Processing math: 50%

命題の結合

一見複雑な命題も、よくみると小さな命題が組み合わさってできている。正しさに着目する限り、その組み合せ方は「かつ」、「または」、「~ない」、「ならば」の4通りを考えれば十分である。以下では、その組み合わさり方のパターンをみていく。

命題の「かつ」と「または」

命題の「かつ」

命題の「かつ」

2つの命題 p,q に対して、「p,q は共に真である」という命題を
p かつ q (p and q)」
と表す。

吹き出し命題の「かつ」

p かつ q」の意味は、日常使っている言葉でいうところの、「p しかも q」、「p さらに q」などとほぼ同じ意味である。この辺りを専門に扱う論理学という学問では、日常使う言葉と区別するために「pq」と表す。

この新しい命題「p かつ q」の真偽をまとめると、次の表のようになる

pqp かつ q
(この表を真偽値表 (truth and falsity table) という)。

例えば、命題 p,q をそれぞれ

  • p:「ペンギンは鳥類である」 (真)
  • q:21 より小さい」 (偽)
としたとき、「p かつ q」つまり「ペンギンは鳥類であり、かつ、21 より小さい」の真偽は、p,q のうち q が偽であるから、全体として偽となる。

命題の「または」

命題の「または」

2つの命題 p,q に対して、「p,q の少なくとも一方は真である」という命題を
p または q (p or q)」
と表す。

吹き出し命題の「または」

命題「p または q」は、日常で使う「または」の意味とは少々異なることに注意がいる。命題の「または」が“少なくとも一方は”という意味なのに対し、日常語での「または」では “どちらか一方”の意味で使われることが多い。論理学では「pq」と表し、日常語と区別している。

この新しい命題「p または q」の真偽値表は、次のようになる。

pqp または q

例えば、命題 p,q をそれぞれ

  • p:「ペンギンは鳥類である」 (真)
  • q:21 より小さい」 (偽)
としたとき、「p または q」つまり「ペンギンは鳥類であるか、または、21 より小さい」の真偽は、p,q のうち p が真であるから、全体として真となる。

命題の「かつ」と「または」

次のそれぞれにおいて、「p かつ q」と「p または q」の真偽を答えよ。

    • p:12+13=25
    • q:12×13=16
    • p:216=65536
    • q:210=1024
    • p:1+1=1
    • q:1×1=2

  1. 12+13=56 なので、命題 p は偽であり、また、命題 q は真である。よって

    p かつ q」は

    p または q」は

  2. 命題 p は真であり、命題 q も真である。よって

    p かつ q」は

    p または q」は

  3. 命題 p は偽であり、命題 q も偽である。よって

    p かつ q」は

    p または q」は

命題の否定

命題の否定について

命題の否定

ある命題 p に対して、p が真の場合には偽に、p が偽の場合には真となる命題を、p否定 (negation) といい

p でない (not p)」

と書く。p の否定は、記号 ¯p で表すこともある。

吹き出し命題の否定について

命題の否定は、日常で使う「~ない」の意味と同じである。論理学では「¬p」と表す。

この新しい命題 ¯p の真偽値表は、次のようになる。

p¯p

例えば、真である命題として、命題 p

p:「ペンギンは鳥類である」 (真)

とすると、この命題の否定 ¯p

¯p:「ペンギンは鳥類ではない」 (偽)

となる。また、偽である命題として、命題 q

q:21 より小さい」 (偽)

とすると、この命題の否定 ¯q は、「21 より小さくはない」すなわち

¯q:21 以上である」 (真)

となる。

命題の「ならば」

命題の「ならば」について

命題の「ならば」

2つの命題 p,q に対して、「もし p が真であるならば、q は真である」という命題は、簡単に

p ならば q (if p then q)」

と書かれ、記号で pq と表す。

このとき、初めの命題 p

仮定 (assumption)

といい、後の命題 q

結論 (conclusion)

という。

2つの命題 p,q の真偽それぞれについて、この新しい命題 p{\Rightarrow}q の真偽をまとめると、次の表のようになる。

pqp{\Rightarrow}q
仮定 p が偽のときは、結論 q の真偽にかかわらず、全体として真になることに注意しよう。こうなる理由は次の例を考えてみるとわかりやすい。

ある人が私たちに
「もしテストで100点をとれた (p) ならば、美味しいものをおごってあげる (q)
という約束したとしよう。そのとき、もし私たちがテストで100点をとったのに、美味しいものをおごってもらえなかったら、この人はうそをついたことになる。しかし、テストで100点をとれなかったときには、たとえおごってもらえなくても、この人はうそをついたことにならないし、また、たとえおごってもらったとしても、やはりこの人はうそをついたことにならない。

