独立事象

条件付確率で見たように,ある事象について何らかの新しい情報が得られると,その事象の起こりやすさについての私達の知識は変わることがあった.しかし,以下でみるように,情報によっては何の役にも立たないことがある.

例として,硬貨を投げ,さらにさいころを投げるという試行を考えよう.この試行の標本空間 $U$ を

とする.このとき,この12個の根元事象はどれも同様に確からしい.

また,硬貨の表が出るという事象を $A$ ,さいころの1の目が出るという事象を $B$ とすると

である.

今, $P_A(B)$ つまり,硬貨の表が出たという条件の下,さいころの1の目が出る確率は

\[P_A(B)=\frac{n(A\cap{B})}{n(A)}=\frac{1}{6}\]

であるが, $P(B)$ つまり,さいころの1の目が出る確率が

\[P(B)=\frac{n(B)}{n(U)}=\frac{2}{12}=\frac{1}{6}\]

であるから

\[P_A(B)=P(B)\tag{1}\label{dokurituzisyou}\]

が成り立つ.

また, $\eqref{dokurituzisyou}$ が成り立つとき,一般に

\begin{align} P_A(B)&=P(B)\\ \Leftrightarrow \frac{n(A\cap{B})}{n(A)}&=\frac{n(B)}{n(U)}\\ \Leftrightarrow \frac{n(A\cap{B})}{n(B)}&=\frac{n(A)}{n(U)}\\ \Leftrightarrow P_B(A)&=P(A)\\ \end{align}

も成り立つ.

独立の定義

2つの事象 $A,B$ において

\[P_A(B)=P(B)\quad\bigl(\Leftrightarrow{P_B(A)=P(A)}\bigr)\]

が成り立つとき,事象 $A$ と $B$ は独立(independent)である,または独立事象(independent event)であるという.

この式は「ある事象 $A$ の条件の下, $B$ の起こる確率」と 「(ただ単に) $B$ の起こる確率」が等しいことをいっている.つまり 事象が独立であるということは

一方の事象の起こることが他の事象の起こる確率に何の影響も与えない

ことを意味している.

また,事象が独立であるとき,つまり $P_A(B)=P(B)$ であるとき,乗法定理より

\[\bigl(P(A\cap{B})=\bigr)P(A)P_A(B)=P(A)P(B)\]

が成り立つ.

独立事象の乗法定理

「事象 $A$ と $B$ が独立である」 $\Longleftrightarrow P(A\cap{B})=P(A)P(B)$

独立事象

次の事象 $A,B$ のうち, $A$ と $B$ が独立であるものはどれか選べ.

  1. 白球4個,赤球3個の入っている袋から2回球を取り出す試行について考える.ただし,1回取り出した球は袋に戻さないものとする.
  2. $A$ :「1回目に白球を取り出す」

    $B$ :「2回目に白球を取り出す」

  3. 白球4個,赤球3個の入っている袋から2回球を取り出す試行について考える.ただし,1回取り出すごとに球は袋に戻すものとする.

    $A$ :「1回目に白球を取り出す」

    $B$ :「2回目に白球を取り出す」

  4. ジョーカーを除いた1組のトランプ52枚の中から,1枚を引く試行について考える.
  5. $A$ :「ハートのカードを引く」

    $B$ :「エースのカードを引く」

  6. ジョーカーを含む1組のトランプ53枚の中から,1枚を引く試行について考える.
  7. $A$ :「ハートのカードを引く」

    $B$ :「エースのカードを引く」

  1. 2回目に取り出す球だけに着目すると,その取り出し方には $4+3=7$ 通りあり,これらはどれも同様に確からしい.
  2. よって,2回目に白球を取り出す確率 $P(B)$ は

    $\blacktriangle$ 2回目に取り出す球のみで標本空間を作っていることに注意しよう

    \[P(B)=\frac{4}{7}\]

    また,1回目に白球を取り出したという条件の下,2回目に白球を取り出す確率 $P_A(B)$ は

    \[P_A(B)=\frac{3}{6}=\frac{1}{2}\]

    $\blacktriangleleft$ 一度引いた球は元に戻さないことに注意

    以上より, $P_A(B)\neq P(B)$ なので,事象 $A$ と $B$ は独立ではない

    《別解:独立事象の乗法定理を使う》

    2回目に白球を取り出すには,次の2つの場合があり,これらは排反である.

    1. 1回目に白球を取り出し,2回目に白球を取り出す
    2. 1回目に赤球を取り出し,2回目に白球を取り出す

    まず,i. の場合の確率は

    \[\frac{4}{7}\cdot\frac{3}{6}=\frac{2}{7}\]

    $\blacktriangleleft$ 乗法定理

    次に,ii. の場合の確率は

    \[\frac{3}{7}\cdot\frac{4}{6}=\frac{2}{7}\]

    $\blacktriangleleft$ 乗法定理

    よって, $P(B)$ は

    \[P(B)=\frac{2}{7}+\frac{2}{7}=\frac{4}{7}\]

    $\blacktriangleleft$ 排反事象の加法定理

    また,1回目に白球を取り出した条件の下,2回目に白球を取り出す確率 $P_A(B)$ は

    \[P_A(B)=\frac{3}{6}=\frac{1}{2}\]

    $\blacktriangleleft$ 一度引いた球は元に戻さないことに注意

    以上より, $P_A(B)\neq P(B)$ なので,事象 $A$ と $B$ は独立ではない