鋭角の三角比
この節ではまず、直角三角形について考え、$90^\circ$より小さな角(鋭角)について三角比の基礎を学ぶ。どのような多角形も、対角線を引くことによっていくつかの三角形に分割できる。逆にいえば、適当な三角形を組み合せていくことにより、任意の多角形を作ることができる。そのため、三角形は多角形の中でも最も基本的な図形であるといえる。ここではまず、三角形の分析のための基礎となる、直角三角形について考えてみる。
正接$(\tan)$
三角形の表記に関する注意
三角形の例
$\triangle\text{A}\text{B}\text{C}$ において、以下のように略することが多い。 \[\angle\text{A},~\angle\text{B},~\angle\text{C}の大きさ\longrightarrowそれぞれA,~B,~C\] \[辺\text{BC},~\text{CA},~\text{AB}の長さ\longrightarrowそれぞれa,~b,~c\] 今後、特に断りのない限りこの記法にしたがうこととする。
直角三角形の表記に関する注意
直角三角形の例
図のような直角三角形 $\text{ABC}$ を $\angle\text{A}$ からみるとき
- 辺 $\text{AB}$ のことを斜辺 (hypotenuse)
- 辺 $\text{BC}$ のことを対辺 (opposite side)
- 辺 $\text{CA}$ のことを底辺 (base)
このうち底辺、対辺は、$\angle\text{A}$ から直角をみることによって相対的に決まる。図で描かれたときに、下の部分にあるから底辺というのではない。
角度を変えた直角三角形
たとえば、次の図のように斜めになっている直角三角形でも、点 $\text{A}$ からみたときの斜辺、対辺、底辺は、それぞれ辺$\text{AB}$、$\text{BC}$、$\text{CA}$ となる。
この章の図にある“目”のマークは、本文中で「~からみたときの」とある場合の説明の補助として使われている。自分も同じ所から見つめているつもりになって、図形を考えてみよう。
川を渡らずに川幅を知る方法
川の図
次の図において、川を渡ることなく、C点から対岸のB点までの距離BCを求めるにはどうしたらよいだろうか。
まず、C点から見て、直線CBと直角の方向にA点を適当に定め、C点からA点までの距離を測る。
たとえば、これは40mであったとする。次に、A点から見て、直線ABと直線ACのつくる角の大きさを測る。たとえば、これは $35^\circ$ であったとする。
$\triangle\text{ABC}$ の縮図
$\triangle\text{ABC}$ は $\angle\text{C}$ が直角の直角三角形であるから、この縮図 $\triangle\text{A'B'C'}$ を、たとえば、$\text{A'C'}=3\text{cm}$ として描くと図のようになる。
そこで、辺$\text{B'C'}$ の長さを測ると約 $\fbox{ア}\text{cm}$ になっている(実際に
ここで、$\triangle\text{ABC}$ と $\triangle\text{A'B'C'}$ は相似であるから \[\dfrac{\text{CB}}{\text{AC}}=\dfrac{\text{C'B'}}{\text{A'C'}}\fallingdotseq\dfrac{\fbox{ア}}{3}=\fbox{イ}\] が成り立つ。この値は、いわばACに対するCBの倍率であることに注意しよう。
実際には、$\text{AC}=40\text{m}$ であったから \[\text{BC}\fallingdotseq\text{AC}\times\fbox{イ}=40\text{m}\times\fbox{イ}=\fbox{ウ}\text{m}\] と計算できる。
このように、実際に川を渡らずとも距離BCが求められたのは、適当な縮図 $\triangle\text{A'B'C'}$ を使い、ACに対するCBの倍率(比)を計算したためである。この値は縮図の大きさによらない、$35^\circ$ という角度に関する固有の値である。
$\fbox{ア},~\fbox{イ},~\fbox{ウ}$ の答え \[\fbox{ア}=2.1,~\fbox{イ}=0.70,~\fbox{ウ}=28\]
正接の定義
