不等式の証明
前の章では等式の証明について考えてきたが、この章では不等式の証明について考えていく。
不等式の証明の基本
数学Ⅱにおける不等式の性質
FTEXT 数学Iで学んだように,2つの実数$a,b$の間には
\[a>b,~a=b,~a \lt b\]のうち,いずれか1つの関係が成り立ち,特に不等式には次のような性質があった.
不等式の性質
- すべての実数 $c$ で $a \lt b$ \[\Leftrightarrow a+c \lt b+c, a-c \lt b-c\]
- $0 \lt c$ のとき $a \lt b$ \[\Leftrightarrow ac \lt bc, \frac{a}{c} \lt \frac{b}{c}\]
- $c \lt 0$ のとき$a \lt b$ \[\Leftrightarrow ac>bc, \frac{a}{c} \gt \frac{b}{c} \text{←逆向き!}\]
不等式の証明の基本について
不等式 $A > B$ を証明するには, $A$ がだんだん小さくなるように変形していって,それでもなお $B$ より大きいことを示せばよい. たとえば,$\sqrt{x^4+2x^2+2}>x^2+1$を示すには
\begin{eqnarray} \text{(左辺)}&=&\sqrt{x^4+2x^2+2}\\ &\gt&\sqrt{x^4+2x^2+1} ← 根号の中の値が1だけ小さくなっている\\ &=&\sqrt{(x^2+1)^2}\\ &=&x^2+1=\text{(右辺)} \end{eqnarray}とすればよい.
しかし,一般には $A > B$ と同値である $A − B > 0$ を示すことの方が簡単なことが多い. そのため,このテキストでも適宜 $A − B > 0$ を示す方法を利用する.
不等式の証明
不等式 $A > B$ を証明するには,それと同値の内容である, $A − B > 0$ を示せばよい.
なお $A>B\Rightarrow A\geqq{B}$ であるため, $A\geqq{B}$ を証明するには $A>B$ をいえば十分である.
不等式の証明-その1-
次の不等式を証明せよ.
- $a > 1,b > 1$ ならば,
$\qquad ab + 1 > a + b$ - $a > c,b > d$ ならば,
$\qquad ab + cd > ad + bc$
(左辺) $-$ (右辺)を計算すると
\begin{align} &ab+1-(a+b) \\ &=a(b-1)-(b-1) \\ &=(a-1)(b-1) \end{align}$a > 1,b > 1$ より,$a − 1 > 0,b − 1 > 0$ だから,$(a − 1)(b − 1) > 0$ が成り立つ.
以上より, $ab + 1 > a + b$ が証明された.
(左辺) $-$ (右辺)を計算すると
\begin{align} & (ab+cd)-(ad+bc) \\ &=a(b-d)-c(b-d) \\ &=(a-c)(b-d) \end{align}$a > c,b > d$ より, $a − c > 0,b − d > 0$ だから, $(a − c)(b − d) > 0$ が成り立つ.
以上より, $ab + cd > ad + bc$ が証明された.
平方による比較
$a > 0$ かつ $b > 0$ のとき, $a + b > 0$ で
\begin{align} a^2-b^2=(a+b)(a-b) \end{align}であるから, $a – b$ の符号と $a^2 – b^2$ の符号は同じものになり次のことがいえる.
平方による比較
このことから,2つの数 $a,b$ がともに $0$ 以上のときには, $a > b$ が成り立つことを証明する代わりに, $a^2 > b^2$ が成り立つことを証明すればよいことがわかる. この論法は,次の例題でみるように,根号を含む不等式の変形の際に活躍する.
平方による比較
次の不等式を証明せよ.等号のあるものについては,等号が成り立つ場合を調べよ.
- $ a > 0$ かつ $b > 0$ のとき
$\sqrt{a}+\sqrt{b}>\sqrt{a+b}$を証明せよ. - $a\geqq0$ かつ $b\geqq0$ のとき,
$3\sqrt{a}+2\sqrt{b}\geqq\sqrt{9a+4b}$ を証明せよ.
$\sqrt{a}+\sqrt{b}~(>0)\geqq0,\sqrt{a+b}~(>0)\geqq0$ なので, (左辺)$^2 > $ (右辺)$^2$ を示せばよい. $\blacktriangleleft$ 平方による比較
(左辺)$^2 − $ (右辺)$^2$
\begin{eqnarray} &=&a+2\sqrt{ab}+b-(a+b)\\ &=&2\sqrt{ab}>0 \end{eqnarray}よって,(左辺) $>$ (右辺)が証明された.
