常用対数
対数の発見は、実用計算法として極めて重要な功績である。対数を用いれば、かけ算をたし算で、わり算をひき算で求められる。まだ現代のように計算機が発達していなかった時代、天文学者や物理学者などは、時間のかかる単調な計算に苦労していたが、この対数の出現によってその苦労は大幅に軽減された。以下では、対数の中でも、私たちが普段にもちいている記数法である十進法と特に相性のよい、「常用対数」について学んでいく。
指数の利用
指数で数を表すことの利点
地球と太陽の距離は約1億5000万kmであるが,これを10進法で表すと
\begin{align} 150000000~[\text{km}] \end{align}となる.しかし,このように表すと一見何桁の数なのかわからず不便である.
このように大きな数を表すには,$10$を底とする指数を用いて
\begin{align} 1.5\times10^8~\text{km} \end{align}とするとよい.このように表すことによって,$10^8$の部分を見ればこの数が$9$桁であることをすぐに読み取れる. また,計算する上でも便利になる.指数で数を表すことについて,一般に次のことがいえる.
指数を使って数を表す方法〜その1〜
$x\geqq1$を満たす$x$は,整数部分が$1$桁の数$a~(1\leqq{a}<10)$と,負でない整数$n$を使って
\begin{align} a\times10^n \end{align}という形ただ$1$通りに表すことができ,このときこの数は最高位が$n+1$桁の数である.
また,赤血球の直径は$1\text{m}$の約1万2500分の1であるが,これを$10$進法で表すと
\begin{align} \dfrac{1}{125000}=0.000008~[\text{m}] \end{align}となり,これも一見小数第何位に$0$でない数があるのかわかりづらい.
このような$0$に近い数を表すときにも,$10$を底とする指数を用いて
\begin{align} 8\times10^{-6} \end{align}と表せば,$10 ^{− 6}$の部分をみることによって,この数が小数第$6$位にはじめて$0$でない数があらわれることがすぐに読み取れる. こちらの場合もまとめると次のようになる.
指数を使って数を表す方法〜その2〜
$0 < x < 1$を満たす$x$は,整数部分が$1$桁の数$a~(1\leqq{a}<10)$と,負の整数$n$を使って
\begin{align} a\times10^n \end{align}という形でただ1通りに表すことができ,このとき小数第$n$位にはじめて$0$でない数があらわれる.
指数を使って数を表す
次の問いに答えよ.
- 地球から月までの距離は約$380000~[\text{km}]$である.これを,$a\times10^{n}~[\text{km}]$の形で表せ.ただし,$1\leqq{a}<10,n$は整数とする.
- 地球から太陽までの距離は約$150000000~[\text{km}]$である.このことと1.を利用して,地球から太陽までの距離は,地球から月までの距離の約何倍か求めよ.
- 水素原子の質量は約$0.0000000000000000000000017~[\text{g}]$である.これを,$a\times10^{n}~[\text{g}]$の形で表せ.ただし,$1\leqq{a}<10,n$は整数とする.
- 炭素原子の質量は約$0.000000000000000000000020~[\text{g}]$である.このことと3.を利用して,炭素原子の質量は,水素原子の質量の約何倍か求めよ.
- $380000=\boldsymbol{3.8\times10^{5}}$.
- $150000000=1.5\times10^{8}$であるから
\begin{align}
\dfrac{1.5\times10^8}{3.8\times10^5}=\dfrac{1.5}{3.8}\times10^3=394.7\cdots
\end{align}
より,約$\boldsymbol{395}$倍.
- $0.0000000000000000000000017$
$=\boldsymbol{1.7\times10^{-24}}$. - $0.000000000000000000000020$
$=2.0\times10^{-23}$であるから \begin{align} \dfrac{2.0\times10^{-23}}{1.7\times10^{-24}}=\dfrac{2.0}{1.7}\times10=11.76\cdots \end{align}より,約$\boldsymbol{11.8}$倍.
常用対数の利用
常用対数の定義
常用対数の定義
常用対数の定義
$10$を底とする対数$\log_{10}x$を常用対数(common logarithm) という.
巻末の付録常用対数表には,$1.00$から$9.99$までの常用対数の値が, その小数第5位を四捨五入して,小数第4位まで載せてある. これを利用して,さまざまな正の数の対数の値を求めることができる.
常用対数表から対数の値を求める
巻末の付録常用対数表を用いて,次の値について小数第4位を四捨五入して小数第3位まで求めよ.
