrac{1}{6}$ $\dfrac{1}{6}$ $\dfrac{1}{6}$ $1$

となおしてから,期待値 $E(X+Y)$ を計算してみると

\begin{align} &E(X+Y)\\ =&\ \frac{1}{12}\{(0+1)+(0+2)+(0+3)\\ &\qquad+(0+4)+(0+5)+(0+6)\}\\ &+\frac{1}{12}\{(1+1)+(1+2)+(1+3)\\ &\qquad+(1+4)+(1+5)+(1+6)\}\\ =&\ \left\{6\cdot\frac{1}{12}\cdot0+6\cdot\frac{1}{12}\cdot1\right\}\\ &+\left\{2\cdot\frac{1}{12}\cdot(1+2+3+4+5+6)\right\}\\ =&\ \left(\frac{1}{2}\cdot0+\frac{1}{2}\cdot1\right)\\ &+\left\{\frac{1}{6}\cdot(1+2+3+4+5+6)\right\}\\ =&\ E(X)+E(Y) \end{align}

つまり, $E(X+Y)=E(X)+E(Y)$ が成り立つ.

暗記確率変数の和の期待値

$X,Y$ を確率変数とするとき

\[E(X+Y)=E(X)+E(Y)\]

が成り立つことを証明せよ.

確率変数 $X$ の確率分布を $P(X=x_i)=p_{x_i}\quad(i=1,2,\cdots,n)$ ,

確率変数 $Y$ の確率分布を $P(Y=y_i)=p_{y_j}\quad(j=1,2,\cdots,m)$ ,とし

\[P(X=x_i,Y=y_j)=p_{ij}\]

とする.

$X+Y$ の確率分布表は以下のようになる.

$y_1$ $y_2$ $\cdots$ $y_m$
$x_1$ $x_1+y_1$ $x_1+y_2$ $x_1+y_m$
$p_{11}$ $p_{12}$ $p_{1m}$ $p_{x_1}$
$x_2$ $x_2+y_1$ $x_2+y_2$ $x_2+y_m$
$p_{21}$ $p_{22}$ $p_{2m}$ $p_{x_2}$
$\vdots$ $\vdots$
$x_n$ $x_n+y_1$ $x_n+y_2$ $x_n+y_m$
$p_{n1}$ $p_{n2}$ $p_{nm}$ $p_{x_n}$
$p_{y_1}$ $p_{y_2}$ $p_{y_m}$ $1$

このとき, $X+Y$ の期待値 $E(X+Y)$ は

\begin{align} &E(X+Y)\\ =&(x_1+y_1)p_{11}+(x_1+y_2)p_{12}\\ &\qquad+\cdots+(x_1+y_m)p_{1m}\\ &+(x_2+y_1)p_{21}+(x_2+y_2)p_{22}\\ &\qquad+\cdots+(x_2+y_m)p_{2m}\\ &+\cdots\\ &+(x_n+y_1)p_{n1}+(x_n+y_2)p_{n2}\\ &\qquad+\cdots+(x_n+y_m)p_{nm}\\ =&x_1(p_{11}+p_{12}+\cdots+p_{1m})\\ &+x_2(p_{21}+p_{22}+\cdots+p_{2m})\\ &+\cdots\\ &+x_n(p_{n1}+p_{n2}+\cdots+p_{nm})\\ &+y_1(p_{11}+p_{21}+\cdots+p_{n1})\\ &+y_2(p_{12}+p_{22}+\cdots+p_{n2})\\ &+\cdots\\ &+y_m(p_{1m}+p_{2m}+\cdots+p_{nm})\\ =&(x_1p_{x_1}+x_2p_{x_2}+\cdots+x_np_{x_n})\\ &+(y_1p_{y_1}+y_2p_{y_2}+\cdots+y_np_{y_m})\\ =&E(X)+E(Y) \end{align}

確率変数の和の期待値の公式

$X,Y$ を確率変数とするとき

\[E(X+Y)=E(X)+E(Y)\]

が成り立つ.

独立な確率変数の積の期待値

硬貨投げとさいころ投げのように,独立試行では確率変数 $X,Y$ のとる値すべての組 $x_i,y_j$ に対して

\[P(X=x_i,Y=y_j)=P(X=x_i)\cdot P(Y=y_j)\]

が成り立つ.

一般に,2つの確率変数 $X,Y$ があって, $X$ のとるすべての値 $x$ と $Y$ のとる値 $y$ に対して

\[P(X=x,Y=y)=P(X=x)\cdot P(Y=y)\]

が成り立つとき,確率変数 $X,Y$ は互いに独立(independent)であるという.

独立な確率変数の積の期待値

硬貨1枚とさいころ1個を投げる試行を考える. 硬貨に表が出たときは1,裏が出たときは0を対応させる確率変数を $X$ とする. また,さいころに出た目を確率変数 $Y$ とする. $E(XY)$ を求めよ.