一般に、$\angle\text{C}$ が直角である直角三角形$\text{ABC}$ において、$\angle\text{A}$ から見たときの $\dfrac{(対辺)}{(底辺)}=\dfrac{\text{CB}}{\text{AC}}$ の値は、$\triangle\text{ABC}$ の大きさに関係無く、$\angle\text{A}$ の大きさだけで決まる。
直角三角形の図
たとえば、図の $\triangle\text{AB'C'}$ は $\triangle\text{ABC}$ の0.75倍の大きさで描かれているので、 \[\dfrac{\text{C'B'}}{\text{AC'}}=\dfrac{0.75\times\text{CB}}{0.75\times\text{AC}}=\dfrac{\text{CB}}{\text{AC}}\] となり、直角三角形の大きさとは関係ないことがわかる。
ここで、この $\dfrac{(対辺)}{(底辺)}$ の値を $A$ の
正接の定義
正接の定義を表す図
図の直角三角形 $\text{ABC}$ において \[\tan{A}=\dfrac{a}{b}\] とする。
吹き出し正接の定義
正接の覚え方
$\tan{A}$ の値 $\dfrac{a}{b}$ は、図のように $\tan$ の頭文字 $t$ の筆記体の書き順に合わせ、「$b$ 分の $a$」と記憶するとよい。
$\tan{A}$ は、$\angle\text{A}$ からみたときの底辺に対する対辺の倍率を表していて、さきほどの川の例では、$(底辺):(対辺)=b:a=1:\tan{35^\circ}\fallingdotseq1:0.7$ であった。
正接の定義
正接の定義の図
次の図において、$\tan{A}$、$\tan{B}$ をそれぞれ求めよ。
正接の定義の図
図より \[\tan{A}=\boldsymbol{\dfrac{4}{3}}\] \[\tan{B}=\dfrac{2}{4}=\boldsymbol{\dfrac{1}{2}}\]
正弦$(\sin)$と余弦$(\cos)$
正弦と余弦の定義
正接の場合と同じように、$\angle\text{C}$ が直角である直角三角形 $\text{ABC}$ において、$\angle\text{A}$ から見たときの $\dfrac{(対辺)}{(斜辺)}=\dfrac{\text{BC}}{\text{AB}}$ の値や、$\dfrac{(底辺)}{(斜辺)}=\dfrac{\text{AC}}{\text{BA}}$ の値は、$\triangle\text{ABC}$ の大きさに関係無く、$\angle\text{A}$ の大きさだけで決まる。
正弦と余弦の例
たとえば、図の $\triangle\text{AB'C'}$ は $\triangle\text{ABC}$ の0.75倍の大きさで描かれているが \begin{align} &\dfrac{\text{B'C'}}{\text{AB'}}=\dfrac{0.75\times\text{BC}}{0.75\times\text{AB}}=\dfrac{\text{BC}}{\text{AB}}\\ &\dfrac{\text{AC'}}{\text{B'A}}=\dfrac{0.75\times\text{AC}}{0.75\times\text{BA}}=\dfrac{\text{AC}}{\text{BA}} \end{align} となり直角三角形の大きさは関係ないのがわかる。
ここで、$\dfrac{(対辺)}{(斜辺)}$ の値を $A$ の
また、$\dfrac{(底辺)}{(斜辺)}$ の値を $A$ の
正弦・余弦の定義
正弦と余弦の定義を表す図
右図の直角三角形 $\text{ABC}$ において \begin{align} &\sin{A}=\dfrac{a}{c}\\ &\cos{A}=\dfrac{b}{c} \end{align} とする。
吹き出し正弦と余弦の定義
正弦の覚え方
余弦の覚え方
$\sin{A}$ の値 $\dfrac{a}{c}$ や、$\cos{A}$ の値 $\dfrac{b}{c}$ も、$\tan$ のときと同じように、$\sin$ の頭文字 $s$ や、$\cos$ の頭文字 $c$ の筆記体の書き順に合わせて、図のように記憶するとよい。
$\sin{A}$ とは、$\angle\text{A}$ からみたときの斜辺に対する対辺の倍率を表し、$\cos{A}$ とは、$\angle\text{A}$ からみたときの斜辺に対する底辺の倍率を表す。