$3\sqrt{a}+2\sqrt{b}\geqq0,\sqrt{9a+4b}\geqq0$ なので,
(左辺) $^2\geqq$ (右辺) $^2$ を示せばよい. $\blacktriangleleft$ 平方による比較
(左辺) $^2 −$ (右辺) $^2$
\begin{align} &=\left(3\sqrt{a}+2\sqrt{b}\ \right)^2-\left(\sqrt{9a+4b}\ \right)^2\\ &=9a+12\sqrt{ab}+4b-(9a+4b)\\ &=12\sqrt{ab}\geqq0 \end{align}
(左辺) $\geqq$ (右辺)が証明された.
特に,等号が成立するのは, $12\sqrt{ab}=0$ ,すなわち $a = 0$ または $b = 0$ のときである.
さきほども述べたように,不等式 $A\geqq B$ を証明する基本は,それと同値の内容の $A-B\geqq0$ を証明することである. ある値が $0$ 以上になることをいうには,一般にはいろいろな方法があるが, 次の節から扱う有名な不等式を利用することが多い.
実数の平方
実数の平方について
不等式の性質より, $a \gt 0$ のとき$a^2 \gt 0,a \lt 0$ のとき $a^2 \gt 0$ である. また, $a = 0$ のときは $a^2 = 0$ であるから,次の不等式が成り立つ.
実数の平方
$a$ が実数のとき, $a^2 \geqq 0$ が成り立つ.等号が成り立つのは $a = 0$ のときに限る.
この性質は,2次関数などですでに何度も使われているが,ここであらためて確認しておく.
実数の平方を利用した不定式の証明
次の不等式を証明せよ.等号のあるものについては,等号が成り立つ場合を調べよ.
- $ (x+y)^2-2xy \geqq x^2-y^2 $
- $x^3 \gt y^3$ のとき,$x \gt y$
- $x \geqq y \geqq 0$ のとき,
$\sqrt{x}+\sqrt{y}\leqq \sqrt{2(x+y)}$
(左辺) $−$ (右辺)を計算すると
(左辺) $−$ (右辺) \begin{eqnarray} &=&(x+y)^2-2xy-(x^2-y^2)\\ &=&(x^2+y^2+2xy)-2xy-x^2+y^2\\ &=&2y^2\geqq 0 \end{eqnarray} $\qquad\qquad \blacktriangleleft $実数の平方
より,(左辺) $\geqq$ (右辺)である.
また,等号が成立するのは, $2y^2 = 0$ ,すなわち $y = 0$ のときである.
条件式の(左辺) $−$ (右辺)を計算すると
\begin{align} &x^3-y^3>0 \\ \Leftrightarrow~&(x-y)(x^2+xy+y^2)>0 \\ \Leftrightarrow~&(x-y)\left\{\left(x+\dfrac{y}{2}\right)^2-\dfrac{y^2}{4}+y^2\right\}\\ >&0 \end{align} $\blacktriangleleft$平方完成をした \begin{align} \Leftrightarrow~&(x-y)\left\{\left(x+\dfrac{y}{2}\right)^2+\dfrac{3y^2}{4}\right\}\\ >&0 \end{align}$\tag{1}\label{jissuunoheihouriyouhutousikisyoumei}$
$\left(x+\dfrac{y}{2}\right)^2+\dfrac{3y^2}{4}\geqq0$ であるが,$\left(x+\dfrac{y}{2}\right)^2+\dfrac{3y^2}{4}=0$ のときは,$\eqref{jissuunoheihouriyouhutousikisyoumei}$が成り立たないので, $\left(x+\dfrac{y}{2}\right)^2+\dfrac{3y^2}{4}>0$ である. $\blacktriangleleft$ 実数の平方
よって,$\eqref{jissuunoheihouriyouhutousikisyoumei}$より $x − y > 0$ ,すなわち $x > y$ .
(右辺) $\geqq0$ ,(左辺) $\geqq0$ なので, (右辺) $^2 − $ (左辺)) $^2\geqq0$ を証明すればよい. $\blacktriangleleft$ 平方による比較
(右辺) $^2 − $ (左辺) $^2=\left(\sqrt{2(x+y)}\ \right)^2-\left(\sqrt{x}+\sqrt{y}\ \right)^2 $
\begin{align} &=2(x+y)-(x+2\sqrt{xy}+y)\\ &=x+y-2\sqrt{xy}\\ &=(\sqrt{x}-\sqrt{y}\ )^2\geqq0 \end{align} $\blacktriangleleft$ 実数の平方であるので,(右辺) $^2\geqq$ (左辺) $^2$であり, (右辺) $\geqq$ (左辺)である.
