難度の高い因数分解
次数の低い文字に着目する因数分解
2つ以上の文字を含む多項式では、最も次数の低い文字に着目して整理すると、因数分解がしやすくなることが多い。
a2+ab−3a+b−4 という式には、共通因数も無く、どの公式にも当てはまらないが a2+ab−3a+b−4=(a+1)b+a2−3a−4=(a+1)b+(a−4)(a+1)=(a+1)(a+b−4)
a については 2 次式、b については 1 次式
次数の低い b について、降べきの順に整頓
定数項を因数分解したら a+1 が共通因数になった
b+a−4 は順番を入れ替えておこう
次数の低い文字に着目する因数分解
次の式を因数分解せよ。
- a2+ab+bc+ca
- x2−2xy+2y−1
- x2+2xy+3x+4y+2
- a3+ab2+b2+1
- b について降べきの順に整理すると
a2+ab+bc+ca=(a+c)b+(a2+ca)=(a+c)b+(a+c)a=(a+b)(a+c)
c で整理してもよい
共通因数を見抜いて因数分解してもよい。また、a の2次式と見て、次に学ぶ2文字2次式の因数分解で考えてもよい。 - y について降べきの順に整理すると x2+2xy−2y−1=(x−1)2y+(x2−1)=(x−1)2y+(x−1)(x+1)=(x−1)(x+2y+1) x の次数は 2、y の次数は 1
- y についての降べきの順に整理すると x2+2xy+3x+4y+2=(2x+4)y+(x2+3x+2)=(x+2)2y+(x+1)(x+2)=(x+2)(x+2y+1) x の次数は 2、y の次数は 1
- b についての降べきの順に整理すると a3+ab2+b2+1=(a+1)b2+(a3+1)=(a+1)b2+(a+1)(a2−a+1)=(a+1)(a2+b2−a+1) a の次数は 3、b の次数は 2
2文字2次式の因数分解
ここでは、x についても y についても次数が同じ x2+4xy+3y2+x+5y−2 という式の因数分解について考えてみよう。
【方法1:1次式の積の公式の逆利用を使う】
まず、x2+4xy+3y2+x+5y−2 を x の式とみて、降べきの順に整理する。 x2+(4y+1)x+3y2+5y−2 次に、x を含まない項について因数分解する。 x2+(4y+1)x+(3y−1)(y+2)
1次式の積の公式の逆利用のときと同じように、下のような表を描き、隙間を埋めていく。 xy+2xx23y−1(3y−1)(y+2) より ◯xy+2xx2(y+2)x3y−1(3y−1)x(3y−1)(y+2) と表を作れるから (x+y+2)(x+3y−1) と因数分解できる。
【方法2:3 マス × 3 マスの表を書く】
STEP1
因数分解する式
x2+4xy+3y2+x+5y−2
の、x2の項(x2)、y2の項(3y2)、定数項(−2)を下図のように、3×3の表に書き込む
x23y2−2
STEP2
左上から順にます目を埋めていく。
まずは x2 の分解を考えたものが下図である。
xxx23y2−2
STEP3
3y2=3y×y と分解できるから、ます目を埋めると下図のようになる。このとき、新しくできた xy と 3xy を足したものが、因数分解する式の 4xy
x2+4xy+3y2+x+5y−2
と等しくなるような分解を考える(3y2=(−3y)×(−y) の分解では、−4xy となるので考えなくてよい)
xyxx2xy3y3xy3y2−2
STEP4
最後に、定数項(−2)の分解を考える。
下の2つは、x と −2x を足しても
x2+4xy+3y2+x+5y−2
にならないのでその時点で失敗。
×xy1xx2xyx3y3xy3y2−2−2x−2
×xy−2xx2xy−2x3y3xy3y21x−2
最後の空欄を埋め、その和が
x2+4xy+3y2+x+5y−2
となるものが正解の表となる。
×xy−1xx2xy−x3y3xy3y2−3y22x2y−2 ◯xy2xx2xy2x3y3xy3y26y−1−x−y−2 以上から (x+3y−1)(x+y+2) と因数分解できることがわかる。
2文字2次式の因数分解
次の式を因数分解せよ。
- 2x2+5xy+3y2+2x+4y−4
- 6x2−5xy−6y2+4x+7y−2
- 【方法1】
与式を x について降べきの順に整理すると 2x2+5xy+3y2+2x+4y−4=2x2+(5y+2)x+3y2+4y−4=2x2+(5y+2)x+(3y−2)(y+2) となり、表は x2x2x2(3y−2)(y+2)↓xy+22x2x2(2y+4)x3y−2(3y−2)x(3y−2)(y+2) と作れるので、 2x2+5xy+3y2+2x+4y−4=(2x+3y−2)(x+y+2) となる。 - 【方法2】
3 マス × 3 マスの表は x2x2x23y2−4↓xy2x2x22xy3y3xy3y2−4↓xy22x2x22xy4x3y3xy3y26y−2−2x−2y−4 と作れるので、 2x2+5xy+3y2+2x+4y−4=(2x+3y−2)(x+y+2) となる。
- 【方法1】
- 【方法1】