川を渡らずに川幅を知る方法の例で考えれば、斜辺は3.7cmと測れるから \[\sin35^\circ\fallingdotseq\dfrac{2.1}{3.7}\fallingdotseq0.57,~\cos35^\circ\fallingdotseq\dfrac{3}{3.7}\fallingdotseq0.81\]
正弦・余弦の定義
正弦・余弦の定義の図
次の図において、
- 長さ $x$、$y$ を求めよ。
- $\sin{A}$、$\cos{A}$ を求めよ。
- $\sin{B}$、$\cos{B}$ を求めよ。
- 三平方の定理より、 \begin{align} &x=\sqrt{4^2+3^2}=\sqrt{25}=\boldsymbol{5}\\ &y=\sqrt{4^2+2^2}=\sqrt{20}=\boldsymbol{2\sqrt{5}} \end{align}
- 図より定義にしたがって \begin{align} &\boldsymbol{\cos{A}=\dfrac{3}{5}}\\ &\boldsymbol{\sin{A}=\dfrac{4}{5}} \end{align}
- 図より定義にしたがって \begin{align} &\cos{B}=\dfrac{4}{2\sqrt{5}}=\boldsymbol{\dfrac{2\sqrt{5}}{5}}\\ &\sin{B}=\dfrac{2}{2\sqrt{5}}=\boldsymbol{\dfrac{\sqrt{5}}{5}} \end{align}
三角比の値
三角比の値
正接と正弦および余弦をまとめて、三角比 (trigonometric ratio) という。いろいろな角度に関する三角比の値を三角比の表にまとめてある。
この表よりたとえば、$\cos40^\circ$ の値は約 $0.766$、また $\sin{A}=0.97$ のときの $A$ の大きさは約 $76^\circ$ とわかる。
暗記三角比の値
次の問に答えよ。
- 3辺の長さが $1$、$2$、$\sqrt{3}$ の直角三角形を用い、$\sin30^\circ$、$\cos30^\circ$、$\tan30^\circ$ を求めよ。また、$\sin60^\circ$、$\cos60^\circ$、$\tan60^\circ$ を求めよ。
- 3辺の長さが $1$、$1$、$\sqrt{2}$ の直角三角形を用い、$\sin45^\circ$、$\cos45^\circ$、$\tan45^\circ$ を求めよ。
- 次の直角三角形より \begin{align} &\sin30^\circ=\boldsymbol{\dfrac{1}{2}}\\ &\cos30^\circ=\boldsymbol{\dfrac{\sqrt{3}}{2}}\\ &\tan30^\circ=\dfrac{1}{\sqrt{3}}=\boldsymbol{\dfrac{\sqrt{3}}{3}} \end{align} また、次の図のように向きを変えて \begin{align} &\sin60^\circ=\boldsymbol{\dfrac{\sqrt{3}}{2}}\\ &\cos60^\circ=\boldsymbol{\dfrac{1}{2}}\\ &\tan60^\circ=\dfrac{\sqrt{3}}{1}=\boldsymbol{\sqrt{3}} \end{align}
- 次の直角三角形より \begin{align} &\sin45^\circ=\dfrac{1}{\sqrt{2}}=\boldsymbol{\dfrac{\sqrt{2}}{2}}\\ &\cos45^\circ=\dfrac{1}{\sqrt{2}}=\boldsymbol{\dfrac{\sqrt{2}}{2}}\\ &\tan45^\circ=\dfrac{1}{1}=\boldsymbol{1} \end{align}
吹き出し三角比の値
上の例題で導いた $30^\circ$、$45^\circ$、$60^\circ$ は有名角といい、これらの三角比の値は、瞬時に引き出せるようにしておこう。
三角比どうしの関係
- $\angle\text{C}=90^\circ$ である直角三角形 $\text{ABC}$ について、次の問に答えよ。
- $\sin{A}=\dfrac{2}{3}$ であったとする。斜辺の長さが $c=3$ であるとき、他の2辺の長さを求めよ。
- a の三角形を利用して、$\cos{A}$、$\tan{A}$ の値を求めよ。
- 上の1 のやり方をまねて、次の問に答えよ。ただし、$0^\circ\lt{A}\lt90^\circ$ である。