また,等号が成立するのは, $\sqrt{x}-\sqrt{y}=0$ ,すなわち $x = y$ のときである.
相加平均と相乗平均
相加平均とは何か
日常では,たとえば数学のテストが60点,英語のテストが80点だったとすると,足して2で割る,すなわち次の計算
\begin{align} \frac{60+80}{2}=70 \end{align}によって平均点を出す.
また,3教科の場合,たとえば数学のテストが60点,英語のテストが80点,国語のテストが40点だったとすると
\begin{align} \frac{60+80+40}{3}=60 \end{align}という計算によって,平均点60点を出す.
このような,平均のとり方を相加平均といい,一般には次のようにまとめられる.
相加平均
$n$ 個の $0$ 以上の数 $a_1,~a_2,~\cdots,~a_n$ において
\begin{align} \frac{a_1+a_2+\cdots+a_n}{n} \end{align}を, $a_1,~a_2,~\cdots,~a_n$ の相加平均(artithmetic mean)という.
特に, $n = 2$ のとき $\dfrac{a_1+a_2}{2}$ であり, $n = 3$ のとき$\dfrac{a_1+a_2+a_3}{3}$ である.
相加平均
次の値の相加平均を求めよ.
- $24,56$
- $ \dfrac{1}{2},\dfrac{1}{3} $
- $ \dfrac{3}{2},\dfrac{1}{3},\dfrac{5}{4}$
- $1,\sqrt{3},\dfrac{\sqrt{2}}{3}$
- $\dfrac{24+56}{2}=\dfrac{80}{2}=\boldsymbol{40} $
- $ \dfrac{\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}}{2}=\dfrac{\dfrac{5}{6}}{2}=\boldsymbol{\dfrac{5}{12}} $
- $ \dfrac{\dfrac{3}{2}+\dfrac{1}{3}+\dfrac{5}{4}}{3}=\dfrac{\dfrac{18+4+15}{12}}{3}$
$\qquad\qquad\qquad=\dfrac{\dfrac{37}{12}}{3}=\boldsymbol{\dfrac{37}{36}} $ - $ 1+\sqrt{3}+\dfrac{\sqrt{2}}{3}=\dfrac{3+3\sqrt{3}+\sqrt{2}}{3}$ より、
$\qquad\qquad\qquad\boldsymbol{\dfrac{3+3\sqrt{3}+\sqrt{2}}{9}}$
数学での平均の考え方
「平均」とは「平たいらに均ならす」ということであるが,数学では次のように定義する.
平均の定義
2つの数$a_1,a_2$において
- $a_1$ と $a_2$ を使った計算で求められるものであり
- 必ず $a_1$ と $a_2$ の間の数として求められるもの
を $a_1,a_2$ の平均(mean)という.
たとえば, $a1,a2$ を $0\leqq a_1\leqq{a_2}$ を満たす数として,その相加平均$\dfrac{a_1+a_2}{2}$ を考えると, 不等式の性質より
\begin{align} a_1+a_1\leqq a_1+a_2~~,~~~a_1+a_2\leqq a_2+a_2 \end{align}が成り立つので
\begin{align} &a_1+a_1\leqq a_1+a_2\leqq a_2+a_2\\ \Leftrightarrow~&\dfrac{a_1+a_1}{2}\leqq\dfrac{a_1+a_2}{2}\leqq\dfrac{a_2+a_2}{2}\\ \Leftrightarrow~&a_1\leqq\dfrac{a_1+a_2}{2}\leqq a_2 \end{align}つまり, $a1$ と $a2$ の相加平均 $\dfrac{a_1+a_2}{2}$ は,それら2つの数の間にあることが示され, 数学で使う平均であることがわかる.
3つ以上の数についての平均は
- それら3つ以上の数を使った計算で求められるものであり
- 必ずそれらのうちの最も大きいものと最も小さいものの間の数として求められるもの
として考える.
相乗平均とは何か
2つの $0$ 以上の数 $a_1,a_2$ について, $a_1$ と $a_2$ をかけて平方根をとった値,すなわち $\sqrt{a_1a_2}$ は, $a_1$ と $a_2$ の平均になっている.以下でそのことを確かめてみよう.
