不等式の性質

不等式とは何か

たとえば
「ある数 $a$ を $2$ 倍してから $3$ を加えた数は、$4$ より大きい」
ということを、不等号を用いて表すと \[2a+3\gt4\tag{1}\label{futosikitohananika}\] となる。 この $\eqref{futosikitohananika}$ のように

不等式

2つの数の大小関係を、不等号を使って表したものを不等式 (inequality) という。

等式の場合と同じように、不等号の左側にある式を左辺 (left side)、右側にある式を右辺 (right side) という。$\eqref{futosikitohananika}$ の左辺は $2a+3$、右辺は $4$ である。やはり、等式の場合と同じように、左辺と右辺をあわせて両辺 (both sides) という。

ここで不等号の種類をまとめると以下のようになる。

読み方意味
$a\lt b$ $a$ は $b$ より小さい($a$ は $b$ 未満である)
$a\leqq b$$a$ は $b$ 以下である$a\lt b$ または $a=b$
$a\gt b$$a$ は $b$ より大きい
$a\geqq b$$a$ は $b$ 以上である($b$ は $a$ 未満である)$a\gt b$ または $a=b$

不等式で表す

次の文章を、不等式を使って表せ。

  1. $a$ と $3$ の和は、$b$ の $2$ 倍より小さい。
  2. $x$ の $2$ 倍から $3$ 引いた数は、$x$ の $(-2)$ 倍以上である。

  1. $\underbrace{a と 3 の和}_{a+3}$ は、$\underbrace{b の 2 倍}_{2b}$ より小さい。$\rightarrow\boldsymbol{a+3\lt2b}$
    $\blacktriangleleft$ 「$A$ は $B$ より小さい」は $A\lt B$
  2. $\underbrace{\underbrace{x の 2 倍}_{2x} から 3 引いた数}_{2x-3}$ は、$\underbrace{x の (-2) 倍}_{-2x}$ 以上である。$\rightarrow\boldsymbol{2x-3\geqq-2x}$
    $\blacktriangleleft$ 「$A$ は $B$ 以上」は $A\geqq B$

不等式の性質について

ここでは $a\lt b$ として、不等式について成り立つ性質を考えていこう。

吹き出し無題

以下の説明では、不等式の性質を、数直線上の点の移動として理解できるように図が載せてある。ただ式を追うのではなく、点の移動のイメージをもつようにしよう。

  1. 両辺に同じ数を足す(引く)場合
    $a+2{\lt}b+2$

    左辺、右辺それぞれに $2$ を加えた $a+2$、$b+2$ は、不等式 \[a+2\lt b+2\] を満たす。

    $a-3{\lt}b-3$

    また、左辺、右辺それぞれから $3$ を引いた $a-3$、$b-3$ も、不等式 \[a-3\lt b-3\] を満たす。

    つまり、「不等式の両辺に同じ数を足しても(引いても)、もとの不等式と不等号の向きが変わらない」といえる。

  2. 両辺に正の数を掛ける(割る)場合
    $2a{\lt}2b$

    左辺、右辺それぞれに $2$ を掛けた $2a$、$2b$ は、不等式 \[2a\lt2b\] を満たす。

    $\dfrac{a}{3}\lt\dfrac{b}{3}$

    また、左辺、右辺それぞれを $3$ で割った値 $\dfrac{a}{3}$、$\dfrac{b}{3}$ も、不等式 \[\dfrac{a}{3}\lt \dfrac{b}{3}\] を満たす。

    つまり、「不等式の両辺に同じ正の数を掛けても(割っても)、もとの不等式と不等号の向きが変わらない」といえる。

  3. 両辺に負の数を掛ける(割る)場合
    $-2a\gt-2b$

    左辺、右辺それぞれに $-2$ を掛けた $-2a$、$-2b$ は、不等式 \[-2a\gt-2b\] を満たす。

    $-\dfrac{a}{3}\gt-\dfrac{b}{3}$

    また、左辺、右辺それぞれを $-3$ で割った値 $-\dfrac{a}{3}$、$-\dfrac{b}{3}$ も、不等式 \[-\dfrac{a}{3}\gt -\dfrac{b}{3}\] を満たす。

    つまり、「不等式の両辺に同じ負の数を掛ける(割る)と、もとの不等式と不等号の向きが逆になる」といえる。

以上をまとめると次のようになる。

不等式の性質

  1. すべての実数 $c$ で \begin{align}&a{\lt}b\\ \Leftrightarrow&a+c{\lt}b+c、a-c{\lt}b-c\end{align}
  2. $0{\lt}c$ のとき\begin{align}&a{\lt}b\\ \Leftrightarrow&ac{\lt}bc、\dfrac{a}{c}{\lt}\dfrac{b}{c}\end{align}
  3. $c{\lt}0$ のとき \begin{align}&a{\lt}b\\ \Leftrightarrow&ac{\gt}bc、\dfrac{a}{c}{\gt}\dfrac{b}{c}←逆符号!\end{align}

不等式の性質

$a\lt b$ のとき、次のそれぞれ大小関係を、不等号を使って表せ。

  1. $a+2$ と $b+2$
  2. $a-2$ と $b-2$
  3. $2a$ と $2b$
  4. $-2a$ と $-2b$

  1. $\boldsymbol{a+2\lt b+2}$
  2. $\boldsymbol{a-2\lt b-2}$
  3. $\boldsymbol{2a\lt 2b}$
  4. $\boldsymbol{-2a\gt -2b}$
    $\blacktriangleleft$ 負の数で割ると不等号の向きは逆になる

暗記不等式の移項の仕組み

  1. $x+y\lt z~~\Leftrightarrow~~x\lt z-y$
  2. $x-y\lt z~~\Leftrightarrow~~x\lt z+y$
  3. $y\gt 0のとき、yx\lt z~~\Leftrightarrow~~{x\lt \dfrac{z}{y}}$
  4. $y\lt 0のとき、yx\lt z~~\Leftrightarrow~~{x\gt \dfrac{z}{y}}$

  1. \begin{align}x+y\lt z\\ \Leftrightarrow~&x+y-y\lt z-y\\ \Leftrightarrow~&x\lt z-y\\ &\blacktriangleleft 不等式の性質 \end{align}
  2. \begin{align}x-y\lt z\\ \Leftrightarrow~&x-y+y\lt z+y\\ \Leftrightarrow~&x\lt z+y\\ &\blacktriangleleft 不等式の性質 \end{align}
  3. \begin{align}yx\lt z\\ \Leftrightarrow~&yx\times\frac{1}{y}\lt z\times\frac{1}{y}\\ \Leftrightarrow~&x\lt \frac{z}{y}\\ &\blacktriangleleft 不等式の性質 \end{align}
  4. \begin{align}yx\lt z\\ \Leftrightarrow~&yx\times\frac{1}{y}\gt z\times\frac{1}{y}\\ \Leftrightarrow~&x\gt \frac{z}{y}\\ &\blacktriangleleft 不等式の性質 \end{align}

吹き出し無題

以上のことから、不等式は等式の場合と同じように移項いこう (transposition) できるのがわかる。ただし、不等式の場合には「両辺に同じ負の数を掛けたり割ったりすると、もとの不等式と不等号の向きが逆になる」ことに注意しよう。