- $\sin{A}=\dfrac{3}{5}$ のとき、$\cos{A}$、$\tan{A}$ の値を求めよ。
- $\cos{A}=\dfrac{1}{3}$ のとき、$\sin{A}$、$\tan{A}$ の値を求めよ。
- $\tan{A}=7$ のとき、$\cos{A}$、$\sin{A}$ の値を求めよ。
- 直角三角形 $\text{ABC}$ を図のように考える。 $\sin{A}$ の値は $\dfrac{a}{c}$ に等しく、$c=3$ より $a=2$。このとき、三平方の定理より $2^2+b^2=3^2$ であるから \[b=\sqrt{3^2-2^2}=\sqrt{5}\] である。よって、直角三角形 $\text{ABC}$ の他の2辺の長さは、$\boldsymbol{a=2}$、$\boldsymbol{b=\sqrt{5}}$ である。
- a で求めた値を書き込めば図のようになる。 これに $\cos$、$\tan$ の定義を用いれば \begin{align} &\boldsymbol{\cos{A}=\dfrac{\sqrt{5}}{3}}\\ &\tan{A}=\dfrac{2}{\sqrt{5}}=\boldsymbol{\dfrac{2\sqrt{5}}{5}} \end{align} である。
- $\sin{A}=\dfrac{3}{5}$ となる直角三角形の1つとして、次の図が考えられる。 このとき、底辺の長さを $x$ とすると、三平方の定理より $x^2+3^2=5^2$ であるから \[x=\sqrt{5^2-3^2}=4\] よって、$\boldsymbol{\cos{A}=\dfrac{4}{5}}$、$\boldsymbol{\tan{A}=\dfrac{3}{4}}$ となる。
- $\cos{A}=\dfrac{1}{3}$ となる直角三角形の1つとして、次の図が考えられる。 このとき、対辺の長さを $y$ とすると、三平方の定理より $1^2+y^2=3^2$ であるから \[y=\sqrt{3^2-1^2}=2\sqrt{2}\] よって、次のように求められる。 \begin{align} &\boldsymbol{\sin{A}=\dfrac{2\sqrt{2}}{3}}\\ &\tan{A}=\dfrac{2\sqrt{2}}{1}=\boldsymbol{2\sqrt{2}} \end{align}
- $\tan{A}=7$ となる直角三角形の1つとして、次の図が考えられる。 このとき、斜辺の長さを $z$ とすると、三平方の定理より $1^2+7^2=z^2$ であるから \[z=\sqrt{1^2+7^2}=5\sqrt{2}\] よって、次のように求められる。 \begin{align} &\cos{A}=\dfrac{1}{5\sqrt{2}}=\boldsymbol{\dfrac{\sqrt{2}}{10}}\\ &\sin{A}=\dfrac{7}{5\sqrt{2}}=\boldsymbol{\dfrac{7\sqrt{2}}{10}} \end{align}
三角比の相互関係
${\sin}A$、${\cos}A$、${\tan}A$の間にはどのような関係があるか
三角比どうしの関係の例題でみたように、同じ角度に対する三角比の値は、互いにばらばらなものではなく、ある関係によって結ばれている。
以下では、この三角比の間に成り立つ関係を、一般的に導いてみよう。
図の直角三角形において \[a=c\sin{A}~,~b=c\cos{A}\] であるから、$\tan{A}$ は \[\tan{A}=\dfrac{a}{b}=\dfrac{c\sin{A}}{c\cos{A}}=\dfrac{\sin{A}}{\cos{A}}\] と表すことができる。つまり \[\tan{A}=\dfrac{\sin{A}}{\cos{A}}\tag{1}\label{sinAcosAtanAnoaidanihadonoyounakankeigaaruka1}\] が成り立つ。また、三平方の定理より $a^2+b^2=c^2$ であるから、これに $a=c\sin{A}$ と $b=c\cos{A}$ を代入して \begin{align} &\left(c\sin{A}\right)^2+\left(c\cos{A}\right)^2=c^2\\ \Leftrightarrow\ &c^2\left(\sin{A}\right)^2+c^2\left(\cos{A}\right)^2=c^2\\ \Leftrightarrow\ &\left(\sin{A}\right)^2+\left(\cos{A}\right)^2=1 \end{align} が成り立つ。普通 $(\sin{A})^2$、$(\cos{A})^2$、$(\tan{A})^2$ などは、それぞれ $\sin^2A$、$\cos^2A$、$\tan^2A$ と書く。
