確率とは何か

さいころを投げて1の目が出ることや、宝くじを買って1等に当選することなどは、運に左右されることなので、「必ず1の目が出る」とか、「1等は絶対に当たらない」などとはいいきれない。どちらも、将来に何が起こるかわからないという点では共通である。しかし、「起こりやすさ」という点から見ると、さいころを投げて1の目が出ることの方が、宝くじを買って1等に当選することよりはるかに大きいと想像できる。ここでは、この「起こりやすさ」を数値で表す方法である「確率」について学んでいく。

試行と事象

試行・事象とは何か

1個のさいころを投げるとき,その出る目は

のうちのいずれかであるが,このうちどの目が出るかは偶然に左右される.

このさいころ投げのように,同じ条件で何度も繰り返すことができ,その結果が偶然によってきまる実験や観測などを試行(trial)という. また,試行の結果起こる事柄を事象(event)という. 例えば,「1の目が出る」は,さいころ投げという試行における事象の1つである.

事象を集合で表す

(無題)

試行や事象は,集合で表すことができる. 例えば,さいころ投げの試行の結果起こる事象の全体は

$U=\{1,2,3,4,5,6\}$

などと表すことができる.

また,この試行では

$A$ :「1の目が出る」

$B$ :「奇数の目が出る」

$C$ :「3の目が出ない」

などの事象を考えることができるが,これらは $U$ の部分集合を用いて

$A=\{1\}$

$B=\{1,3,5\}$

$C=\{1,2,4,5,6\}$

と表すことができる.

一般に,ある試行において,起こる事象全体を表す集合を $U$ とするとき, この集合 $U$ のことを標本空間(sample space)という. また,試行によって起こる事象 $A$ を表す集合 $A$ は標本空間 $U$ をうまく作ることによって, $U$ の部分集合( $A\subseteqq{U}$ )として表すことができる.

今後簡単のため,「事象 $A$ 」と「事象 $A$ を表す集合 $A$ 」は区別せず,どちらも単に事象 $A$ ということにする. 標本空間は事象全体を表す集合なので,全事象(sure event)ともいう. また,決して起こらない事象も考え,これを空事象(null event)という. 空事象は空集合 $\emptyset$ で表される.

また,標本空間 $U$ の要素のただ1つからなる集合で表される事象を根元事象(fundamental event)という. 上のさいころ投げの例では,根元事象は

$\{1\},\{2\},\{3\},\{4\},\{5\},\{6\}$

の6つである.

標本空間と事象の例1:さいころ投げの場合

ここでは,さいころ投げを例にとり,標本空間の作り方と事象の表し方 をいくつかの視点から見てみよう.同じ試行であっても,標本空間の作り方にはいろいろあるのだ,という点に特に注目してもらいたい.

説明文
説明文

試行として

「1から4の目が書かれた正四面体のさいころを2回振る」を考えてみる.

この試行は,表のように,1回目に出た目と2回目に出た目の順列で

$_{4}\Pi_{2}=4^2=16$ 通り

にまとめることができる.

\begin{array}{|c|c|c|c|c|}\hline &1&2&3&4\\\hline 1&1,1&2,1&3,1&4,1\\\hline 2&1,2&2,2&3,2&4,2\\\hline 3&1,3&2,3&3,3&4,3\\\hline 4&1,4&2,4&3,4&4,4\\\hline \end{array}

これをもとに,標本空間 $U$ を

\begin{align} U=\{&(1,1),(1,2),(1,3),(1,4),\\ &(2,1),(2,2),(2,3),(2,4),\\ &(3,1),(3,2),(3,3),(3,4),\\ &(4,1),(4,2),(4,3),(4,4)\ \} \end{align}

ととれば,例えば

事象 $A$ :「1の目と2の目が出る」

は $U$ の部分集合を用いて

$A=\{(1,2),(2,1)\}$

と表すことができる.