$Z=XY$ とすると, $Z$ のとる値は0から6までの整数となる.

例えば, $Z=2$ となるのは $X=1,Y=2$ のときであるから

\[P(Z=2)=P(X=1,Y=2)=\frac{1}{12}\]

である.同様にして,計算すると次のようにまとめられる.

\begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|c|}\hline Z&0&1&2&3&4&5&6\\\hline P&\dfrac{6}{12}&\dfrac{1}{12}&\dfrac{1}{12}&\dfrac{1}{12}&\dfrac{1}{12}&\dfrac{1}{12}&\dfrac{1}{12}\\\hline \end{array}

これより, $Z$ の期待値 $E(Z)$ は

\begin{align} E(Z)&=\frac{6}{12}\cdot0+\frac{1}{12}(1+2+3+4+5+6)\\ &=\boldsymbol{\frac{7}{4}} \end{align}

となる.

$\blacktriangleleft$ (参考1) $X$ の確率分布

\begin{array}{|c|c|c|}\hline X&0&1\\\hline P&\dfrac{1}{2}&\dfrac{1}{2}\\\hline \end{array} \[E(X)=\dfrac{1}{2}\]

$\blacktriangleleft$ (参考2) $Y$ の確率分布

\begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|}\hline Y&1&2&3&4&5&6\\\hline P&\dfrac{1}{6}&\dfrac{1}{6}&\dfrac{1}{6}&\dfrac{1}{6}&\dfrac{1}{6}&\dfrac{1}{6}\\\hline \end{array} \[E(X)=\dfrac{1}{6}(1+2+3+4+5+6)=\dfrac{7}{2}\]

いま,この例題において,確率変数 $XY$ の計算の様子をわかりやすくするため

$1$ $2$ $3$ $4$ $5$ $6$
$0$ $0\cdot1$ $0\cdot2$ $0\cdot3$ $0\cdot4$ $0\cdot5$ $0\cdot6$
$\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{2}$
$1$ $1\cdot1$ $1\cdot2$ $1\cdot3$ $1\cdot4$ $1\cdot5$ $1\cdot6$
$\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{12}$ $\dfrac{1}{2}$
$\dfrac{1}{6}$ $\dfrac{1}{6}$ $\dfrac{1}{6}$ $\dfrac{1}{6}$ $\dfrac{1}{6}$ $\dfrac{1}{6}$ $1$

となおしてから,期待値 $E(XY)$ を計算してみると

\begin{align} E(XY)&=\frac{1}{12}\{(0\cdot1)+(0\cdot2)+(0\cdot3)\\ &\qquad+(0\cdot4)+(0\cdot5)+(0\cdot6)\}\\ &+\frac{1}{12}\{(1\cdot1)+(1\cdot2)+(1\cdot3)\\ &\qquad+(1\cdot4)+(1\cdot5)+(1\cdot6)\}\\ &=\frac{1}{12}\cdot0\cdot(1+2+3+4+5+6)\\ &\qquad+\frac{1}{12}\cdot1\cdot(1+2+3+4+5+6)\\ &=\frac{1}{12}(0+1)(1+2+3+4+5+6)\\ &=\frac{1}{2}(0+1)\\ &\qquad\cdot\frac{1}{6}(1+2+3+4+5+6)\\ &=E(X)\cdot E(Y) \end{align}

つまり, $E(X+Y)=E(X)E(Y)$ が成り立つ.

暗記独立な確率変数の積の期待値

$X,Y$ を独立な確率変数とするとき

\[E(XY)=E(X)E(Y)\]

が成り立つことを証明せよ.

確率変数 $X$ の確率分布を $P(X=x_i)=p_{x_i}\quad(i=1,2,\cdots,n)$ ,

確率変数 $Y$ の確率分布を $P(Y=y_i)=p_{y_j}\quad(j=1,2,\cdots,m)$ ,とすると, $X$ と $Y$ は独立なので

\begin{align} P(X=x_i,Y=y_j)&=P(X=x_i)\cdot P(Y=y_i)\\ &=p_{x_i}p_{y_i} \end{align}

が成り立つ.

$XY$ の確率分布表は以下のようになる.

$y_1$ $y_2$ $\cdots$ $y_m$
$x_1$ $x_1y_1$ $x_1y_2$ $x_1y_m$
$p_{x_1}p_{y_1}$ $p_{x_1}p_{y_2}$ $p_{x_1}p_{y_m}$ $p_{x_1}$
$x_2$ $x_2y_1$ $x_2y_2$ $x_2y_m$
$p_{x_2}p_{y_1}$ $p_{x_2}p_{y_2}$ $p_{x_2}p_{y_m}$ $p_{x_2}$
$\vdots$ $\vdots$
$x_n$ $x_ny_1$ $x_ny_2$ $x_ny_m$
$p_{x_n}p_{y_1}$ $p_{x_n}p_{y_2}$ $p_{x_n}p_{y_m}$ $p_{x_n}$
$p_{y_1}$ $p_{y_2}$ $p_{y_m}$ $1$