与式を x について降べきの順に整理すると 6x2−5xy−6y2+4x+7y−2=6x2+(−5y+4)x−(6y2−7y+2)=6x2+(−5y+4)x−(3y−2)(2y−1) となり、表は 3x2x6x2−(3y−2)(2y−1)↓3x2y−12x6x2(4y−2)x−(3y−2)(−9y+6)x−(3y−2)(2y−1) と作れるので、 6x2−5xy−6y2+4x+7y−2=(2x−3y+2)(3x+2y−1) となる。 - 【方法2】
3×3 の表は 3x2x6x2−6y2−2↓3x2y2x6x24xy−3y−9xy−6y2−2↓3x2y−12x6x24xy−2x−3y−9xy−6y23y26x4y−2 と作れるので、 6x2−5xy−6y2+4x+7y−2=(2x−3y+2)(3x+2y−1) となる。
- 【方法1】
複2次式の因数分解
ここでは、x2 を1つのかたまりとして表される多項式のなかでも、特に複2次式とよばれる多項式についての因数分解について考えよう。
複2次式の定義
a、b、c を実数の定数とするとき ax4+bx2+c という形の多項式を複2次式 (compound quadratic expression) という。 ただし、a≠0 とする。
例として、次の2つの複2次式の因数分解についてみてみよう。
- x4−13x2+36
- x4+2x2+9
- x4−13x2+36 の因数分解
この複2次式は、x2=X とおくと、X2−13X+36=(X−4)(X−9) であるから \begin{align} &x^4-13x^2+36\\ =&(x^2-4)(x^2-9)\\ =&(x+2)(x-2)(x+3)(x-3) \end{align} と因数分解できる。 - x^4+2x^2+9 の因数分解
この複2次式は、x^2=X とおいても、X^2+2X+9 となるだけで因数分解が進まない。
そこで、x^4 と 9 に着目すると \begin{align} &x^4+2x^2+9\\ =&x^4+6x^2+9-4x^2\\ &\blacktriangleleft 2x^2に4x^2を加え\\ &\qquad平方の形が作れるようする\\ =&\underbrace{(x^2+3)^2}_{平方の形にする。}-(2x)^2\\ &\blacktriangleleft \bigcirc^2-\triangle^2の形\\ =&\left\{(x^2+3)+2x\right\}\left\{(x^2+3)-2x\right\}\\ =&(x^2+2x+3)(x^2-2x+3) \end{align} となり因数分解ができる。
複2次式の因数分解
複2次式 ax^4+bx^2+c の因数分解には
- x^2=X とおくことにより因数分解できる場合
- ax^4 と c に着目し、x^2 の項を付け加えて因数分解できる場合
吹き出し無題
1.の方法でうまくいかない場合に、2.の方法を試すと覚えておくとよい。 詳しくは『付録A.2』参照
複2次式の因数分解
次の式を因数分解せよ。
- x^4−7x^2−8
- x^4+x^2+1
- x^2=X とおくと \begin{align} &x^4-7x^2-8\\ =&X^2-7X-8\\ =&(X+1)(X-8)\\ =&\boldsymbol{(x^2+1)(x^2-8)} \end{align}
- x^4 と 1 に着目して \begin{align} &x^4+x^2+1\\ =&x^4+2x^2+1-x^2\\ =&(x^2+1)^2-x^2\\ =&(x^2+1+x)(x^2+1-x)\\ =&\boldsymbol{(x^2+x+1)(x^2-x+1)} \end{align}
3文字3次式の因数分解
立方の公式1でも触れたが、(a+b)^3 を展開すると (a+b)^3=a^3+3a^2b+3ab^2+b^3 であるから \begin{align} &a^3+b^3=(a+b)^3-3a^2b-3ab^2\\ \Leftrightarrow&a^3+b^3=(a+b)^3-3ab(a+b)\tag{1}\label{3moji3jisikinoinsubunkai} \end{align} が成り立つ。これを用いることにより、a^3+b^3+c^3−3abc は、次の例題でみるように因数分解できる。
暗記3文字3次式の因数分解
a^3+b^3+c^3-3abc を因数分解せよ。