つまり \[\sin^2{A}+\cos^2{A}=1\tag{2}\label{sinAcosAtanAnoaidanihadonoyounakankeigaaruka2}\] が成り立つ。
暗記$\tan{A}$ と他の三角比との関係
$\sin^2A+\cos^2A=1$ という関係から、次の式を導け。
- $1+\dfrac{1}{\tan^2{A}}=\dfrac{1}{\sin^2{A}}$
- $\tan^2{A}+1=\dfrac{1}{\cos^2{A}}$
- $\sin^2A+\cos^2A=1$ の両辺を $\sin^2A$ で割ると
$\blacktriangleleft$ $\eqref{sinAcosAtanAnoaidanihadonoyounakankeigaaruka1}$ より、$\dfrac{\cos{A}}{\sin{A}}=\dfrac{1}{\tan{A}}$\begin{align} &1+\dfrac{\cos^2{A}}{\sin^2{A}}=\dfrac{1}{\sin^2{A}}\\ \Leftrightarrow&1+\dfrac{1}{\tan^2{A}}=\dfrac{1}{\sin^2{A}} \end{align}
- $\sin^2A+\cos^2A=1$ の両辺を $\cos^2A$ で割ると
$\blacktriangleleft$ $\eqref{sinAcosAtanAnoaidanihadonoyounakankeigaaruka1}$ より、$\dfrac{\sin{A}}{\cos{A}}=\tan{A}$\begin{align} &\dfrac{\sin^2{A}}{\cos^2{A}}+1=\dfrac{1}{\cos^2{A}}\\ \Leftrightarrow&\tan^2{A}+1=\dfrac{1}{\cos^2{A}} \end{align}
三角比の相互関係
直角三角形
正接、正弦、余弦の関係
図の直角三角形において
- $\sin{A}$、$\cos{A}$、$\tan{A}$ の関係 \[\tan{A}=\dfrac{\sin{A}}{\cos{A}}\]
- $\sin{A}$ と $\cos{A}$ の関係 \[\sin^2{A}+\cos^2{A}=1\]
- $\tan{A}$ と $\sin{A}$ の関係 \[1+\dfrac{1}{\tan^2{A}}=\dfrac{1}{\sin^2{A}}\]
- $\cos{A}$ と $\tan{A}$ の関係 \[\tan^2{A}+1=\dfrac{1}{\cos^2{A}}\]
吹き出し$\sin{A}$、$\cos{A}$、$\tan{A}$ の間にはどのような関係があるか
3 と4 は記憶しなくても、例題でみたように1 と2 からすぐに導ける。2 両辺を $\sin^2A$ や $\cos^2A$ で割ればよい、ということを記憶しておこう。
三角比どうしの関係の例題を、今度はこの関係を使って解いてみよう。
三角比の相互関係の利用
三角比の相互関係を使って、次の問いに答えよ。ただし、$0^\circ\lt{A}\lt90^\circ$ である。
- $\sin{A}=\dfrac{3}{5}$ のとき、$\cos{A}$、$\tan{A}$ の値を求めよ。
- $\cos{A}=\dfrac{1}{3}$ のとき、$\sin{A}$、$\tan{A}$ の値を求めよ。
- $\tan{A}=7$ のとき、$\cos{A}$、$\sin{A}$ の値を求めよ。
$\sin^2A+\cos^2A=1$ より
$\blacktriangleleft$ 三角比の相互関係参照\begin{align} &\cos^2{A}=1-\sin^2{A}\\ =&1-\left(\dfrac{3}{5}\right)^2=\dfrac{16}{25} \end{align} $\cos{A}\gt0$ なので、$\cos{A}=\sqrt{\dfrac{16}{25}}=\boldsymbol{\dfrac{4}{5}}$ である。また、$\tan{A}=\dfrac{\sin{A}}{\cos{A}}$ より
