命題の結合
一見複雑な命題も、よくみると小さな命題が組み合わさってできている。正しさに着目する限り、その組み合せ方は「かつ」、「または」、「~ない」、「ならば」の4通りを考えれば十分である。以下では、その組み合わさり方のパターンをみていく。
命題の「かつ」と「または」
命題の「かつ」
命題の「かつ」
2つの命題 $p,q$ に対して、「$p,q$ は共に真である」という命題を
「$p$ かつ $q$ ($p$ and $q$)」
と表す。
吹き出し命題の「かつ」
「$p$ かつ $q$」の意味は、日常使っている言葉でいうところの、「$p$ しかも $q$」、「$p$ さらに $q$」などとほぼ同じ意味である。この辺りを専門に扱う論理学という学問では、日常使う言葉と区別するために「${p}\wedge{q}$」と表す。
この新しい命題「$p$ かつ $q$」の真偽をまとめると、次の表のようになる
$p$ | $q$ | $p$ かつ $q$ |
真 | 真 | 真 |
真 | 偽 | 偽 |
偽 | 真 | 偽 |
偽 | 偽 | 偽 |
例えば、命題 $p,q$ をそれぞれ
- $p:$「ペンギンは鳥類である」 (真)
- $q:$「$2$ は $1$ より小さい」 (偽)
命題の「または」
命題の「または」
2つの命題 $p,q$ に対して、「$p,q$ の少なくとも一方は真である」という命題を
「$p$ または $q$ ($p$ or $q$)」
と表す。
吹き出し命題の「または」
命題「$p$ または $q$」は、日常で使う「または」の意味とは少々異なることに注意がいる。命題の「または」が“少なくとも一方は”という意味なのに対し、日常語での「または」では “どちらか一方”の意味で使われることが多い。論理学では「${p}\vee{q}$」と表し、日常語と区別している。
この新しい命題「$p$ または $q$」の真偽値表は、次のようになる。
$p$ | $q$ | $p$ または $q$ |
真 | 真 | 真 |
真 | 偽 | 真 |
偽 | 真 | 真 |
偽 | 偽 | 偽 |
例えば、命題 $p,q$ をそれぞれ
- $p:$「ペンギンは鳥類である」 (真)
- $q:$「$2$ は $1$ より小さい」 (偽)
命題の「かつ」と「または」
次のそれぞれにおいて、「$p$ かつ $q$」と「$p$ または $q$」の真偽を答えよ。
- $p:\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}=\dfrac{2}{5}$
- $q:\dfrac{1}{2}\times\dfrac{1}{3}=\dfrac{1}{6}$
- $p:2^{16}=65536$
- $q:2^{10}=1024$
- $p:1+1=1$
- $q:1\times1=2$
$\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}=\dfrac{5}{6}$ なので、命題 $p$ は偽であり、また、命題 $q$ は真である。よって
「$p$ かつ $q$」は
偽
「$p$ または $q$」は
真
命題 $p$ は真であり、命題 $q$ も真である。よって
「$p$ かつ $q$」は
真
「$p$ または $q$」は真
命題 $p$ は偽であり、命題 $q$ も偽である。よって
「$p$ かつ $q$」は
偽
「$p$ または $q$」は偽
命題の否定
命題の否定について
命題の否定
ある命題 $p$ に対して、$p$ が真の場合には偽に、$p$ が偽の場合には真となる命題を、$p$ の 否定 (negation) といい
「$p$ でない (not $p$)」
と書く。$p$ の否定は、記号 $\overline{p}$ で表すこともある。
吹き出し命題の否定について
命題の否定は、日常で使う「~ない」の意味と同じである。論理学では「$\neg{p}$」と表す。
この新しい命題 $\overline{p}$ の真偽値表は、次のようになる。
$p$ | $\overline{p}$ |
真 | 偽 |
偽 | 真 |
例えば、真である命題として、命題 $p$ を
$p:$「ペンギンは鳥類である」 (真)
とすると、この命題の否定 $\overline{p}$ は
$\overline{p}:$「ペンギンは鳥類ではない」 (偽)
となる。また、偽である命題として、命題 $q$ を
$q:$「$2$ は $1$ より小さい」 (偽)
とすると、この命題の否定 $\overline{q}$ は、「$2$ は $1$ より小さくはない」すなわち