このとき, $XY$ の期待値 $E(XY)$ は

\begin{align} &E(XY)\\ =&(x_1y_1)p_{x_1}p_{y_1}+(x_1y_2)p_{x_1}p_{y_2}\\ &\qquad+\cdots+(x_1y_m)p_{x_1}p_{y_m}\\ &+(x_2y_1)p_{x_2}p_{y_1}+(x_2y_2)p_{x_2}p_{y_2}\\ &\qquad+\cdots+(x_2y_m)p_{x_2}p_{y_m}\\ &+\cdots\\ &+(x_ny_1)p_{x_n}p_{y_1}+(x_ny_2)p_{x_n}p_{y_2}\\ &\qquad+\cdots+(x_ny_m)p_{x_n}p_{y_m}\\ =&x_1p_{x_1}(y_1p_{y_1}+y_2p_{y_2}+\cdots+y_mp_{y_m})\\ &+x_2p_{x_2}(y_1p_{y_1}+y_2p_{y_2}+\cdots+y_mp_{y_m})\\ &+\cdots\\ &+x_np_{x_n}(y_1p_{y_1}+y_2p_{y_2}+\cdots+y_mp_{y_m})\\ =&(x_1p_{x_1}+x_2p_{x_2}+\cdots+x_np_{x_n})\\ &\times(y_1p_{y_1}+y_2p_{y_2}+\cdots+y_np_{y_m})\\ =&E(X)E(Y) \end{align}

独立な確率変数の積の期待値の公式

$X,Y$ を確率変数とするとき

\[E(XY)=E(X)E(Y)\]

が成り立つ.

公式を使った期待値の計算

期待値の計算~その2~と同じ問題を,今度は公式を上手に使って解け.

  1. 1,2,3,4と数字の書いてあるカードがそれぞれ1枚ずつ計4枚ある.カードを2枚引くとき,そのカードの番号の和を確率変数 $X$ として,期待値 $E(X)$ を求めよ. また,カードの番号の積を確率変数 $Y$ として,期待値 $E(Y)$ を求めよ.
  2. 1,2,3の数字の書いてあるくじ(引いたら元に戻すものとする)を2回引き, その数字の和を確率変数 $X$ として,期待値 $E(X)$ を求めよ. また,数字の積を確率変数 $Y$ として,期待値 $E(Y)$ を求めよ.

  1. はじめに引いたカードの番号を確率変数 $A$ ,2枚目に引いたカードの番号を確率変数 $B$ とすると $A,B$ の確率分布は次のようになる.
  2. \begin{array}{|c|c|c|c|c|c|}\hline A,B&1&2&3&4&計\\\hline P&\frac{1}{4}&\frac{1}{4}&\frac{1}{4}&\frac{1}{4}&1\\\hline \end{array} \[E(A)=E(B)=\frac{1}{4}(1+2+3+4)=\frac{5}{2}\]

    $X=A+B$ であるから

    \begin{align} E(X)&=E(A+B)\\ &=E(A)+E(B)\\ &=\frac{5}{2}+\frac{5}{2}\\ &=\boldsymbol{5} \end{align}

    $\blacktriangleleft$ 確率変数の和の期待値の公式

    また,確率変数 $Y$ の確率分布は次のようになる.

    $\blacktriangleleft$ 確率変数 $A$ と $B$ は独立ではないので $E(AB)=E(A)E(B)$ は成り立たず,定義式で計算するしかない.

    \begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|}\hline X&2&3&4&6&8&12\\\hline P&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}\\\hline \end{array} \begin{align} E(Y)&=\frac{1}{6}(2+3+4+6+8+12)\\ &=\boldsymbol{\frac{35}{6}} \end{align}
  3. はじめに引くくじの番号を確率変数 $A$ ,2回目に引くくじの番号を確率変数 $B$ とすると, $A,B$ の確率分布は次のようになる.
  4. \begin{array}{|c|c|c|c|c|}\hline A,B&1&2&3&計\\\hline P&\frac{1}{3}&\frac{1}{3}&\frac{1}{3}&1\\\hline \end{array} \[E(A)=E(B)=\frac{1}{3}(1+2+3)=2\]

    $X=A+B$ であるから

    \begin{align} E(X)&=E(A+B)\\ &=E(A)+E(B)\\ &=2+2\\ &=\boldsymbol{4} \end{align}

    $\blacktriangleleft$ 確率変数の和の期待値の公式

    また, $Y=AB$ であり確率変数 $A$ と $B$ は独立なので

    \begin{align} E(Y)&=E(AB)\\ &=E(A)\cdot E(B)\\ &=2\cdot2\\ &=\boldsymbol{4} \end{align}

    $\blacktriangleleft$ 独立な確率変数の積の期待値の公式