- $\log_{10}3250$
- $\log_{10}0.0237$
- $\log_{10}\dfrac{11}{7}$
- $\log_{10}\sqrt{5}$
- $\log_{2}3.4$
- $\log_{3.19}\sqrt[4]{3}$
- 計算していくと
\begin{align}
\log_{10}3250&=\log_{10}(3.25\times10^{3})\\
&=\log_{10}3.25+\log_{10}10^3\\
&=\log_{10}3.25+3\\
&=0.5119+3=3.5119
\end{align}
←和と差に関する対数の性質
よって,$\log_{10}3250\fallingdotseq\boldsymbol{3.512}$となる.
- 計算していくと
\begin{align}
\log_{10}0.0237&=\log_{10}(2.37\times10^{-2})\\
&=\log_{10}2.37+\log_{10}10^{-2}\\
&=\log_{10}2.37-2\\
&=0.3747-2=-1.6253
\end{align}
←和と差に関する対数の性質
よって,$\log_{10}0.0237\fallingdotseq\boldsymbol{-1.625}$となる.
- 計算していくと
\begin{align}
\log_{10}\dfrac{11}{7}&=\log_{10}11-\log_{10}7\\
&=\log_{10}(1.1\times10)-\log_{10}7\\
&=\log_{10}1.1+\log_{10}10-\log_{10}7\\
&=\log_{10}1.1+1-\log_{10}7\\
&=0.0414+1-0.8451\\
&=0.1963
\end{align}
←和と差に関する対数の性質
よって,$\log_{10}\dfrac{11}{7}\fallingdotseq\boldsymbol{0.196}$となる.
- 計算していくと
\begin{align}
\log_{10}\sqrt{5}&=\log_{10}5^\dfrac{1}{2}\\
&=\dfrac{1}{2}{\log_{10}5}\\
&=\dfrac{1}{2}\times0.6990=0.3495
\end{align}
←実数倍に関する対数の性質
よって,$\log_{10}\sqrt{5}\fallingdotseq\boldsymbol{0.350}$となる.
- 計算していくと
\begin{align}
\log_23.4&=\dfrac{\log_{10}3.4}{\log_{10}2}\\
&=\dfrac{0.5315}{0.3010}=1.7657\cdots
\end{align}
←底の変換公式
よって,$\log_23.4\fallingdotseq\boldsymbol{1.766}$となる.
- 計算していくと
\begin{align}
\log_{3.19}\sqrt[4]{3}&=\dfrac{\log_{10}\sqrt[4]{3}}{\log_{10}{3.19}}\\
&=\dfrac{\log_{10}3^\dfrac{1}{4}}{\log_{10}{3.19}}\\
&=\dfrac{\dfrac{1}{4}\log_{10}3}{\log_{10}{3.19}}\\
&=\dfrac{\dfrac{1}{4}\times0.4771}{0.5038}=0.2367\cdots
\end{align}
←底の変換公式
←実数倍に関する対数の性質
よって,$\log_{3.19}\sqrt[4]{3}\fallingdotseq\boldsymbol{0.237}$となる.
対数をもちいて積や商の計算を簡単にする
常用対数表を用いて,次の値について小数第2位を四捨五入して小数第1位まで求めよ.
- $124^2\times(0.37)^8$
- $\dfrac{721^5}{3.1^4\times143^5\times\sqrt{143}}$
- $x=124^2\times(0.37)^8$とおき,$x$の常用対数を考えると
\begin{align}
\log_{10}x&=\log_{10}\left\{124^2\times(0.37)^8\right\}\\
&=\log_{10}124^2+\log_{10}(0.37)^8\\
&=2\log_{10}124+8\log_{10}0.37\\
&=2\log_{10}(1.24\times10^2)\\
&+8\log_{10}(3.7\times10^{-1})\\
&=2(\log_{10}1.24+\log_{10}10^2)\\
& +8(\log_{10}3.7+\log_{10}10^{-1})\\
&=2(0.0934+2)+8(0.5682-1)\\
&=0.7324
\end{align}
よって,表から$x = 5.40$とわかるので,求める値は$\boldsymbol{5.4}$となる.