\begin{align} &a^3+b^3+c^3-3abc\\ =&\left\{a^3+b^3\right\}+c^3-3abc\\ &\blacktriangleleft a^3+b^3に着目して\cdots\\ =&\left\{(a+b)^3-3ab(a+b)\right\}+c^3-3abc\\ &\blacktriangleleft \eqref{3moji3jisikinoinsubunkai}を使った\\ =&(a+b)^3-3ab(a+b)+c^3-3abc\\ =&\underbrace{(a+b)^3+c^3}_{◯}\underbrace{-3ab(a+b)-3abc}_{□}\\ &\blacktriangleleft 今度は(a+b)^3+c^3に着目する\\ =&\underbrace{\left\{(a+b)+c\right\}\left\{(a+b)^2-(a+b)c+c^2\right\}}_{◯}\\ &\qquad\underbrace{-3ab\left\{(a+b)+c\right\}}_{□}\\ &\blacktriangleleft ◯の部分は、a+b=X、c=Yとみて\\ &{\qquad}X^3+Y^3=(X+Y)(X^2−XY+Y^2)\\ &\qquadの因数分解を使った\\ =&(a+b+c)\left\{a^2+2ab+b^2-ac-bc+c^2\right\}\\ &\qquad-3ab(a+b+c)\\ =&(a+b+c)\\ &\qquad(a^2+2ab+b^2-ac-bc+c^2-3ab)\\ &\blacktriangleleft 共通因数(a+b+c)でくくった\\ =&(a+b+c)(a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca)\\ \end{align}
3変数3次式の因数分解
\begin{align}&a^3+b^3+c^3-3abc\\ =&(a+b+c)(a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca)\end{align}
吹き出し無題
この因数分解は忘れやすいので、上のように結果を導出できるように練習しておくとよい。
3文字3次式の因数分解
次の式を因数分解せよ。
- 27a^3+8b^3+c^3-18abc
- x^3+y^3-1+3xy
- \begin{align} &(3a)^3+(2b)^3+c^3-3(3a)(2b)c\\ =&\boldsymbol{\left(3a+2b+c\right)}\\ &\boldsymbol{(9a^2+4b^2+c^2}\\ &\qquad\boldsymbol{-6ab-2bc-3ca)} \end{align}
- \begin{align} &x^3+y^3+(-1)^3-3xy(-1)\\ =&\boldsymbol{\left(x+y-1\right)}\\ &\qquad\boldsymbol{\left(x^2+y^2+1-xy+y+x\right)} \end{align}
いろいろな因数分解
どの因数分解の手段を用いるかどうかは、だいたい次の優先順位で考えるとよい。 方針がわからないときは、ひとまずこの順序で考えてみよう。
- 共通因数を見つける
- 次数の小さい文字に注目し、降べきの順に並べる。
- 公式を使えないか考える。
因数分解の練習~その2~
次の式を因数分解せよ。
- xy-x-y+1
- a^2+b^2+ac-bc-2ab
- x^2(y-z)+y^2(z-x)+z^2(x-y)
- ab(a-b)+bc(b-c)+ca(c-a)
- x^4+x^2+1
- a^4+64
- x^2-xy-12y^2+5x+y+6
- 2x^2-y^2-xy+3x+3y-2
- \begin{align} &xy-x-y+1\\ =&(y-1)x-(y-1)\\ =&\boldsymbol{(x-1)(y-1)} \end{align} \blacktriangleleft x と y はともに1次式なので、とりあえず x で整理する
- c について降べきの順に整理すると \begin{align} &(a-b)c+a^2+b^2-2ab\\ =&(a-b)c+(a-b)^2\\ =&(a-b)c+(a-b)(a-b)\\ =&\boldsymbol{(a-b)(a-b+c)} \end{align} \blacktriangleleft a と b は2次であり c は1次であるから c で整理する
- x について降べきの順に整理すると \begin{align} &(y-z)x^2-(y^2-z^2)x+y^2z-yz^2\\ =&(y-z)x^2\\ &\qquad-(y+z)(y-z)x+yz(y-z)\\ =&(y-z)\left\{x^2-(y+z)x+yz\right\}\\ =&\boldsymbol{(y-z)(x-y)(x-z)} \end{align} \blacktriangleleft すべての文字は2次で等しいので、とりあえず x で整理する
- aについて降べきの順に整理すると \begin{align} &(b-c)a^2-(b^2-c^2)a+b^2c-bc^2\\ =&(b-c)a^2\\ &\qquad-(b+c)(b-c)a+bc(b-c)\\ =&(b-c)\left\{a^2-(b+c)a+bc\right\}\\ =&\boldsymbol{(b-c)(a-b)(a-c)} \end{align} \blacktriangleleft すべての文字は2次で等しいので、とりあえず a で整理する
- x^4 と 1 に着目して \begin{align} &x^4+1+x^2\\ =&(x^2+1)^2-2x^2+x^2\\ =&(x^2+1)^2-x^2\\ =&(x^2+1+x)(x^2+1-x)\\ =&\boldsymbol{(x^2+x+1)(x^2-x+1)} \end{align} \blacktriangleleft 複2次式の因数分解参照
