数え上げの基本
ものの数を正しく数えるには「数えもらしをしない」「同じものを繰り返して数えない」ことが大切である。数える個数が少ないときには、適当に数えても間違いは出にくいが、数える個数が多いときには、何らかの方針をもって数え上げないとミスを犯しやすくなる。ここでは、数を数え上げるときに、私達が普段何気なく使っている基本的な方法について確認していこう。
整理して考えるということ
表でまとめる
まずは、表でまとめてみる。
- 正四面体のさいころを振った場合
- 順列でまとめた場合 \begin{array}{|c||c|c|c|c|}\hline &1&2&3&4\\\hline1&1,1&2,1&3,1&4,1\\\hline 2&1,2&2,2&3,2&4,2\\\hline 3&1,3&2,3&3,3&4,3\\\hline 4&1,4&2,4&3,4&4,4\\\hline \end{array} 各マスの左側の数字が1回目に出た目、右側の数字が2回目に出た目を表す。
- 組合せでまとめた場合 \begin{array}{|c||c|c|c|c|}\hline &1&2&3&4\\\hline1&1,1&ー&ー&ー\\\hline 2&1,2&2,2&ー&ー\\\hline 3&1,3&2,3&3,3&ー\\\hline 4&1,4&2,4&3,4&4,4\\\hline \end{array} 1回目と2回目に出た目の順番は区別しないので、上の表で、例えば「2,1」と「1,2」は同じものとなり、この表には片側の「1,2」のみ記される。
- カードを引く場合
- 順列でまとめた場合 \begin{array}{|c||c|c|c|c|}\hline &1&2&3&4\\\hline1&ー&2,1&3,1&4,1\\\hline 2&1,2&ー&3,2&4,2\\\hline 3&1,3&2,3&ー&4,3\\\hline 4&1,4&2,4&3,4&ー\\\hline \end{array} 各マスの左側の数字が1回目に引いたカード、右側の数字が2回目に引いたカードを表す。同じカードは2度引けないので、例えば「1,1」などはない。
- 組合せでまとめた場合 \begin{array}{|c||c|c|c|c|}\hline &1&2&3&4\\\hline1&ー&ー&ー&ー\\\hline 2&1,2&ー&ー&ー\\\hline 3&1,3&2,3&ー&ー\\\hline 4&1,4&2,4&3,4&ー\\\hline \end{array} 1回目と2回目に引いたカードの順番は区別しないので、上の表で、例えば「2,1」と「1,2」は同じものとなり、この表には片側の「1,2」のみ記される。
樹形図でまとめる
今度は、同じ内容を枝分かれした木のような形の樹形図 (tree diagram)でまとめてみる。
- 正四面体のさいころを振った場合
順列でまとめた場合
左側の数字が1回目に出た目、右側の数字が2回目に出た目を表す。
組合せでまとめた場合
1回目と2回目に出た目の順番は区別しないので、上の図で、例えば「2,1」と「1,2」は同じものとなるので、この図には片側の「1,2」のみ記される。
- カードを引く場合
順列でまとめた場合
左側の数字が1回目に引いたカード、右側の数字が2回目に引いたカードを表す。同じカードは2度引けないので(例えば「1,1」などはない)、除外してある。
組合せでまとめた場合
1回目と2回目に引いたカードの順番は区別しないので、上の図で、例えば「2,1」と「1,2」は同じものとなるので、この図には片側の「1,2」のみ記される。
表や樹形図の利用
次の問に答えよ。
- 1から4の目が書いてある正四面体のさいころを2回振り、出る目の順列を考える。2つの目の和が5となるのは何通りか。
- 1から4の目が書いてある正四面体のさいころを2回振り、出る目の組合せを考える。2つの目の和が5となるのは何通りか。
- 1から4までの数字が書いてある4枚のカードから、連続して2枚のカードを引く。はじめに引いたカードの数字が、あとに引いたカードの数字より小さくなるのは何通りか。
- 1から4までの数字が書いてある4枚のカードから、連続して2枚のカードを引く。2枚のカードの数字の和が5以上となる組合せは何通りあるか。
順列か組合せなのかを考えて、表や樹形図でまとめてから数える。以下の解答では、表でまとめた場合の解答である。樹形図についてまとめた場合には、右の図を参照のこと。数える樹形図の枝にはチェックマーク✓が入れてある。
下の表で、和が5になるものを数えればよい。網掛けの部分を数えて、4通り。
\begin{array}{|c||c|c|c|c|}\hline &1&2&3&4\\\hline1&1,1&2,1&3,1&4,1\\\hline 2&1,2&2,2&3,2&4,2\\\hline 3&1,3&2,3&3,3&4,3\\\hline 4&1,4&2,4&3,4&4,4\\\hline \end{array}下の表で、和が5になるものを数えればよい。網掛けの部分を数えて、2通り。