$a_1,a_2$ を $0\leqq a_1\leqq a_2$ を満たす数とすると,不等式の性質より
\begin{align} a_1\cdot a_1\leqq a_1\cdot a_2 \ , \ \ a_1\cdot a_2\leqq a_2\cdot a_2 \end{align}が成り立つので
\begin{align} &a_1\cdot a_1\leqq a_1\cdot a_2\leqq a_2\cdot a_2 \\ \therefore~ &\sqrt{{a_1}^2}\leqq\sqrt{a_1a_2}\leqq\sqrt{{a_2}^2} \\ \therefore~ &a_1\leqq\sqrt{a_1a_2}\leqq a_2 \end{align} ← 平方による比較となり, $\sqrt{a_1a_2}$ は$a_1$ と $a_2$の平均になっているのがわかる.
このような平均のとり方を相乗平均という.
3つの正の数 $a_1,a_2,a_3$ の場合の相乗平均は, $\sqrt[3]{a_1a_2a_3}$ となる. ここで, $\sqrt[3]{a}$ は $a$ の3乗根といい,3乗すると $a$ となる数を表す. 一般の $n$ 乗根については累乗根を参照のこと.
相乗平均について,一般には次のようにまとめられる.
相乗平均
$n$ 個の $0$ 以上の数 $a_1,~a_2,~\cdots,~a_n$ において
\[\sqrt[n]{a_1a_2\cdots a_n}\]を, $a_1,~a_2,~\cdots,~a_n$ の相乗平均(geometric mean)という.
特に, $n = 2$ のとき $\sqrt{a_1a_2}$ であり, $n = 3$ のとき $\sqrt[3]{a_1a_2a_3}$ である.
相乗平均
次の値の相乗平均を求めよ.
- $2~,~~8$
- $1~,~~3~,~~9$
$ \sqrt{2\cdot 8}=\sqrt{16}=\boldsymbol{4} $
$ \sqrt[3]{1\cdot 3\cdot 9}=\sqrt[3]{27}=\boldsymbol{3} $
相加平均と相乗平均の関係
$n = 2$ のときの相加平均と相乗平均の式は,それぞれ
\begin{align} \dfrac{a_1+a_2}{2}~,~~\sqrt{a_1a_2} \end{align}である.
いま, $\dfrac{a_1+a_2}{2}-\sqrt{a_1a_2}$ を計算していくと
\begin{align} &\qquad\dfrac{a_1+a_2}{2}-\sqrt{a_1a_2} \\ &=\dfrac{a_1-2\sqrt{a_1a_2}+a_2}{2}\\ &=\dfrac{1}{2}\left(\sqrt{a_1}-\sqrt{a_2}\ \right)^2\geqq0 \end{align}より
\begin{align} \dfrac{a_1+a_2}{2}\geqq\sqrt{a_1a_2} \end{align}すなわち,相加平均は相乗平均以上であることがわかる.
一般には次のような関係が成り立つ.
相加平均と相乗平均の関係
$n$ 個の $0$ 以上の数 $a_1,~a_2,~\cdots,~a_n$ において,相加平均$\dfrac{a_1+a_2+\cdots+a_n}{n}$ と 相乗平均 $\sqrt[n]{a_1a_2\cdots a_n}$ の間には,次のような関係が成り立つ.
\begin{align} \dfrac{a_1+a_2+\cdots+a_n}{n}\geqq\sqrt[n]{a_1a_2\cdots a_n} \end{align}等号が成立するのは, $a_1=a_2=\cdots=a_n$ のときである.
特に, $n = 2$ のときは
\begin{align} \dfrac{a_1+a_2}{2}\geqq\sqrt{a_1a_2} \end{align}(等号成立は $a_1=a_2$ ,)
であり, $n = 3$ のときは
\begin{align} \dfrac{a_1+a_2+a_3}{3}\geqq\sqrt[3]{a_1a_2a_3} \end{align}(等号成立は $a_1=a_2=a_3$ ,)
である.
吹き出し相加平均と相乗平均の関係
相加平均と相乗平均の関係式は,分母をはらった
\begin{align} a+b\geqq2\sqrt{ab} \end{align}の形で使われることが多い. 左辺の和 $a + b$ と,右辺の積 $ab$ の間の関係を与えたものだということに注目しよう.
暗記3文字の場合の相加平均と相乗平均の関係の証明
等式
\begin{eqnarray} &&x^3+y^3+z^3-3xyz\\ &=&(x+y+z)(x^2+y^2+z^2\\ &&\qquad\qquad\qquad-xy-yz-zx) \end{eqnarray}$\qquad\tag{1}\label{anki3mozinobaai} $
が成り立つことを利用して, $a_1\geqq0,a_2\geqq0,a_3\geqq0$ のとき
\begin{align} \frac{a_1+a_2+a_3}{3}\geqq\sqrt[3]{a_1a_2a_3} \end{align}を証明せよ.また,等号が成立する条件も求めよ.