また,この試行は,表のように,1回目に出た目と2回目に出た目の重複組合せで $_{4}\mathrm{Η}_{2}=\ _{4+2−1}\mathrm{C}_{2}=10$ 通りにまとめることができる。

\begin{array}{|c|c|c|c|c|}\hline &1&2&3&4\\\hline 1&1,1&―&―&―\\\hline 2&1,2&2,2&―&―\\\hline 3&1,3&2,3&3,3&―\\\hline 4&1,4&2,4&3,4&4,4\\\hline \end{array}

これをもとに,標本空間 $U'$ を

\begin{align} U'=\{&(1,1),\\ &(1,2),(1,3),\\ &(1,4),(2,2),(2,3),\\ &(2,4),(3,3),(3,4),(4,4)\ \} \end{align}

ととれば

事象 $A$ :「1の目と2の目が出る」

$U'$ の部分集合を用いて

$A=\{(1,2)\}$

と表すことができる.

標本空間と事象の例2:カード引きの場合

説明文
説明文

今度は,カード引きを例にとり,標本空間の作り方と事象の表し方をいくつかの視点から見てみる.

試行として

「1から4の数字が書かれた4枚のカードから続けて2回引く」

を考えてみる.

この試行は,表のように,1回目に引いたカードと2回目に引いたカードの順列で

$_{4}\mathrm{Ρ}_{2}=4^3=12$ 通り

にまとめることができる。

\begin{array}{|c|c|c|c|c|}\hline &1&2&3&4\\\hline 1&―&2,1&3,1&4,1\\\hline 2&1,2&―&3,2&4,2\\\hline 3&1,3&2,3&―&4,3\\\hline 4&1,4&2,4&3,4&―\\\hline \end{array}

これをもとに,標本空間 $U$ を

\begin{align} U=\{&(1,2),(1,3),(1,4),\\ &(2,1),(2,3),(2,4),\\ &(3,1),(3,2),(3,4),\\ &(4,1),(4,2),(4,3)\ \} \end{align}

ととれば,例えば

事象 $A$ :「1のカードと2カードを引く」

は $U$ の部分集合を用いて

$A=\{(1,2),(2,1)\}$

と表すことができる。

また,この試行は,表のように,1回目に引いたカードと2回目に引いたカードの組合せで

$_{4}\mathrm{H}_{2}=\dfrac{4\cdot3}{2\cdot1}=6$ 通り

にまとめることもできる.

\begin{array}{|c|c|c|c|c|}\hline 1&2&3&4\\\hline 1&―&―&―&―\\\hline 2&1,2&―&―&―\\\hline 3&1,3&2,3&―&―\\\hline 4&1,4&2,4&3,4&―\\\hline \end{array}

これをもとに,標本空間 $U'$ を

$U'=\{(1,2),(1,3),(1,4),(2,3),(2,4),(3,4)\}$

ととれば

事象 $A$ :「1のカードと2のカードを引く」

は $U'$ の部分集合を用いて

$A=\{(1,2)\}$

と表すことができる.

確率の定義

確率の考え方

説明文
説明文

簡単な例として,さいころを1回投げるという試行を考える. この試行の標本空間 $U$ を

$U=\{1,2,3,4,5,6\}$

とする。

この試行において,「1の目が出る」という事象 $A$ は, $U$ の部分集合として

$A=\{1\}$

と表すことができる。

今,さいころがいびつではなく正確な立方体で作られているとすれば, $U$ の根元事象の6通りのどれも同じ程度に実現する と期待できる.このとき,根元事象は同様に確からしい(equally likely)という.

そこで,標本空間 $U$ の要素の個数に対する事象 $A$ の要素の個数の比で,事象 $A$ の起こりやすさ $P(A)$ を表すことにする.つまり

$\text{P}(A)=\dfrac{n(A)}{n(U)}=\dfrac{1}{6}$

とする.この $\text{P}(A)$ を,事象 $A$ が起こる確率(probability)という.

また,奇数の目が出るという事象 $B$ は

$B=\{1,3,5\}$

3の目が出ないという事象 $C$ は

$C=\{1,2,4,5,6\}$

と表すことができるから,それぞれの事象の起こる確率 $\text{P}(B),\text{P}(C)$ は

$\text{P}(B)=\dfrac{n(B)}{n(U)}=\dfrac{3}{6}=\dfrac{1}{2}$

$\text{P}(C)=\dfrac{n(C)}{n(U)}=\dfrac{5}{6}$

となる.