$\overline{q}:$「$2$ は $1$ 以上である」 (真)
となる。
命題の「ならば」
命題の「ならば」について
命題の「ならば」
2つの命題 $p,q$ に対して、「もし $p$ が真であるならば、$q$ は真である」という命題は、簡単に
「$p$ ならば $q$ (if $p$ then $q$)」
と書かれ、記号で $\boldsymbol{{p}\Rightarrow{q}}$ と表す。
このとき、初めの命題 $p$ を
仮定 (assumption)
といい、後の命題 $q$ を
結論 (conclusion)
という。
2つの命題 $p,q$ の真偽それぞれについて、この新しい命題 $p{\Rightarrow}q$ の真偽をまとめると、次の表のようになる。
$p$ | $q$ | $p{\Rightarrow}q$ |
真 | 真 | 真 |
真 | 偽 | 偽 |
偽 | 真 | 真 |
偽 | 偽 | 真 |
ある人が私たちに
「もしテストで100点をとれた $(p)$ ならば、美味しいものをおごってあげる $(q)$」
という約束したとしよう。そのとき、もし私たちがテストで100点をとったのに、美味しいものをおごってもらえなかったら、この人はうそをついたことになる。しかし、テストで100点をとれなかったときには、たとえおごってもらえなくても、この人はうそをついたことにならないし、また、たとえおごってもらったとしても、やはりこの人はうそをついたことにならない。
このように、日常的に用いている「ならば」は、条件が偽のときには結論が真でも偽でも、全体としては偽とはならないという主張なのだと考えられる。それゆえ、「ならば」に対する真偽の割り当ては、上の表のようになるのである。
同値とは何か
命題の同値
2つの命題 $p,q$ に対して、「$p{\Rightarrow}q$ かつ $q{\Rightarrow}p$」という命題は、簡単に \[\boldsymbol{p{\Leftrightarrow}q}\] と書かれる。
$p{\Leftrightarrow}q$ が真であるとき、命題 $p$ と $q$ は同値 (equivalence)であるという。
2つの命題 $p,q$ の真偽それぞれについて、この新しい命題 $p{\Leftrightarrow}q$ の真偽をまとめると、次の表のようになる。
$p$ | $q$ | $p{\Rightarrow}q$ | $q{\Rightarrow}p$ | $\boldsymbol{p{\Leftrightarrow}q}$ |
真 | 真 | 真 | 真 | 真 |
真 | 偽 | 偽 | 真 | 偽 |
偽 | 真 | 真 | 偽 | 偽 |
偽 | 偽 | 真 | 真 | 真 |
例として $p$ と、$\overline{p}$ の否定すなわち $\overline{\overline{p}}$ の真偽値表を書き並べてみると、次のようになる。
$p$ | $\overline{p}$ | $\overline{\overline{p}}$ |
真 | 偽 | 真 |
偽 | 真 | 偽 |
「ならば」のいいかえ
下の真偽値表を埋め、$p{\Rightarrow}q$ と $\overline{p}$ または $q$ が同値、すなわち \[(p{\Rightarrow}q)\Leftrightarrow(\overline{p}またはq)\] が成り立つことを示せ。
$p$ | $q$ | $\overline{p}$ | $p{\Rightarrow}q$ | $\overline{p}$ または $q$ |
真 | 真 | |||
真 | 偽 | |||
偽 | 真 | |||
偽 | 偽 |
$p$ | $q$ | $\overline{p}$ | $p{\Rightarrow}q$ | $\overline{p}$ または $q$ |
真 | 真 | 偽 | 真 | 真 |
真 | 偽 | 偽 | 偽 | 偽 |
偽 | 真 | 真 | 真 | 真 |
偽 | 偽 | 真 | 真 | 真 |
この表より、「$p{\Rightarrow}q$」と「$\overline{p}$ または $q$」の真偽が一致するのが確かめられるので、次のことがいえる。
「ならば」のいいかえ
2つの命題 $p,q$ に対して \[(p{\Rightarrow}q)\Leftrightarrow(\overline{p}またはq)\] が成り立つ。
ド・モルガンの法則(命題版)