$\blacktriangleleft$ 三角比の相互関係参照\[\tan{A}=\dfrac{\dfrac{3}{5}}{\dfrac{4}{5}}=\boldsymbol{\dfrac{3}{4}}\]$\blacktriangleleft$ 有理数どうしの比の値参照$\sin^2A+\cos^2A=1$ より
$\blacktriangleleft$ 三角比の相互関係参照\begin{align} &\sin^2{A}=1-\cos^2{A}\\ =&1-\left(\dfrac{1}{3}\right)^2=\dfrac{8}{9} \end{align} $\sin{A}\gt0$ なので、$\sin{A}=\sqrt{\dfrac{8}{9}}=\boldsymbol{\dfrac{2\sqrt{2}}{3}}$ である。また、$\tan{A}=\dfrac{\sin{A}}{\cos{A}}$ より
$\blacktriangleleft$ 三角比の相互関係参照\[\tan{A}=\dfrac{\dfrac{2\sqrt{2}}{3}}{\dfrac{1}{3}}=\boldsymbol{2\sqrt{2}}\]$\blacktriangleleft$ 有理数どうしの比の値参照$\tan^2{A}+1=\dfrac{1}{\cos^2{A}}$ より
$\blacktriangleleft$ 三角比の相互関係参照\begin{align} &\cos^2{A}=\dfrac{1}{1+\tan^2{A}}\\ =&\dfrac{1}{1+7^2}=\dfrac{1}{50} \end{align} $\cos{A}\gt0$ なので、$\cos{A}=\sqrt{\dfrac{1}{50}}=\dfrac{1}{5\sqrt{2}}=\boldsymbol{\dfrac{\sqrt{2}}{10}}$ である。また、$\tan{A}=\dfrac{\sin{A}}{\cos{A}}$ より
$\blacktriangleleft$ 三角比の相互関係参照\begin{align} &7=\dfrac{\sin{A}}{\dfrac{\sqrt{2}}{10}}\\ \therefore~~&\sin{A}=7\times\dfrac{\sqrt{2}}{10}=\boldsymbol{\dfrac{7\sqrt{2}}{10}} \end{align}
$90^\circ-A$の三角比
$B$ から見た直角三角形
図の直角三角形において \[B=90^\circ-A\] であるから、以下のように表すことができる。 \begin{align} &\sin(90^\circ-A)=\sin{B}=\dfrac{b}{c}=\cos{A}\\ &\cos(90^\circ-A)=\cos{B}=\dfrac{a}{c}=\sin{A}\\ &\tan(90^\circ-A)=\tan{B}=\dfrac{b}{a}=\dfrac{1}{\tan{A}} \end{align}
$90^\circ-A$ の三角比
$90^\circ-A$ の三角比
三角比について \begin{align} &\sin(90^\circ-A)=\cos{A}\\ &\cos(90^\circ-A)=\sin{A}\\ &\tan(90^\circ-A)=\dfrac{1}{\tan{A}} \end{align} が成り立つ。
吹き出し$90^\circ-A$ の三角比
「$90^\circ-A$ の三角比は $A$ だけを使った三角比で表せる」ということを覚えておくのが大切であり、この式は暗記するようなものではない。必要なときに素早く導出できるようにしておこう。
これより、$45^\circ\lt{A}\lt90^\circ$ の三角比は、$0^\circ\lt{A}\lt45^\circ$ の三角比になおすことができる。
次の例題で確かめてみよう。
$90^\circ-A$ の三角比の利用
次の三角比を $45^\circ$ 以下の角の三角比で表せ。
- $\sin{80^\circ}$
- $\cos{46^\circ}$
- $\tan{82^\circ}$
- $\blacktriangleleft$ $90^\circ-A$ の三角比\begin{align} \sin{80^\circ}=\sin(90^\circ-10^\circ)=\boldsymbol{\cos{10^\circ}} \end{align}
