加法定理と排反事象
さいころ投げにおいて、例えば「偶数の目が出る」という事象と「3以下の目が出る」という事象には共通している事象、つまり「2の目が出る」という事象がある。このように、2つの事象において、共通の事象がある場合や、無い場合について、ここでは整理してみる。
和事象と積事象
和事象と積事象について
さいころを1回投げる試行を考えよう.この試行において,標本空間 $U$ を
\[U=\{1,2,3,4,5,6\}\]とすると,「偶数の目が出る」という事象 $A$ ,「3以下の目が出る」という事象 $B$ は
\[A=\{2,4,6\},B=\{1,2,3\}\]と表すことができる.
いま,「偶数の目が出るか,または,2以下の目が出る」という事象は, $A$ と $B$ の和集合で
\[A\cup{B}=\{2,4,6\}\cup\{1,2,3\}=\{1,2,3,4,6\}\]と表すことができる.
また,「偶数の目が出て,かつ,2以下の目が出る」という事象は, $A$ と $B$ の共通部分で
\[A\cap{B}=\{2,4,6\}\cap\{1,2,3\}=\{2\}\]と表すことができる.
和事象と積事象
標本空間 $U$ の部分集合で表される2つの事象 $A,B$ において「 $A$ または $B$ 」を $A$ と $B$ の
和事象(sum event)
という.和事象は和集合 $A\cup{B}$ で表される(図参照).
また「 $A$ かつ $B$ 」を $A$ と $B$ の
積事象(product event)
という.積事象は共通部分 $A\cap{B}$ で表される (図参照).
加法定理と排反事象について
加法定理
説明文
ある試行の標本空間 $U$ と,事象 $A,B$ について考える.
事象 $A,B$ に包含と排除の原理を用いると
\[n(A\cup{B})=n(A)+n(B)-n(A\cap{B})\]が成り立つ.この両辺を標本空間 $U$ の根元事象の個数 $n(U)$ で割ると
\[\frac{n(A\cup{B})}{n(U)}=\frac{n(A)}{n(U)}+\frac{n(B)}{n(U)}-\frac{n(A\cap{B})}{n(U)}\] \begin{align} \therefore\ P(A\cup{B})=&P(A)+P(B)\\ &\ -P(A\cap{B})\tag{1}\label{kahouteiri} \end{align}が成り立つ.
この $\eqref{kahouteiri}$ のことを,確率の加法定理(addition theorem)という.
加法定理
ある試行における事象 $A,B$ について
\[P(A\cup{B})=P(A)+P(B)-P(A\cap{B})\]が成り立つ.
吹き出し無題
$P(A\cup{B})$ を求めるのに, $P(A)$ と $P(B)$ を加えたのでは, $P(A\cap{B})$ を2回加えたことになる.そこで,余分な1回分の $P(A\cap{B})$ を引くのだと考えると覚えやすい.イメージは下の図のようになる.
加法定理
2個のさいころ $A,B$ を同時に投げるとする. さいころ $A$ で3の目が出るか,またはさいころ $B$ で3の目が出る確率を求めよ.
$A$ :「 $A$ のさいころで3の目が出る」
$B$ :「 $B$ のさいころで3の目が出る」
とすると,求める確率は $P(A\cup{B})$ である.
いま, $P(A),P(B)$ は
\[P(A)=P(B)=\frac{1}{6}\]である.
また,2つのさいころの目の出方は $6^2$ 通りあり, このうちともに3の目となるのは1通りであるから, $P(A\cap B)$ は
\[P(A\cap B)=\frac{1}{36}\]となる.
以上より
\begin{align} P(A\cup B)&=P(A)+P(B)-P(A\cap B)\\ &=\frac{1}{6}+\frac{1}{6}-\frac{1}{36}=\boldsymbol{\frac{11}{36}} \end{align}排反事象
説明文
さいころを1回投げる試行において,偶数の目が出る事象 $A=\{2,4,6\}$ と,奇数の目が出る事象 $B=\{1,3,5\}$ は同時に起こることがない.別のいいかたをすれば,同時に起こらない事象の積事象は,次のように空事象になる.
\[A\cap{B}=\{2,4,6\}\cap\{1,3,5\}=\emptyset\]一般に,2つの事象 $A,B$ が同時に起こることがないとき, $A$ と $B$ は互いに
排反事象の加法定理
事象 $A,B$ において, $A$ と $B$ が同時に起こらないとき,すなわち
\[A\cap{B}=\emptyset\]が成り立つとき, $A$ と $B$ は互いに排反であるという.