下の真偽値表を埋め、次の関係が成り立つことを示せ。 \[\overline{p\wedge{q}}\Leftrightarrow(\overline{p}\vee\overline{q})\] \[\overline{p\vee{q}}\Leftrightarrow(\overline{p}\wedge\overline{q})\]
$p$ | $q$ | $\overline{p}$ | $\overline{q}$ | $p\wedge{q}$ | $p\vee{q}$ | $\overline{p\wedge{q}}$ | $\overline{p}\vee\overline{q}$ | $\overline{p\vee{q}}$ | $\overline{p}\wedge\overline{q}$ |
真 | 真 | ||||||||
真 | 偽 | ||||||||
偽 | 真 | ||||||||
偽 | 偽 |
$p$ | $q$ | $\overline{p}$ | $\overline{q}$ | $p\wedge{q}$ | $p\vee{q}$ | $\overline{p\wedge{q}}$ | $\overline{p}\vee\overline{q}$ | $\overline{p\vee{q}}$ | $\overline{p}\wedge\overline{q}$ |
真 | 真 | 偽 | 偽 | 真 | 真 | 偽 | 偽 | 偽 | 偽 |
真 | 偽 | 偽 | 真 | 偽 | 真 | 真 | 真 | 偽 | 偽 |
偽 | 真 | 真 | 偽 | 偽 | 真 | 真 | 真 | 偽 | 偽 |
偽 | 偽 | 真 | 真 | 偽 | 偽 | 真 | 真 | 真 | 真 |
この表より、$\overline{p\wedge{q}}$ と $\overline{p}\vee\overline{q}$ の真偽と、$\overline{p\vee{q}}$ と$\overline{p}\wedge\overline{q}$ の真偽が一致するのが確かめられるので、次のことがいえる。
ド・モルガンの法則(命題版)
2つの命題 $p,q$ に対して \[\overline{p\wedge{q}}\Leftrightarrow(\overline{p}\vee\overline{q})\] \[\overline{p\vee{q}}\Leftrightarrow(\overline{p}\wedge\overline{q})\] が成り立ち、これをド・モルガンの法則という。
逆・裏・対偶
逆・裏・対偶の関係
$p\Rightarrow{q}$ の形をした命題に対して
$q\Rightarrow{p}$ を $p\Rightarrow{q}$ の逆 (converse)
$\overline{p}\Rightarrow\overline{q}$ を $p\Rightarrow{q}$ の裏 (converse of contraposition)
$\overline{q}\Rightarrow\overline{p}$ を $p\Rightarrow{q}$ の
という。
対偶は同値であることの証明
下の真偽値表を埋め、次の関係が成り立つことを示せ。 \[(p\Rightarrow{q})\Leftrightarrow(\overline{q}\Rightarrow\overline{p})\]
$p$ | $q$ | $\overline{p}$ | $\overline{q}$ | $p\Rightarrow{q}$ | $\overline{q}\Rightarrow\overline{p}$ |
真 | 真 | ||||
真 | 偽 | ||||
偽 | 真 | ||||
偽 | 偽 |
$p$ | $q$ | $\overline{p}$ | $\overline{q}$ | $p\Rightarrow{q}$ | $\overline{q}\Rightarrow\overline{p}$ |
真 | 真 | 偽 | 偽 | 真 | 真 |
真 | 偽 | 偽 | 真 | 偽 | 偽 |
偽 | 真 | 真 | 偽 | 真 | 真 |
偽 | 偽 | 真 | 真 | 真 | 真 |
この表より、$p\Rightarrow{q}$ と $\overline{q}\Rightarrow\overline{p}$ の真偽が一致するのが確かめられるので、次のことがいえる。
対偶は同値
2つの命題 $p,q$ に対して \[(p\Rightarrow{q})\Leftrightarrow(\overline{q}\Rightarrow\overline{p})\] が成り立つ。