- $\blacktriangleleft$ $90^\circ-A$ の三角比\begin{align} \cos{46^\circ}=\cos(90^\circ-44^\circ)=\boldsymbol{\sin{44^\circ}} \end{align}
- $\blacktriangleleft$ $90^\circ-A$ の三角比\begin{align} \tan{82^\circ}=\tan(90^\circ-8^\circ)=\boldsymbol{\dfrac{1}{\tan{8^\circ}}} \end{align}
三角比の利用
三角比から辺の長さを求める
直角三角形
次の図の三角形において、$\tan{A}=\dfrac{a}{b}$ であるが、この式の両辺に $b$ を掛けて \[b\tan{A}=a\] という式を得る。$\sin$、$\cos$ についても同じようにして \[c\sin{A}=a,~c\cos{A}=b\] となる。これらの式は、三角比から辺の長さを求めるときに用いられる。
三角比から辺の長さを求める
直角三角形
次の図の直角三角形において \[a=c\sin{A}~,~b=c\cos{A}~,~a=b\tan{A}\] が成り立つ。
三角比と辺の長さ
三角比と辺の長さの図
次の図形について、次の問いに答えよ。
- $\text{AD}=6$ のとき、長さが $6\sin{A}$、$6\cos{A}\sin{B}$ に等しい線分を、それぞれ答えよ。
- $\text{AC}=5$ のとき、$\text{CD}$、$\text{AB}$、$\text{AD}$ の長さを、$A$、$B$ で表せ。
- $6\sin{A}=\boldsymbol{\text{CD}}$、$6\cos{A}\sin{B}=\text{AC}\sin{B}=\boldsymbol{\text{AB}}$
- $\boldsymbol{\text{CD}=5\tan{A}}$、$\boldsymbol{\text{AB}=5\sin{B}}$ また、$AD\cos{A}=5$ より、$\boldsymbol{\text{AD}=\dfrac{5}{\cos{A}}}$
三角比の応用
三角比の応用の図
三角比の表を使って、以下の問に答えよ。ただし、小数第2位を四捨五入して答えなさい。
目の高さが1.5mにある人が、木から5.0m離れた地点に立って木のてっぺんを見上げた。
すると、水平な地面と視線のなす角$\blacktriangleleft$ (この角度のことを、
仰角 という。)が $42^\circ$ であった。この木の高さはおよそ何mか。(図参照)凧たこ揚あげをしていたら、水平な地面に対し $50^\circ$ の角度で長さ50.0mのひもが伸びきった。この凧は地面からおよそ何mの高さにあるか。
ただし、ひもを持つ手は1.0mの高さにあり、糸が一直線に伸びているとする。
図のように $\text{O}$、$\text{T}$、$\text{H}$、$\text{A}$ をとると、木の高さは $\text{TA}$ の長さになる。
$\triangle{\text{OTH}}$ に注目して
$\blacktriangleleft$ 三角比の表より $\tan 42^\circ\fallingdotseq0.9004$\begin{align} \text{TH}&=\text{OH}\times\tan 42^\circ\\ &\fallingdotseq5.0~\text{m} \times 0.9004 \\ &\fallingdotseq4.5~\text{m} \end{align} よって、木の高さはおよそ $4.5+1.5= \boldsymbol{6.0\text{m}}$図のように $\text{O}$、$\text{T}$、$\text{H}$、$\text{A}$ をとると、たこの高さは $\text{TA}$ の長さになる。
$\triangle{\text{OTH}}$ に注目して
$\blacktriangleleft$ 三角比の表より $\sin 50^\circ\fallingdotseq0.7660$\begin{align} \text{TH}&=\text{OT}\times\sin 50^\circ\\ &\fallingdotseq50.0~\text{m}\times0.7660\\ &=38.3~\text{m} \end{align} よって、たこの高さはおよそ $38.3+1.0=\boldsymbol{39.3\text{m}}$