- $x=\dfrac{721^5}{3.1^4\times143^5\times\sqrt{143}}$とおき,$x$の常用対数を考えると
\begin{align}
&\log_{10}x\\
&=\log_{10}\dfrac{721^5}{3.1^4\times143^5\times\sqrt{143}}\\
&=\log_{10}\dfrac{721^5}{3.1^4\times143^{5.5}}\\
&=5\log_{10}721\\
&\qquad-(4\log_{10}3.1+5.5\log_{10}143)\\
&=5\log_{10}(7.21\times10^2)-4\log_{10}3.1\\
&-5.5\log_{10}(1.43\times10^2)\\
&=5(\log_{10}7.21+2)-4\log_{10}3.1\\
&-5.5(\log_{10}1.43+2)\\
&=5(0.8579+2)-4\cdot0.4914\\
&-5.5(0.1553+2)\\
&=0.46975
\end{align}
よって,表から$x = 2.95$とわかるので,求める値は$\boldsymbol{3.0}$となる.
吹き出し常用対数の定義
現代のように計算機(コンピュータ)の発達していなかった時代の天文学者や物理学者は, 大きな数の掛け算や割り算を上の例題のように工夫して計算していた. 当時,付録常用対数表の作成には,ネイピア(Johon Napier) やブリッグス(Henry Briggs) などが何十年もの歳月をかけて行った. 後の数学者ラプラス(Pierre Simonn de Laplace) は,この業績を評価して 「(対数の発見は)天文学者の寿命を2倍にした」と語ったという.
桁数と最高位の数の評価
桁数と最高位の数の評価
$\log_{10}2\fallingdotseq0.3010,\log_{10}3\fallingdotseq0.4771$を利用して次の問いに答えよ.
- $5^{101}$は何桁の整数か求めよ.また,$5^{101}$の最高位の数を求めよ.
- $\left(\dfrac{1}{3}\right)^{20}$は小数第何位にはじめて$0$でない数があらわれるか求めよ. また,その数はいくつか求めよ.
- $5^{101}$の常用対数を考えると
\begin{align}
&\log_{10}5^{101}\\
&=101\log_{10}5\\
&=101(\log_{10}10-\log_{10}2)\\
&=101(1-0.3010)\\
&=70.599
\end{align}
より,$5^{101}=10^{70.599}$とわかる.
ここで,$10^{70.599}は10^{0.599+70}$だから
\begin{align} \underbrace{10^{0.599}}_{A}\times\underbrace{10^{70}}_{B} \end{align}と2つの部分に分けることができ,$A$の部分は
\begin{align} (1=)~~10^0\leqq10^{0.599}<10^1~~(=10) \end{align}を満たすので,$B$の指数部分から,$10^{0.599}\times10^{70}$つまり$5^{101}$は
$71$桁
とわかる.
←指数を使って数を表す方法〜その1〜
さらに
\begin{align} &1=10^0\\ &2=10^{0.3010}\\ &3=10^{0.4771}\\ &4=2^2=10^{0.3010\times2}=10^{0.6020} \end{align}などと求まるが,いま$A$の部分は
\[(3=)~10^{0.4771}\lt10^{0.599}\lt10^{0.6020}~(=4)\]を満たすので,$10^{0.599}=3.\cdots$となり,$5^{101}$の最高位の数は$\boldsymbol{3}$とわかる.
←$5^{101}=10^{0.599}\times10^{70}=3.\cdots\times10^{70}$
- $\left(\dfrac{1}{3}\right)^{20}$の常用対数を考えると
\begin{align}
&\log_{10}\left(\dfrac{1}{3}\right)^{20}\\
&=\log_{10}3^{-20}\\
&=-20\log_{10}3\\
&=-20\times0.4771\\
&=-9.542
\end{align}
より,$5^{101}=10^{-9.542}$とわかる.
ここで,$10^{-9.542}は10^{0.458-10}$だから
\begin{align} \underbrace{10^{0.458}}_{A}\times\underbrace{10^{-10}}_{B} \end{align}と2つの部分に分けることができ,$A$の部分は
\begin{align} (1=)~~10^0\leqq10^{0.458}<10^1~~(=10) \end{align}を満たすので,$B$の指数部分から,$10^{0.458}\times10^{-10}$つまり$5^{101}$は
小数第10位
にはじめて$0$でない数字があらわれる.
←指数を使って数を表す方法〜その2〜
さらに
\begin{align} &1=10^0\\ &2=10^{0.3010}\\ &3=10^{0.4771} \end{align}などと求まるが,いま$A$の部分は
\[(2=)~10^{0.3010}\lt10^{0.458}\lt10^{0.4771}~(=3)\]を満たすので,$10^{0.458}=2.\cdots$となり,$\left(\dfrac{1}{3}\right)^{20}$の求める数は$\boldsymbol{2}$とわかる.
\begin{align} \left(\dfrac{1}{3}\right)^{20}&=10^{0.458}\times10^{-10}\\ &=2.\cdots\times10^{-10} \end{align}