$x=\sqrt[3]{a_1},y=\sqrt[3]{a_2},z=\sqrt[3]{a_3}$ とおくと,
$x\geqq0,y\geqq0,z\geqq0$ で,
$x^3+y^3+z^3=a+b+c,$
$xyz=\sqrt[3]{a_1}\sqrt[3]{a_2}\sqrt[3]{a_3}=\sqrt[3]{a_1a_2a_3}$ である.
$\eqref{anki3mozinobaai}$において
\begin{align} &\quad x^2+y^2+z^2-xy-yz-zx\\ &=\dfrac{1}{2}\left\{(x-y)^2+(y-z)^2\right.\\ &\qquad\qquad\qquad\left.+(z-x)^2\right\}\geqq0 \end{align} $\blacktriangleleft$ 実数の平方であり
\begin{align} x+y+z\geqq0 \end{align}であるから
\begin{align} &x^3+y^3+z^3\geqq3xyz\\ &\Leftrightarrow~\dfrac{x^3+y^3+z^3}{3}\geqq xyz \end{align}よって
\begin{align} \dfrac{a_1+a_2+a_3}{3}\geqq\sqrt[3]{a_1a_2a_3} \end{align}また,等号が成立するのは $x = y = z,$ すなわち $a1 = a2 = a3$ のとき.
一般の場合の証明は,付録一般の場合の相加平均と相乗平均の関係を参照のこと.
相加平均と相乗平均の関係を利用した不等式の証明
ただし, $x > 0,y > 0,z > 0$ とする.
- $x+\dfrac{1}{x}\geqq 2 $
- $x+\dfrac{9}{x+2}\geqq 4$
- $\left(x+\dfrac{1}{y}\right)\left(y+\dfrac{4}{x}\right)\geqq 9$
- $(x+y)(y+z)(z+x)\geqq 8xyz $
$ x>0,\dfrac{1}{x}>0$ であるから,相加平均と相乗平均の関係より
$\blacktriangle x$と$\dfrac{1}{x}$をかけると約分され定数になることに着目した
\begin{align} x+\dfrac{1}{x}\geqq 2\sqrt{x\cdot\dfrac{1}{x}}=2 \end{align}また,等号が成立するのは $x=\dfrac{1}{x}$ ,すなわち $x = 1$ のときである. $\blacktriangleleft x > 0$ である
$x + 2 > 0,\dfrac{1}{x+2}>0$ であるから,相加平均と相乗平均の関係より
$\blacktriangle$ (1)のような形にもちこみたいため, $x$ ではなく $x + 2$ をかたまりとして考えてみる.
\begin{align} &(x+2)+\dfrac{9}{(x+2)}\\ &\geqq 2\sqrt{(x+2)\cdot\dfrac{9}{x+2}}=6 \end{align}よって, $x+\dfrac{9}{(x+2)}\geqq 4$ となる.
また,等号が成立するのは $x+2=\dfrac{9}{x+2}$ ,すなわち
\begin{align} &(x+2)^2=9 \\ \Leftrightarrow~&(x+5)(x-1)=0\\ \therefore~&x=1 \end{align} $\blacktriangleleft x > 0$ であるのときである.
$ x > 0,\dfrac{1}{x}>0,y > 0,\dfrac{1}{y}>0$であるから, 相加平均と相乗平均の関係より
\begin{align} & \left(x+\dfrac{1}{y}\right)\left(y+\dfrac{4}{x}\right) \\ &=xy+\dfrac{4}{xy}+1+4 \\ &\geqq 2\sqrt{xy\cdot\dfrac{4}{xy}}+1+4=9 \end{align} $\blacktriangleleft xy$ と $\dfrac{1}{xy}$ をかけると約分されて定数になるような形があらわれたまた,等号が成立するのは, $xy=\dfrac{4}{xy}$ ,すなわち
\begin{align} &x^2y^2=4 \\ \therefore~&xy=2 \end{align} $\blacktriangleleft x > 0,y > 0$ より, $xy > 0$ であるのときである.
$x > 0,y > 0,z > 0$ であるから,相加平均と相乗平均の関係より
\begin{align} &x+y\geqq 2\sqrt{xy}\\ &y+z\geqq 2\sqrt{yz}\\ &z+x\geqq 2\sqrt{zx} \end{align}であるから,辺々を掛け合わせて
(左辺)
\begin{align} &\geqq (2\sqrt{xy})(2\sqrt{yz})(2\sqrt{zx})\\ &=8xyz \end{align}また,等号が成立するときは $x = y,y = z,z = x$ ,すなわち $x = y = z$ のときである.