\begin{array}{|c||c|c|c|c|}\hline &1&2&3&4\\\hline1&1,1&-&-&-\\\hline 2&1,2&2,2&-&-\\\hline 3&1,3&2,3&3,3&-\\\hline 4&1,4&2,4&3,4&4,4\\\hline \end{array}下の表で、はじめに引いたカードの数字が、あとに引いたカードの数字より小さくなるものを数えればよい。網掛けの部分を数えて、6通り。
\begin{array}{|c||c|c|c|c|}\hline &1&2&3&4\\\hline1&-&2,1&3,1&4,1\\\hline 2&1,2&-&3,2&4,2\\\hline 3&1,3&2,3&-&4,3\\\hline 4&1,4&2,4&3,4&-\\\hline \end{array}下の表で、2枚のカードの数字の和が5以上となるものを数えればよい。網掛けの部分を数えて、4通り。
\begin{array}{|c||c|c|c|c|}\hline &1&2&3&4\\\hline1&-&-&-&-\\\hline 2&1,2&-&-&-\\\hline 3&1,3&2,3&-&-\\\hline 4&1,4&2,4&3,4&-\\\hline \end{array}
積の法則・和の法則
物を数えるときに使う考え方
先程の『整理して考えるということ』では、表や樹形図などを使って、情報を整理することを学んだ。このように整理してしまえば、理論的にはすべてのものの数を数えることができる。
しかし、表や樹形図を作成するにはあまりに数が大きすぎる場合があるので、表や樹形図を書かずとも、数を数えられるようにならなければいけない。
以下では、数を数えるときに使う、もっとも基本的な考え方である、積の法則と和の法則について確認する。これを応用すれば、表や樹形図を書かなくても、ものの数を数えることができるようになる。
吹き出し物を数えるときに使う考え方
ただし、これらの法則の背景に表や樹形図があるのだということは、忘れてはいけない。ただ闇雲に法則だけつかっても、何を数え上げているのかわからなければ本末転倒である。
積の法則
積の法則の例
「3種類のケーキから1つ、2種類の飲み物から1つ選んで頼むケーキセットの決め方は何通りか」という問題は、次のように考えることができる。
まず、事柄A,Bを
- A:ケーキを選ぶ
- B:飲み物を選ぶ
積の法則
2つの事柄A,Bについて、Aの起こり方が $a$ 通り、「そのそれぞれに対して」Bの起こり方が $b$ 通りあるとする。このときAとBがともに起こる場合は $a{\times}b$ 通りあり、これを積の法則 (multiplication law) という。
和の法則
和の法則の例
「区別する大小2個のさいころを投げる場合、出た目の数の和が6の倍数となるのは何通りか」という問題は、次のように考えることができる。
まず、事柄A,Bを
- A:出た目の数の和が6である
- B:出た目の数の和が12である
和の法則
2つの事柄A,Bについて、Aの起こり方が $a$ 通り、Bの起こり方が $b$ 通りあるとする。このとき、「Aであり、かつ、Bである」場合が「ないならば」AまたはBが起こる場合は $a+b$ 通りあり、これを和の法則 (sum law) という。
集合の要素の個数と場合の数
“場合”を集合の要素に対応させる
球の並べ方
ある事柄の起こり方が全部で $a$ 通りあるとき, その事柄の起こる場合の数(number of cases)は $a$ 通りであるという.
この事柄の起こり方は,集合の要素に対応させることができる.
例えば,①の球が3個,②の球が2個,計5個の球があるとする.
この中から3個選んで,順に1列に並べるという事柄をAとすると事柄Aには,右図のように7通りの場合がある.
これを順に $a_1,a_2,\cdots,a_7$ と対応させ集合 $A$ を作る. このとき,場合の数は $n(A)$ と表せる.
このように,事柄における“場合”は,集合の要素に簡単に対応させることができる. このように対応させることにより,場合の数を求める際,『集合の要素の個数』で学んだことが利用できる.
以下,特に断りのない限り,事柄Xと集合 $X$ は互いに対応しているものとし,どちらも斜体のアルファベット $X$ で表すことにする.
積の法則・和の法則(集合版)
積の法則・和の法則の利用
1,2,3,4,5,6の数字が書いてあるさいころを1回振り,さらに1,2,3,4の数字が書いてある4枚のカードから1枚引くとする.
- 2つの数字の出方には全部で何通りの場合があるか.
