三角比の相互関係
${\sin}A$、${\cos}A$、${\tan}A$の間にはどのような関係があるか
三角比どうしの関係の例題でみたように、同じ角度に対する三角比の値は、互いにばらばらなものではなく、ある関係によって結ばれている。
以下では、この三角比の間に成り立つ関係を、一般的に導いてみよう。
図の直角三角形において \[a=c\sin{A}~,~b=c\cos{A}\] であるから、$\tan{A}$ は \[\tan{A}=\dfrac{a}{b}=\dfrac{c\sin{A}}{c\cos{A}}=\dfrac{\sin{A}}{\cos{A}}\] と表すことができる。つまり \[\tan{A}=\dfrac{\sin{A}}{\cos{A}}\tag{1}\label{sinAcosAtanAnoaidanihadonoyounakankeigaaruka1}\] が成り立つ。また、三平方の定理より $a^2+b^2=c^2$ であるから、これに $a=c\sin{A}$ と $b=c\cos{A}$ を代入して \begin{align} &\left(c\sin{A}\right)^2+\left(c\cos{A}\right)^2=c^2\\ \Leftrightarrow\ &c^2\left(\sin{A}\right)^2+c^2\left(\cos{A}\right)^2=c^2\\ \Leftrightarrow\ &\left(\sin{A}\right)^2+\left(\cos{A}\right)^2=1 \end{align} が成り立つ。普通 $(\sin{A})^2$、$(\cos{A})^2$、$(\tan{A})^2$ などは、それぞれ $\sin^2A$、$\cos^2A$、$\tan^2A$ と書く。
つまり \[\sin^2{A}+\cos^2{A}=1\tag{2}\label{sinAcosAtanAnoaidanihadonoyounakankeigaaruka2}\] が成り立つ。
暗記$\tan{A}$ と他の三角比との関係
$\sin^2A+\cos^2A=1$ という関係から、次の式を導け。
- $1+\dfrac{1}{\tan^2{A}}=\dfrac{1}{\sin^2{A}}$
- $\tan^2{A}+1=\dfrac{1}{\cos^2{A}}$
- $\sin^2A+\cos^2A=1$ の両辺を $\sin^2A$ で割ると
$\blacktriangleleft$ $\eqref{sinAcosAtanAnoaidanihadonoyounakankeigaaruka1}$ より、$\dfrac{\cos{A}}{\sin{A}}=\dfrac{1}{\tan{A}}$\begin{align} &1+\dfrac{\cos^2{A}}{\sin^2{A}}=\dfrac{1}{\sin^2{A}}\\ \Leftrightarrow&1+\dfrac{1}{\tan^2{A}}=\dfrac{1}{\sin^2{A}} \end{align}
- $\sin^2A+\cos^2A=1$ の両辺を $\cos^2A$ で割ると
$\blacktriangleleft$ $\eqref{sinAcosAtanAnoaidanihadonoyounakankeigaaruka1}$ より、$\dfrac{\sin{A}}{\cos{A}}=\tan{A}$\begin{align} &\dfrac{\sin^2{A}}{\cos^2{A}}+1=\dfrac{1}{\cos^2{A}}\\ \Leftrightarrow&\tan^2{A}+1=\dfrac{1}{\cos^2{A}} \end{align}
三角比の相互関係
直角三角形
正接、正弦、余弦の関係
図の直角三角形において
- $\sin{A}$、$\cos{A}$、$\tan{A}$ の関係 \[\tan{A}=\dfrac{\sin{A}}{\cos{A}}\]
- $\sin{A}$ と $\cos{A}$ の関係 \[\sin^2{A}+\cos^2{A}=1\]
- $\tan{A}$ と $\sin{A}$ の関係 \[1+\dfrac{1}{\tan^2{A}}=\dfrac{1}{\sin^2{A}}\]
- $\cos{A}$ と $\tan{A}$ の関係 \[\tan^2{A}+1=\dfrac{1}{\cos^2{A}}\]
吹き出し$\sin{A}$、$\cos{A}$、$\tan{A}$ の間にはどのような関係があるか
3 と4 は記憶しなくても、例題でみたように1 と2 からすぐに導ける。2 両辺を $\sin^2A$ や $\cos^2A$ で割ればよい、ということを記憶しておこう。
三角比どうしの関係の例題を、今度はこの関係を使って解いてみよう。
三角比の相互関係の利用
三角比の相互関係を使って、次の問いに答えよ。ただし、$0^\circ\lt{A}\lt90^\circ$ である。
- $\sin{A}=\dfrac{3}{5}$ のとき、$\cos{A}$、$\tan{A}$ の値を求めよ。
- $\cos{A}=\dfrac{1}{3}$ のとき、$\sin{A}$、$\tan{A}$ の値を求めよ。
- $\tan{A}=7$ のとき、$\cos{A}$、$\sin{A}$ の値を求めよ。
$\sin^2A+\cos^2A=1$ より