確率の定義について

確率の定義

ある試行の標本空間を $U$ とし,その部分集合で事象 $A$ で表したとする. ここで, $U$ の根元事象が同様に確からしいならば, 事象 $A$ の起こる確率 $\text{P}(A)$ は

\[\text{P}(A)=\frac{n(A)}{n(U)}\]

となる.

確率を正確に求めるには以下の3点に注意するとよい.

  1. 「標本空間をしっかりと定める」
  2. 試行によって起こる事象を過不足なく表す標本空間を作る.

  3. 「根元事象が同様に確からしいことを確認する」
  4. 自分で作った標本空間の根元事象が本当に同様に確からしいといえるのか,考えてみる.

  5. 「事象が標本空間の部分集合として表されることを確認する」
  6. たとえ,i. ,ii. をしっかりと定めていても,求めたい事象が標本空間の部分集合として表現できなければ確率を求めることはできない.

吹き出し無題

同じ確率を求めるとしても,標本空間のとり方しだいで問題が難しくなったり間単になったりする. 今後,確率を求める際には,標本空間のとり方について常に気を配りながら学習するとよい.

同様に確からしい

次はA君の解答である.この解答は正しいか,間違っているかを考え,間違っていれば正しい解答を示せ.

「2枚の硬貨を同時に投げるとき,表と裏の出る枚数について, $(表,裏)=(2,0),(1,1),(0,2)$ の3通りの場合があるので, 表が2枚出る確率は $\dfrac{1}{3}$ である」

この解答は

間違っている

2枚の硬貨をきちんと区別して,表と裏についてまとめると

\begin{array}{|c|c|c|}\hline &表&裏\\\hline 表&(表,表)&(裏,表)\\\hline 裏&(表,裏)&(裏,裏)\\\hline \end{array}

の4通りがあり,これらは同様に確からしい.

この表の(裏,表)と(表,裏)をまとめて $(1,1)$ と1通りで表しているA君の解答では, 例えば $(2,0)$ と $(1,1)$ は同様に確からしいとはいえず,間違った確率を計算している.正しい解答は $\dfrac{1}{4}$ である.

さいころ型の確率

1から4の目が書かれた正四面体のさいころを2回振るとき, 1回目と2回目の目の積が3の倍数となる確率を求めよ.

正四面体のさいころを2回振ったときの目の出方の重複順列 $4^2$ 通りは,同様に確からしい.

このうち,1回目と2回目の目の積が3の倍数となるのは

1234
11,12,13,14,1
21,22,23,24,2
31,32,33,34,3
41,42,43,44,4

表の網掛け部分の7通り.

よって,求める確率は $\dfrac{7}{4^2}=\dfrac{7}{16}$ となる.

くじ引き型の確率

1から4の数字が書かれたカードから2枚引くとき,1枚目と2枚目の数字の積が3の倍数となる確率を求めよ.

1から4の数字が書かれたカードから2枚引くときの組合せ $_{4}\mathrm{C}_{2}$ 通りは,同様に確からしい.

このうち,1枚目と2枚目の数字の積が3の倍数となるのは

1234
1
21,2
31,32,3
41,42,43,4

表の網掛け部分の3通り.

よって,求める確率は $\dfrac{3}{\ _{4}\mathrm{C}_{2}}=\dfrac{1}{2}$ となる.

吹き出し無題

さいころ型では重複順列の数を分母に,くじ引き型では(基本的には)組合せの数を分母にとればよい.

表や樹形樹の利用

次の問に答えよ.

  1. 1から4の目が書いてある正四面体のさいころを2回振る.2つの目の和が5となる確率を求めよ.
  2. 1から4までの数字が書いてある4枚のカードから,連続して2枚のカードを引く.はじめに引いたカードの数の方が,あとに引いたカードより小さくなる確率を求めよ.
  3. 1から4までの数字が書いてある4枚のカードから,連続して2枚のカードを引く.カードの数の和が5以上となる確率を求めよ.

以下の解答では,表でまとめた場合の解答である.樹形図についてまとめた場合には,それぞれの図を参照のこと.

  1. 正四面体のさいころを2回振ったときの目の出方の重複順列 $4^2$ 通りは,同様に確からしい.
  2. このうち,2つの目の和が5となるのは,下の表の網掛けの部分を数えて4通り.よって,求める確率は $\dfrac{4}{4^2}=\dfrac{1}{4}$ となる.