- 2つの数字の和が4の倍数となるのは何通りか.
- さいころの数字6通りのそれぞれに対して,カードの数字は4通りに定まるから,積の法則より
\[6\times4=\boldsymbol{24}通り\]
《補足》 このことを,集合で表現すると以下のようになる.
$A$ :「さいころを1回振る」
$B$ :「カードを1枚引く」
とおくと,求める場合の数は $n(A\times{B})$ となり
\begin{align} n(A\times{B})&= n(A)\times{n(B)}\\ &= 6\times4=\boldsymbol{24}通り \end{align} - 2つの数字の和が4の倍数となるのは
- 2つの数字の和が4の場合
- 2つの数字の和が8の場合
に分けることができ,i)の場合は(さいころ,カード)の順で $(1,~3),(2,~2),(3,~1)$ の3通りあり,
ii)の場合も $(4,~4),(5,~3),(6,~2)$ の3通りある.
また,これらは同時に起こることはないから,和の法則より
\[3+3=\boldsymbol{6}通り\]《補足》 このことを,集合で表現すると以下のようになる.
$P$ :「2つの数字の和が4である」
$Q$ :「2つの数字の和が8である」
とおくと,求める場合の数は $n(P\cup{Q})$ となり, $P\cap{Q}=\emptyset$ であるから \begin{align} n(P\cup{Q})&=n(P)+n(Q)\\ &=3+3=\boldsymbol{6}通り \end{align}
補集合での考え方
補集合の利用
1,2,3,4,5,6の数字が書いてあるさいころを1回振り,さらに1,2,3,4の数字が書いてある4枚のカードから1枚引くとする.
2つの数字の和が4の倍数とは"ならない"のは何通りか.
積の法則・和の法則の利用の例題(1)で求めた全体24通りのうち,「2つの数字の和が4の倍数となる」のは(2)より,6通りである.
よって,「2つの数字の和が4の倍数とは
ならない
」のは
$24-6=\boldsymbol{18}$ 通り.
《補足》 このことを,集合で表現すると以下のようになる.
全体集合 $U$ を $U=A\times{B}$ とおくと,求める場合の数は $n(\overline{P\cup{Q}})$ であるから
\begin{align} n(\overline{P\cup{Q}}) &= n(U)-n(P\cup{Q})\\ &= 24-6=\boldsymbol{18}通り \end{align}この問題は,補集合の考え方を使わなくても,例えば和の法則で次のように解くこともできる.
$A_1$ :「カードの数字が1の場合で2つの数字の和が4の倍数になる」
$A_2$ :「カードの数字が2の場合で2つの数字の和が4の倍数になる」
$A_3$ :「カードの数字が3の場合で2つの数字の和が4の倍数になる」
$A_4$ :「カードの数字が4の場合で2つの数字の和が4の倍数になる」
とおくと,どの2つの事柄も同時におこることがないので
$5+4+4+5=\boldsymbol{18}$ 通り
となるが,補集合を考えたときに比べてかなり面倒である.
そこで,次のような原則を引き出すことができるだろう.
補集合で考えるときのポイント
全体集合 $U$ に対して, $n(X)$ を数えるよりも $n(\overline{X})$ を数えるほうが数えやすいとき
\[n(X)=n(U)-n(\overline{X})\]として, $n(X)$ を計算するとよい.
ド・モルガンの法則
ド・モルガンの法則
1,2,3,4,5,6の数字が書いてあるさいころを1回振り,さらに1,2,3,4の数字が書いてある4枚のカードから1枚引くとする. 2つの数字の積が偶数となるのは何通りか.
2つの数字の偶奇とその積の偶奇の関係は下の表のようになる.
\begin{array}{|c|c|c|c|c|}\hline さいころ&&カード&&積\\\hline 奇数&×&奇数&=&奇数\\\hline 奇数&×&偶数&=&偶数\\\hline 偶数&×&奇数&=&偶数\\\hline 偶数&×&偶数&=&偶数\\\hline \end{array}これより,積が偶数になる場合より,奇数になる場合の方が数えやすそうだとわかるので,補集合を考えてみることにする.