$\blacktriangleleft$ 三角比の相互関係参照\begin{align} &\cos^2{A}=1-\sin^2{A}\\ =&1-\left(\dfrac{3}{5}\right)^2=\dfrac{16}{25} \end{align} $\cos{A}\gt0$ なので、$\cos{A}=\sqrt{\dfrac{16}{25}}=\boldsymbol{\dfrac{4}{5}}$ である。また、$\tan{A}=\dfrac{\sin{A}}{\cos{A}}$ より
$\blacktriangleleft$ 三角比の相互関係参照\[\tan{A}=\dfrac{\dfrac{3}{5}}{\dfrac{4}{5}}=\boldsymbol{\dfrac{3}{4}}\]$\blacktriangleleft$ 有理数どうしの比の値参照$\sin^2A+\cos^2A=1$ より
$\blacktriangleleft$ 三角比の相互関係参照\begin{align} &\sin^2{A}=1-\cos^2{A}\\ =&1-\left(\dfrac{1}{3}\right)^2=\dfrac{8}{9} \end{align} $\sin{A}\gt0$ なので、$\sin{A}=\sqrt{\dfrac{8}{9}}=\boldsymbol{\dfrac{2\sqrt{2}}{3}}$ である。また、$\tan{A}=\dfrac{\sin{A}}{\cos{A}}$ より
$\blacktriangleleft$ 三角比の相互関係参照\[\tan{A}=\dfrac{\dfrac{2\sqrt{2}}{3}}{\dfrac{1}{3}}=\boldsymbol{2\sqrt{2}}\]$\blacktriangleleft$ 有理数どうしの比の値参照$\tan^2{A}+1=\dfrac{1}{\cos^2{A}}$ より
$\blacktriangleleft$ 三角比の相互関係参照\begin{align} &\cos^2{A}=\dfrac{1}{1+\tan^2{A}}\\ =&\dfrac{1}{1+7^2}=\dfrac{1}{50} \end{align} $\cos{A}\gt0$ なので、$\cos{A}=\sqrt{\dfrac{1}{50}}=\dfrac{1}{5\sqrt{2}}=\boldsymbol{\dfrac{\sqrt{2}}{10}}$ である。また、$\tan{A}=\dfrac{\sin{A}}{\cos{A}}$ より
$\blacktriangleleft$ 三角比の相互関係参照\begin{align} &7=\dfrac{\sin{A}}{\dfrac{\sqrt{2}}{10}}\\ \therefore~~&\sin{A}=7\times\dfrac{\sqrt{2}}{10}=\boldsymbol{\dfrac{7\sqrt{2}}{10}} \end{align}
$90^\circ-A$の三角比
$B$ から見た直角三角形
図の直角三角形において \[B=90^\circ-A\] であるから、以下のように表すことができる。 \begin{align} &\sin(90^\circ-A)=\sin{B}=\dfrac{b}{c}=\cos{A}\\ &\cos(90^\circ-A)=\cos{B}=\dfrac{a}{c}=\sin{A}\\ &\tan(90^\circ-A)=\tan{B}=\dfrac{b}{a}=\dfrac{1}{\tan{A}} \end{align}
$90^\circ-A$ の三角比
$90^\circ-A$ の三角比
三角比について \begin{align} &\sin(90^\circ-A)=\cos{A}\\ &\cos(90^\circ-A)=\sin{A}\\ &\tan(90^\circ-A)=\dfrac{1}{\tan{A}} \end{align} が成り立つ。
吹き出し$90^\circ-A$ の三角比
「$90^\circ-A$ の三角比は $A$ だけを使った三角比で表せる」ということを覚えておくのが大切であり、この式は暗記するようなものではない。必要なときに素早く導出できるようにしておこう。
これより、$45^\circ\lt{A}\lt90^\circ$ の三角比は、$0^\circ\lt{A}\lt45^\circ$ の三角比になおすことができる。
次の例題で確かめてみよう。
$90^\circ-A$ の三角比の利用
次の三角比を $45^\circ$ 以下の角の三角比で表せ。
- $\sin{80^\circ}$
- $\cos{46^\circ}$
- $\tan{82^\circ}$
- $\blacktriangleleft$ $90^\circ-A$ の三角比\begin{align} \sin{80^\circ}=\sin(90^\circ-10^\circ)=\boldsymbol{\cos{10^\circ}} \end{align}
- $\blacktriangleleft$ $90^\circ-A$ の三角比\begin{align} \cos{46^\circ}=\cos(90^\circ-44^\circ)=\boldsymbol{\sin{44^\circ}} \end{align}
- $\blacktriangleleft$ $90^\circ-A$ の三角比\begin{align} \tan{82^\circ}=\tan(90^\circ-8^\circ)=\boldsymbol{\dfrac{1}{\tan{8^\circ}}} \end{align}