このように、日常的に用いている「ならば」は、条件が偽のときには結論が真でも偽でも、全体としては偽とはならないという主張なのだと考えられる。それゆえ、「ならば」に対する真偽の割り当ては、上の表のようになるのである。

同値とは何か

命題の同値

2つの命題 p,q に対して、「p{\Rightarrow}q かつ q{\Rightarrow}p」という命題は、簡単に \boldsymbol{p{\Leftrightarrow}q} と書かれる。

p{\Leftrightarrow}q が真であるとき、命題 pq同値 (equivalence)であるという。

2つの命題 p,q の真偽それぞれについて、この新しい命題 p{\Leftrightarrow}q の真偽をまとめると、次の表のようになる。

pqp{\Rightarrow}qq{\Rightarrow}p\boldsymbol{p{\Leftrightarrow}q}
この表からわかるように、pq が同値となるのは、pq がともに真であるときか pq がともに偽であるとき、つまり pq の真偽が一致するときである。つまり、同値である2つの命題は、真偽に関して意味する内容が等しいということである(その意味で同値と呼ぶ)。

例として p と、\overline{p} の否定すなわち \overline{\overline{p}} の真偽値表を書き並べてみると、次のようになる。

p\overline{p}\overline{\overline{p}}
この表をみると、\overline{\overline{p}}p の真偽値は一致しているので同値である。これは、2重否定「p でないということはない」は「p である」ことを意味する。

「ならば」のいいかえ

下の真偽値表を埋め、p{\Rightarrow}q\overline{p} または q が同値、すなわち (p{\Rightarrow}q)\Leftrightarrow(\overline{p}またはq) が成り立つことを示せ。

pq\overline{p}p{\Rightarrow}q\overline{p} または q

pq\overline{p}p{\Rightarrow}q\overline{p} または q

この表より、「p{\Rightarrow}q」と「\overline{p} または q」の真偽が一致するのが確かめられるので、次のことがいえる。

「ならば」のいいかえ

2つの命題 p,q に対して (p{\Rightarrow}q)\Leftrightarrow(\overline{p}またはq) が成り立つ。

ド・モルガンの法則(命題版)

下の真偽値表を埋め、次の関係が成り立つことを示せ。 \overline{p\wedge{q}}\Leftrightarrow(\overline{p}\vee\overline{q}) \overline{p\vee{q}}\Leftrightarrow(\overline{p}\wedge\overline{q})

pq\overline{p}\overline{q}p\wedge{q}p\vee{q}\overline{p\wedge{q}}\overline{p}\vee\overline{q}\overline{p\vee{q}}\overline{p}\wedge\overline{q}

pq\overline{p}\overline{q}p\wedge{q}p\vee{q}\overline{p\wedge{q}}\overline{p}\vee\overline{q}\overline{p\vee{q}}\overline{p}\wedge\overline{q}

この表より、\overline{p\wedge{q}}\overline{p}\vee\overline{q} の真偽と、\overline{p\vee{q}}\overline{p}\wedge\overline{q} の真偽が一致するのが確かめられるので、次のことがいえる。

ド・モルガンの法則(命題版)

2つの命題 p,q に対して \overline{p\wedge{q}}\Leftrightarrow(\overline{p}\vee\overline{q}) \overline{p\vee{q}}\Leftrightarrow(\overline{p}\wedge\overline{q}) が成り立ち、これをド・モルガンの法則という。

逆・裏・対偶

逆・裏・対偶の関係
逆・裏・対偶の関係

p\Rightarrow{q} の形をした命題に対して

q\Rightarrow{p}p\Rightarrow{q}逆 (converse)

\overline{p}\Rightarrow\overline{q}p\Rightarrow{q}裏 (converse of contraposition)

\overline{q}\Rightarrow\overline{p}p\Rightarrow{q}対偶たいぐう (contraposition)

という。

対偶は同値であることの証明

下の真偽値表を埋め、次の関係が成り立つことを示せ。 (p\Rightarrow{q})\Leftrightarrow(\overline{q}\Rightarrow\overline{p})

pq\overline{p}\overline{q}p\Rightarrow{q}\overline{q}\Rightarrow\overline{p}

pq\overline{p}\overline{q}p\Rightarrow{q}\overline{q}\Rightarrow\overline{p}

この表より、p\Rightarrow{q}\overline{q}\Rightarrow\overline{p} の真偽が一致するのが確かめられるので、次のことがいえる。

対偶は同値

2つの命題 p,q に対して (p\Rightarrow{q})\Leftrightarrow(\overline{q}\Rightarrow\overline{p}) が成り立つ。