相加平均と相乗平均の関係は,上の例題で見たような不等式の証明だけでなく,次の例題でみるように最小値を求める際にも利用できる.
相加平均と相乗平均の関係を利用して最小値を求める
次の関数の最小値を求めよ.
- $f(x)=x+\dfrac{1}{x}~~~(x>0) $
- $f(x,~y)=\dfrac{y}{x}+\dfrac{x}{y}~~~(x>0,~y>0)$
$ x > 0$より$\dfrac{1}{x}>0$であるから,相加平均と相乗平均の関係より
\begin{align} x+\dfrac{1}{x}\geqq2\sqrt{x\cdot\dfrac{1}{x}}=2 \end{align}$\blacktriangle$ ここまででいえたことは $f(x)\geqq2$ である
等号が成り立つのは $x=\dfrac{1}{x}$ ,すなわち
\begin{align} &x^2=1 \\ \therefore~~ &x=1 \end{align} $\blacktriangleleft x > 0$ である以上より,最小値は $f(1)=\boldsymbol{2}$ とわかる.
$\blacktriangle$ 等号が成立する $x$ の存在がわかって初めて最小値といえる.
$\dfrac{y}{x}>0~,~~\dfrac{x}{y}>0$ であるから,相加平均と相乗平均の関係より
\begin{align} &\dfrac{y}{x}+\dfrac{x}{y}\geqq2\sqrt{\dfrac{y}{x}\cdot\dfrac{x}{y}}=2 \end{align}$\blacktriangle$ ここまででいえたことは $f(x,~y)\geqq2$ である
等号が成り立つのは $\dfrac{y}{x}=\dfrac{x}{y}$ のとき.これを計算していくと
\begin{align} &x^2=y^2\\ \Leftrightarrow~&x^2-y^2=0\\ \Leftrightarrow~&(x-y)(x+y)=0 \end{align}$x > 0,y > 0$ なので, $x+y\neq0$ であるから, $x = y$ となる.
以上より,最小値は $f(x,x)=\boldsymbol{2}$ とわかる.
$\blacktriangle$ 等号が成立する $x$ と $y $ の存在がわかって初めて最小値といえる.
吹き出し相加平均と相乗平均の関係
相加平均と相乗平均の関係を使って最小値を求める方法は
- 関数がある値以上であることを示し(不等式の証明)
- その関数がある値になることを示す(等号成立条件)
という2つのプロセスから成り立っていることに注意しよう.
コーシー・シュワルツの不等式
コーシー・シュワルツの不等式とは何か
コーシー・シュワルツの不等式
$a,b,x,y$ を実数とすると
\begin{align} (ax+by)^2\leqq(a^2+b^2)(x^2+y^2) \end{align}が成り立ち,これをコーシー・シュワルツの不等式(Cauchy-Schwarz's inequality)という.
等号が成立するのは
\begin{align} a:b=x:y \end{align}のときである.
暗記コーシー・シュワルツの不等式の証明-2変数版-
上のコーシー・シュワルツの不等式を証明せよ.また,等号が成立する条件も確認せよ.
(右辺) $-$ (左辺)より
\begin{align} &(a^2+b^2)(x^2+y^2)-(ax+by)^2\\ &=(a^2x^2+b^2x^2+a^2y^2+b^2y^2)\\ &-(a^2x^2+2abxy+b^2y^2)\\ &=b^2x^2-2(bx)(ay)+a^2y^2\\ &=(bx-ay)^2\geqq0 \end{align}等号が成立するのは, $(bx − ay)^2 = 0$ ,すなわち $bx − ay = 0$ のときであり,これは
\begin{align} a:b=x:y \end{align}のことである. $\blacktriangleleft$ 比例式
暗記コーシー・シュワルツの不等式の証明-3変数版-
$a,b,c,x,y,z$ を実数とすると
\begin{align} & (ax+by+cz)^2\\ \leqq&(a^2+b^2+c^2)(x^2+y^2+z^2) \end{align}が成り立つことを証明せよ.
また,等号が成り立つ条件も求めよ.
(右辺) $-$ (左辺)より
\begin{align} & a^2(y^2+z^2)+b^2(x^2+z^2)\\ &\quad+c^2(x^2+y^2)\\ &\quad-2(abxy+bcyz+acxz)\\ &=a^2y^2-2(ay)(bx)+b^2x^2\\ &\quad+a^2z^2-2(az)(cx)+c^2x^2\\ &\quad+b^2z^2-2(bz)(cy)+c^2y^2\\ &=(ay-bx)^2+(az-cx)^2\\ &\quad+(bz-cy)^2\geqq 0 \end{align}等号が成立するのは, $(ay-bx)^2=0,~(az-cx)^2=0,$
$~(bz-cy)^2=0$ すなわち,
$ ay-bx=0,~az-cx=0,$
$~bz-cy=0$ のときであり,これは
一般の場合のコーシー・シュワルツの不等式に関しては,付録一般の場合のコーシー・シュワルツの不等式を参照のこと.