    1234
    11,12,13,14,1
    21,22,23,24,2
    31,32,33,34,3
    41,42,43,44,4

    【注意】

    組合せでまとめた下の表では,同様に確からしくないので,確率を求めることはできない.

    1234
    11,1
    21,22,2
    31,32,3
    41,42,43,44,4
  3. 4枚のカードの中から2枚引いたときの順列 $_{4}\mathrm{Ρ}_{2}$ 通りは,同様に確からしい.
  4. このうち,はじめに引いたカードの数の方が,あとに引いたカードより小さくなるのは,下の表の網掛けの部分を数えて6通り.よって,求める確率は $\dfrac{6}{\ _{4}\mathrm{P}_{2}}=\dfrac{1}{2}$ となる.

    1234
    12,13,14,1
    21,23,24,2
    31,32,34,3
    41,42,43,4

    《別解》

    4枚のカードの中から2枚引いたときの大小関係は

    (1枚目のカード) $\gt$ (2枚目のカード) または

    (1枚目のカード) $\lt$ (2枚目のカード)

    のどちらかであり,これら2通りは同様に確からしい.よって,求める確率は $\dfrac{1}{2}$ となる.

  5. 4枚のカードの中から2枚引いたときの組合せ $_{4}\mathrm{C}_{2}$ 通りは,同様に確からしい.
  6. 下の表でこのうち,カードの数の和が5以上となるのは,下の表の網掛けの部分を数えて4通り.よって,求める確率は $\dfrac{4}{\ _{4}\mathrm{C}_{2}}=\dfrac{2}{3}$ となる.

    1234
    1
    21,2
    31,32,3
    41,42,43,4

    《別解:順列で考える》

    4枚のカードの中から2枚引いたときの順列 $_{4}\mathrm{Ρ}_{2}$ 通りは,同様に確からしい.

    下の表でこのうち,カードの数の和が5以上となるのは,下の表の網掛けの部分を数えて8通り.よって,求める確率は $\dfrac{8}{\ _{4}\mathrm{P}_{2}}=\dfrac{2}{3}$ となる.

    1234
    12,13,14,1
    21,23,24,2
    31,32,34,3
    41,42,43,4

確率の基本性質

確率の基本性質

ある試行における標本空間を $U$ ,事象を $A$ とする.このとき, $U,A$ はそれぞれ, $n(U),n(A)$ 個の根元事象からなり

\[0\leqq n(A)\leqq n(U)\]

が成り立つ.根元事象が同様に確からしい場合, $\dfrac{n(A)}{n(U)}=\text{P}(A)$ であるから,上の式を $n(U)$ で割ることにより

\[0\leqq \text{P}(A)\leqq 1\tag{1}\label{kakuritunokihonseisitu1}\]

となる.特に標本空間 $U$ に関しては

\[\text{P}(U) = 1\tag{2}\label{kakuritunokihonseisitu2}\]

である.

また,事象 $A,B$ について $A\cap{B}=\emptyset$ すなわち $A$ と $B$ が共通の根元事象をもたないとき, $A\cup{B}$ の作る根元事象の個数は

\[n(A\cup{B})=n(A)+n(B)\]

であるから,両辺を $n(U)$ で割ることにより

\[\frac{n(A\cup{B})}{n(U)}=\frac{n(A)}{n(U)}+\frac{n(B)}{n(U)}\]

つまり

\[\text{P}(A\cup{B})=\text{P}(A)+\text{P}(B)\tag{3}\label{kakuritunokihonseisitu3}\]

となる.

確率の基本性質

ある試行における標本空間を $U$ ,事象を $A,B$ とすると,根元事象が同様に確からしいとき

  1. $0\leqq \text{P}(A)\leqq1$
  2. $\text{P}(U)=1$
  3. $A\cap{B}=\emptyset$ のとき, $\text{P}(A\cup{B})=\text{P}(A)+\text{P}(B)$

が成り立つ.

$A\cap{B}=\emptyset$ のとき,事象 $A$ と $B$ は排反はいはんであるという.詳しくは,この後すぐ加法定理と排反事象で学ぶ.