また,このとき $P(A\cap{B})=0$ であるから,加法定理より
\[P(A\cup{B})=P(A)+P(B)\]が成り立つ.
3つ以上の事象でも,どの2つも互いに排反であるとき,それらの事象は排反であるという.
排反事象~その1~
ジョーカーを含まない52枚のトランプの中から1枚のカードを引く.
事象 $A,B,C,D$ を
$A$ : $\diamondsuit$ のカードを引く $\qquad B$ : $\clubsuit$ のカードを引く
$C$ : 3のカードを引く $\qquad D$ : 10以上のカードを引く
とする.次のうち,排反事象となるものをすべて選べ.
- $A$ と $B$
- $B$ と $C$
- $C$ と $D$
- $D$ と $A$
- $\diamondsuit$ であり, $\clubsuit$ であるトランプ存在しない,つまり同時に起こりえないので, $A$ と $B$ は排反である.
- $\clubsuit$ であり,3であるカードは存在する( $\clubsuit$ の3),つまり同時に起こりえるので, $B$ と $C$ は排反ではない.
- 3であり,10以上であるカードは存在しない,つまり同時に起こりえないので, $C$ と $D$ は排反である.
- 10以上であり, $\diamondsuit$ であるカードは存在する(例えば $\diamondsuit$ の11),つまり同時に起こりえるので, $D$ と $A$ は排反ではない.
以上より,排反事象となるのは1. と3. である.
排反事象~その2~
10本のくじの中に当りくじが3本ある.この中から4本のくじを同時に引くとき, 少なくとも2本の当りくじを引く確率を求めよ.
少なくとも2本の当りくじを引くのは,2本の当りくじを引く場合と,3本の当りくじを引く場合があり,
これらは排反な事象である.
まず,10本のくじの中から4本のくじを引く組合せの $_{10}\mathrm{C}_{4}=210$ 通りは,どれも同様に確からしい.
このうち,2本の当りくじと2本のはずれくじを引く場合は
$_{3}\mathrm{C}_{2}\cdot\ _{7}\mathrm{C}_{2}=63$ 通り
あり,3本の当りくじと1本のはずれくじを引く場合は
$_{3}\mathrm{C}_{3}\cdot\ _{7}\mathrm{C}_{1}=7$ 通り
ある.
よって,求める確率は
\[\frac{63}{210}+\frac{7}{210}=\boldsymbol{\frac{1}{3}}\]余事象とその確率
余事象
事象 $A$ に対して,“ $A$ が起こらない”という事象を $A$ の余事象(complementary event)といい, $\overline{A}$ で表す.余事象 $\overline{A}$ は,事象 $A$ を表す集合 $A$ の補集合 $\overline{A}$ で表される.
余事象 $\overline{A}$ のさらに余事象は,“ $A$ が起こる”という事象 $A$ にもどる.
事象 $A$ と $\overline{A}$ は互いに排反で,それらの和事象 $\mathit{A}\cup\overline{A}$ は標本空間 $U$ である.
余事象の確率
説明文
補集合の要素の個数より
\[n(\overline{A})=n(U)-n(A)\]が成り立つ.この両辺を, $n(U)$ で割ると
\[\frac{n(\overline{A})}{n(U)}=1-\frac{n(A)}{n(U)}\] \[\therefore P(\overline{A})=1-P(A)\]が成り立つ.
余事象の確率
事象 $A$ と,その余事象 $\overline{A}$ において
\[P(\overline{A})=1-P(A)\]が成り立つ.
吹き出し無題
このことは,ある事象 $A$ の確率を求めるのが大変な場合, むしろ $A$ の余事象 $\overline{A}$ の要素の個数に着目すべきである, ということを教えてくれる.
余事象
3つのさいころを同時に振るとき,少なくとも1つのさいころで3の倍数の目が出る確率を求めよ.
事象 $A$ を
$A$ :「3つのさいころで3の倍数の目が出ない」
とおくと,求める確率は $P(\overline{A})$ である.
3つのさいころの目の重複順列 $_{6}\Pi_{3}=6^3=216$ 通りは,どれも同様に確からしい.
このうち,3の倍数の目がまったく出ないのは(3の倍数でない目が1,2,4,5と4つあるので)
$_{4}\Pi_{3}=4^3=64$ 通り
よって,3の倍数の目が出ない確率 $P(A)$ は
\[P(A)=\frac{64}{216}=\frac{8}{27}\]求める確率は $P(\overline{A})$ なので
\[P(\overline{A})=1-P(A)=1-\frac{8}{27}=\boldsymbol{\frac{19}{27}}\]となる.