コーシー・シュワルツの不等式を利用して最小値を求める
コーシー・シュワルツの不等式を利用して,次の関数の最大値と最小値を求めよ.
- $f(x,~y)=x+2y$
ただし,$x^2 + y^2 = 1$とする. - $f(x,~y,~z)=x+2y+3z$
ただし,$x^2 + y^2 + z^2 = 1$とする.
$a = 1,b = 2$ とすると,
コーシー・シュワルツの不等式より $\blacktriangleleft(ax+by)^2\leqq(a^2+b^2)(x^2+y^2)$
\begin{align} (x+2y)^2\leqq(1^2+2^2)(x^2+y^2) \end{align}さらに,条件より $x^2 + y^2 = 1$ であるから
\begin{align} &\quad(x+2y)^2\leqq5\\ &\Leftrightarrow~-\sqrt{5}\leqq x+2y\leqq\sqrt{5} \end{align}$\tag{1}\label{kosishuwarutunohutousikisaisyouti1} $
が成り立つ.
$\eqref{kosishuwarutunohutousikisaisyouti1}$の等号が成り立つのは
\begin{align} x:y=1:2 \end{align}のときである. $x = k,y = 2k$ とおき,$\blacktriangleleft$比例式の知識を使った
$x^2 + y^2 = 1$ に代入すると
\begin{align} &k^2+(2k)^2=1\\ \Leftrightarrow~&k=\pm\dfrac{\sqrt{5}}{5} \end{align}このとき,等号が成り立つ.
以上より,最大値$f\left(\dfrac{\sqrt{5}}{5},~\dfrac{2\sqrt{5}}{5}\right)=\boldsymbol{\sqrt{5}}$ , 最小値 $f\left(-\dfrac{\sqrt{5}}{5},~-\dfrac{2\sqrt{5}}{5}\right)=\boldsymbol-{\sqrt{5}}$ となる.
$a = 1,b = 2,c = 3$ とすると, コーシー・シュワルツの不等式より
$\blacktriangleleft(ax+by+cz)^2$
\begin{align} &(x+2y+3z)^2\\ &\leqq(1^2+2^2+3^2)(x^2+y^2+z^2) \end{align}
$\leqq(a^2+b^2+c^2)(x^2+y^2+z^2)$さらに,条件より $x^2 + y^2 + z^2 = 1$ であるから
\begin{align} &(x+2y+3z)^2\leqq14\\ \Leftrightarrow&~-\sqrt{14}\leqq x+2y+3z\leqq\sqrt{14} \end{align}$\tag{2}\label{kosishuwarutunohutousikisaisyouti2}$
が成り立つ.
$\eqref{kosishuwarutunohutousikisaisyouti2}$の等号が成り立つのは
\begin{align} x:y:z=1:2:3 \end{align}のときである. $x = k,y = 2k,z = 3k$ とおき, $ x^2 + y^2 + z^2 = 1$ に代入すると $\blacktriangleleft$ 比例式の知識を使った.
\begin{align} &k^2+(2k)^2+(3k)^2=1\\ \Leftrightarrow~&k=\pm\dfrac{\sqrt{14}}{14} \end{align}このとき,等号が成り立つ.
以上より,最大値
$f\left(\dfrac{\sqrt{14}}{14},~\dfrac{2\sqrt{14}}{14},~\dfrac{3\sqrt{14}}{14}\right)$
$=\boldsymbol{\sqrt{14}}$ ,
最小値
$f\left(-\dfrac{\sqrt{14}}{14},~-\dfrac{2\sqrt{14}}{14},~-\dfrac{3\sqrt{14}}{14}\right)$
$=\boldsymbol{-\sqrt{14}}$ となる.
吹き出しコーシー・シュワルツの不等式とは何か
コーシー・シュワルツの不等式は\FTEXT 数学Bで学習するベクトルの内積の知識を用いて
\begin{align} \left(\vec{m}\cdot\vec{n}\right)^2\leqq|\vec{m}|^2|\vec{n}|^2 \end{align}と表すことができる. もし,ベクトルを学習済みであったら,$\vec{m}=\begin{pmatrix}a\\b\end{pmatrix},\vec{n}=\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}$を上の式に代入して確認してみよう.