- a^4 と 64 に着目して \begin{align} &(a^2+8)^2-16a^2\\ =&(a^2+8+4a)(a^2+8-4a)\\ =&\boldsymbol{(a^2+4a+8)(a^2-4a+8)} \end{align} \blacktriangleleft 複2次式の因数分解参照
- x について降べきの順にし、定数項を因数分解すると
\begin{align}
&x^2-xy-12y^2+5x+y+6\\
=&x^2+(-y+5)x-(12y^2-y-6)\\
=&x^2+(-y+5)x-(3y+2)(4y-3)
\end{align}
となる。これを元に表を書けば
\begin{array}{c||c|}
&x&3y+2\\\hline{x}&x^2&(3y+2)x\\\hline-(4y-3)&(-4y+3)x&-(3y+2)(4y-3)\\\hline
\end{array}
となるので、\boldsymbol{(x-4y+3)(x+3y+2)} と因数分解できる。
\blacktriangleleft 難度の高い因数分解 2文字2次式の因数分解参照 \begin{array}{c||c|} &x&-3y&2\\\hline{x}&x^2&3xy&2x\\\hline-4y&-4xy&-12y^2&-8y\\\hline3&3x&9y&6\\\hline \end{array} という表を作ってもよい。 - x について降べきの順にし、定数項を因数分解すると
\begin{align}
&2x^2-y^2-xy+3x+3y-2\\
=&2x^2+(-y+3)x-(y^2-3y+2)\\
=&2x^2+(-y+3)x-(y-1)(y-2)
\end{align}
となる。これを元に表を書けば
\begin{array}{c||c|}
&x&-(y-2)\\\hline2x&2x^2&(-2y+4)x\\\hline(y-1)&(y-1)x&-(y-1)(y-2)\\\hline
\end{array}
となるので、\boldsymbol{(x-y+2)(2x+y-1)} と因数分解できる。
\blacktriangleleft 難度の高い因数分解 2文字2次式の因数分解参照 \begin{array}{c||c|} &x&-y&2\\\hline2x&2x^2&-2xy&4x\\\hline{y}&xy&-y^2&2y\\\hline-1&-x&y&-2\\\hline \end{array} という表を作ってもよい。
因数分解と式の値
因数分解には、式の因数を見えるようにする働きがある。 この点を生かせば、値を整数や自然数に限った次のような問題を解くことができる。
因数分解と式の値
- 多項式 F=ab-3a+2b-6 について、次の問いに答えなさい。
- F を因数分解しなさい。
- F=6 を満たす自然数 (a,~b) の組をすべて求めなさい。
- mn+2m-n=3 を満たす整数 (m,~n) の組をすべて求めなさい。
- \begin{align} F&=a(b-3)+2(b-3)\\ &=\boldsymbol{(a+2)(b-3)}\\ &\quad\blacktriangleleft aについて整理した \end{align}
a.の結果から (a+2)(b-3)=6 となる自然数 a、b を求めればよい。
6 を自然数の範囲で約数の積に分解すると、6=6\times1、~3\times2、~2\times3、~1\times6 である。a+2 は 3 以上でないといけないことに注意すれば
\blacktriangleleft 自然数は、1 以上の値である。 \begin{cases} a+2=6\\ b-3=1 \end{cases} \begin{cases} a+2=3\\ b-3=2 \end{cases} のいずれかが必要である。それぞれの式から \boldsymbol{(a,~b)=(4,~4),~(1,~5)} と求められる。
- 文字 m、n を含む項を因数分解する。
\begin{align}
&mn+2m-n=3\\
\Leftrightarrow~&m(n+2)-n=3\\
&\quad\blacktriangleleft mで整理した\\
\Leftrightarrow~&m(n+2)-(n+2)=3-2\\
&\quad\blacktriangleleft 両辺から 2 を引いた\\
\Leftrightarrow~&(m-1)(n+2)=1
\end{align}
1=1\times1または(-1)\times(-1)であるので
\begin{cases}
m-1=1\\
n+2=1
\end{cases}
\begin{cases}
m-1=-1\\
n+2=-1
\end{cases}
のいずれかが必要である。それぞれの式から \boldsymbol{(m,~n)=(2,~-1),~(0,~-3)} と求められる。