$C$ :「さいころの数字が偶数である」
D:「カードの数字が偶数である」
とおくと,求める場合の数は $n(C\cup{D})$ であり,その補集合の要素の個数は $n(\overline{C\cup{D}})$ であるから, 全体集合を $U$ とすると
\[n(C\cup{D})=n(U)-n(\overline{C\cup{D}})\]ここで,『ド・モルガンの法則』より
\[n(\overline{C\cup{D}})=n(\overline{C}\cap\overline{D})\]であり,集合 $\overline{C}\cap\overline{D}$ に対応する事柄は,「さいころの数字が偶数でなく,かつ,カードの数字が偶数でない」つまり
\[「さいころ,カードの数字がともに奇数である」\]となるので,積の法則から
\[n(\overline{C}\cap\overline{D})=3\times2=6\]よって
\begin{align} n(C\cup{D})&=n(U)-n(\overline{C\cup{D}})\\ &=n(U)-n(\overline{C}\cap\overline{D})\\ &=24-6=\boldsymbol{18} \end{align}
通り
吹き出しド・モルガンの法則を使うときには
- 形式的な面
- 意味的な面
の両方から,考える癖をつけるのがよい.
つまり,上の問題の例でいうならば,i)では
$\qquad$ 集合 $\overline{C\cup{D}}$ は,補集合のバー $(\overline{\bigcirc})$ が“切れて” $\cup$ が“ひっくりかえった”集合 $\overline{C}\cap\overline{D}$$\qquad$ と常に等しかったな.そして,この $\overline{C}\cap\overline{D}$ は,「数字がともに奇数である」という事柄と対応するな.
と考えることであり,ii)では
$\qquad$ 「(さいころの数字が偶数であるか,または,カードの数字が偶数である)ということはない」,とはつまり,「さいころ,カードの数字がともに奇数であること」と同じだな.$\qquad$ だから,それぞれに対応する集合 $\overline{C\cup{D}}$ と $\overline{C}\cap\overline{D}$ は等しくなるな.
と考えることである.
上の解答では,i)を強調した書き方になっている.
包含と排除の原理
2集合の包含と排除の原理
1,2,3,4,5,6の数字が書いてあるさいころを1回振り,さらに1,2,3,4の数字が書いてある4枚のカードから1枚引くとする. 2つの数字の積が偶数となるのは何通りか.『包含と排除の原理』を用いて求めよ.
『ド・モルガンの法則』の例題の場合と同じように
$C$ :「さいころの数字が偶数である」
$D$ :「カードの数字が偶数である」
とおくと,求める場合の数は $n(C\cup{D})$ である. 和集合の要素の個数に関して
\[n(C\cup{D})=n(C)+n(D)-n(C\cap{D})\]が成り立つ.また,集合 $C\cap{D}$ に対応する事柄は
$\qquad$ 「さいころ,カードの数字が共に偶数」となる.
ここで, $n(C)$ , $n(D)$ , $n(C\cap{D})$ はそれぞれ
\[n(C)=3\times4=12\] \[n(D)=6\times2=12\] \[n(C\cap{D})=3\times2=6\]となるので
\begin{align} n(C\cup{D})&=n(C)+n(D)-n(C\cap{D})\\ &=12+12-6=\boldsymbol{18} \end{align}通り
集合を利用した数え上げのまとめ
1から100までの自然数のうち,次のような数は全部でいくつあるか.
- 3で割りきれ,かつ,7で割りきれる数.
- 3で割りきれるか,または,7で割りきれる数.
- 3で割りきれなく,かつ,7で割りきれない数.
- 3で割りきれないか,または,7で割りきれない数.
事柄A,Bをそれぞれ
$\qquad A$ :「3で割りきれる」
$\qquad B$ :「7で割りきれる」
とする.まず, $n(A)$ と $n(B)$ について
$\qquad 100\div3=33$ あまり1
$\qquad 100\div7=14$ あまり2
であるから
$\qquad n(A) = 33,n(B) = 14$
である.
- 「3で割りきれ,かつ,7で割りきれる数」は集合で $A\cap{B}$ と表すことができ, これは結局「21で割りきれる数」のことである.
- 「3で割りきれるか,または,7で割りきれる数」は集合で $A\cup{B}$ と表すことができる. \begin{align} &n(A\cup{B})\\ =&n(A)+n(B)-n(A\cap{B})\\ =&33+14-4\\ =&33+14-4=\boldsymbol{43} \end{align}
- 求める場合の数は $n(\overline{A}\cap\overline{B})$ である.全体集合をUとすると \begin{align} &n(\overline{A}\cap\overline{B})\\ =&n(\overline{A\cup{B}})\\ =&n(U)-n(A\cup{B})\\ =&100-43=\boldsymbol{57} \end{align}
- 求める場合の数は $n(\overline{A}\cup\overline{B})$ である. \begin{align} &n(\overline{A}\cup\overline{B})\\ =&n(\overline{A\cap{B}})\\ =&n(U)-n(A\cap{B})\\ =&100-4=\boldsymbol{96} \end{align}
$100\div21=4$ あまり16であるから
$n(A\cap{B})=\boldsymbol{4}$