三角不等式
三角不等式とは何か
2つの数 $a,b$ において
\begin{align} |a+b|\leqq|a|+|b| \end{align}が成立し,これを三角不等式(triangle inequality)という.
たとえば, $a = 2,b = 3$ とすると
(左辺)$=|2+3|=5$
(右辺)$=|2|+|3|=5$
となり,確かに(左辺) $\leqq$ (右辺)が成り立つ.
また, $a = − 2,b = 5$ とすると
(左辺)$=|-2+5|=3$
(右辺)$=|-2|+|5|=7$
となり,やはり(左辺) $\leqq$ (右辺)が成り立つ.
上では2つの数における三角不等式をみたが,3つ以上の数についても三角不等式は成り立ち,一般には次のようになる.
三角不等式
$n$ 個の数 $a_1,~a_2,~\cdots,~a_n$ において
\begin{align} &|a_1+a_2+\cdots+a_n|\\ \leqq&|a_1|+|a_2|+\cdots+|a_n| \end{align}が成り立つ.
等号成立は, $a_1,~a_2,~\cdots,~a_n$ がすべて同符号のときである( $0$ は含んでもよい)
特に, $n = 2$ のとき $|a_1+a_2|\leqq|a_1|+|a_2|$ であり, $ n = 3$ のとき$|a_1+a_2+a_3|\leqq|a_1|+|a_2|+|a_3|$ である.
暗記三角不等式の証明
$a_1,a_2,a_3$ に関して,次の不等式を証明せよ.また,等号が成立する条件も求めよ.
- $|a_1+a_2|\leqq |a_1|+|a_2|$
- $|a_1+a_2+a_3|$
$\qquad\leqq |a_1|+|a_2|+|a_3|$
両辺とも負でないから,それぞれを2乗した式
\begin{align} (|a_1+a_2|)^2\leqq(|a_1|+|a_2|)^2 \end{align} $\blacktriangleleft$ 平方による比較を示せばよい.
(右辺) $-$ (左辺)
\begin{align} &=(|a_1|+|a_2|)^2-(|a_1+a_2|)^2 \\ &=|a_1|^2+2|a_1||a_2|+|a_2|^2\\ &\qquad-(a_1+a_2)^2 \\ &={a_1}^2+2|a_1||a_2|+{a_2}^2\\ &\qquad-({a_1}^2-2a_1a_2+{a_2}^2) \end{align} $\blacktriangleleft a$が実数のとき $|a| 2 = a2$である \begin{align} &=2(|a_1||a_2|-a_1a_2)\geqq 0 \end{align} $\blacktriangleleft a$ が実数のとき$|a|\geqq{a}$であるとなるので,(左辺) $\leqq$ (右辺)である.
等号が成立するのは, $|a_1||a_2|− a_1a_2 = 0$ ,すなわち
\begin{align} &|a_1||a_2|-a_1a_2=0 \\ \Leftrightarrow~&|a_1a_2|-a_1a_2=0 \\ \Leftrightarrow~&a_1a_2\geqq0 \end{align} $\blacktriangleleft | a | | b | = | ab |$ である.$\blacktriangle a\geqq0\Leftrightarrow~|a|=a$ である
すなわち, $a_1$ と $a_2$ が同符号のとき( $0$ を含んでもよい)となる.
(左辺)を計算すると
\begin{align} &|a_1+(a_2+a_3)| \\ &\leqq|a_1|+|a_2+a_3| \\ &\leqq|a_1|+|a_2|+|a_3| \end{align} $\blacktriangleleft a_2 + a_3$ を一かたまりとして(1)を利用した.$\blacktriangle a_2$ と $a_3$ に関して(1)を利用した.
となるので,(左辺) $\leqq$ (右辺)である.
等号が成立するのは
\begin{cases} a_1(a_2+a_3)\geqq0 \qquad\cdots(a)\\ a_2a_3\geqq0 \quad\qquad\qquad\cdots(b) \end{cases}(b)より,i) $a_2\geqq0$ かつ $a_3\geqq0$ ,または ii) $~a_2\leqq0$ かつ$a_3\leqq0$ とわかるが
i) $ a_2\geqq0$ かつ $a_3\geqq0$ のとき
(a)より, $a_1\geqq0$
ii) $a_2\leqq0$ かつ $a_3\leqq0$ のとき
(a)より, $a_1\leqq0$
すなわち, $a_1,a_2,a_3$ がすべて同符号のとき( $0$ を含んでもよい)となる.