相加平均と相乗平均
相加平均とは何か
日常では,たとえば数学のテストが60点,英語のテストが80点だったとすると,足して2で割る,すなわち次の計算
\begin{align} \frac{60+80}{2}=70 \end{align}によって平均点を出す.
また,3教科の場合,たとえば数学のテストが60点,英語のテストが80点,国語のテストが40点だったとすると
\begin{align} \frac{60+80+40}{3}=60 \end{align}という計算によって,平均点60点を出す.
このような,平均のとり方を相加平均といい,一般には次のようにまとめられる.
相加平均
$n$ 個の $0$ 以上の数 $a_1,~a_2,~\cdots,~a_n$ において
\begin{align} \frac{a_1+a_2+\cdots+a_n}{n} \end{align}を, $a_1,~a_2,~\cdots,~a_n$ の相加平均(artithmetic mean)という.
特に, $n = 2$ のとき $\dfrac{a_1+a_2}{2}$ であり, $n = 3$ のとき$\dfrac{a_1+a_2+a_3}{3}$ である.
相加平均
次の値の相加平均を求めよ.
- $24,56$
- $ \dfrac{1}{2},\dfrac{1}{3} $
- $ \dfrac{3}{2},\dfrac{1}{3},\dfrac{5}{4}$
- $1,\sqrt{3},\dfrac{\sqrt{2}}{3}$
- $\dfrac{24+56}{2}=\dfrac{80}{2}=\boldsymbol{40} $
- $ \dfrac{\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}}{2}=\dfrac{\dfrac{5}{6}}{2}=\boldsymbol{\dfrac{5}{12}} $
- $ \dfrac{\dfrac{3}{2}+\dfrac{1}{3}+\dfrac{5}{4}}{3}=\dfrac{\dfrac{18+4+15}{12}}{3}$
$\qquad\qquad\qquad=\dfrac{\dfrac{37}{12}}{3}=\boldsymbol{\dfrac{37}{36}} $ - $ 1+\sqrt{3}+\dfrac{\sqrt{2}}{3}=\dfrac{3+3\sqrt{3}+\sqrt{2}}{3}$ より、
$\qquad\qquad\qquad\boldsymbol{\dfrac{3+3\sqrt{3}+\sqrt{2}}{9}}$
数学での平均の考え方
「平均」とは「平たいらに均ならす」ということであるが,数学では次のように定義する.
平均の定義
2つの数$a_1,a_2$において
- $a_1$ と $a_2$ を使った計算で求められるものであり
- 必ず $a_1$ と $a_2$ の間の数として求められるもの
を $a_1,a_2$ の平均(mean)という.
たとえば, $a1,a2$ を $0\leqq a_1\leqq{a_2}$ を満たす数として,その相加平均$\dfrac{a_1+a_2}{2}$ を考えると, 不等式の性質より
\begin{align} a_1+a_1\leqq a_1+a_2~~,~~~a_1+a_2\leqq a_2+a_2 \end{align}が成り立つので
\begin{align} &a_1+a_1\leqq a_1+a_2\leqq a_2+a_2\\ \Leftrightarrow~&\dfrac{a_1+a_1}{2}\leqq\dfrac{a_1+a_2}{2}\leqq\dfrac{a_2+a_2}{2}\\ \Leftrightarrow~&a_1\leqq\dfrac{a_1+a_2}{2}\leqq a_2 \end{align}つまり, $a1$ と $a2$ の相加平均 $\dfrac{a_1+a_2}{2}$ は,それら2つの数の間にあることが示され, 数学で使う平均であることがわかる.
3つ以上の数についての平均は
- それら3つ以上の数を使った計算で求められるものであり
- 必ずそれらのうちの最も大きいものと最も小さいものの間の数として求められるもの
として考える.
相乗平均とは何か
2つの $0$ 以上の数 $a_1,a_2$ について, $a_1$ と $a_2$ をかけて平方根をとった値,すなわち $\sqrt{a_1a_2}$ は, $a_1$ と $a_2$ の平均になっている.以下でそのことを確かめてみよう.
$a_1,a_2$ を $0\leqq a_1\leqq a_2$ を満たす数とすると,不等式の性質より
\begin{align} a_1\cdot a_1\leqq a_1\cdot a_2 \ , \ \ a_1\cdot a_2\leqq a_2\cdot a_2 \end{align}が成り立つので
\begin{align} &a_1\cdot a_1\leqq a_1\cdot a_2\leqq a_2\cdot a_2 \\ \therefore~ &\sqrt{{a_1}^2}\leqq\sqrt{a_1a_2}\leqq\sqrt{{a_2}^2} \\ \therefore~ &a_1\leqq\sqrt{a_1a_2}\leqq a_2 \end{align} ← 平方による比較となり, $\sqrt{a_1a_2}$ は$a_1$ と $a_2$の平均になっているのがわかる.
このような平均のとり方を相乗平均という.
3つの正の数 $a_1,a_2,a_3$ の場合の相乗平均は, $\sqrt[3]{a_1a_2a_3}$ となる. ここで, $\sqrt[3]{a}$ は $a$ の3乗根といい,3乗すると $a$ となる数を表す. 一般の $n$ 乗根については累乗根を参照のこと.
相乗平均について,一般には次のようにまとめられる.
相乗平均
$n$ 個の $0$ 以上の数 $a_1,~a_2,~\cdots,~a_n$ において
\[\sqrt[n]{a_1a_2\cdots a_n}\]を, $a_1,~a_2,~\cdots,~a_n$ の相乗平均(geometric mean)という.
特に, $n = 2$ のとき $\sqrt{a_1a_2}$ であり, $n = 3$ のとき $\sqrt[3]{a_1a_2a_3}$ である.
相乗平均
次の値の相乗平均を求めよ.
- $2~,~~8$
- $1~,~~3~,~~9$
$ \sqrt{2\cdot 8}=\sqrt{16}=\boldsymbol{4} $
$ \sqrt[3]{1\cdot 3\cdot 9}=\sqrt[3]{27}=\boldsymbol{3} $
相加平均と相乗平均の関係
$n = 2$ のときの相加平均と相乗平均の式は,それぞれ
\begin{align} \dfrac{a_1+a_2}{2}~,~~\sqrt{a_1a_2} \end{align}である.
いま, $\dfrac{a_1+a_2}{2}-\sqrt{a_1a_2}$ を計算していくと
\begin{align} &\qquad\dfrac{a_1+a_2}{2}-\sqrt{a_1a_2} \\ &=\dfrac{a_1-2\sqrt{a_1a_2}+a_2}{2}\\ &=\dfrac{1}{2}\left(\sqrt{a_1}-\sqrt{a_2}\ \right)^2\geqq0 \end{align}より
\begin{align} \dfrac{a_1+a_2}{2}\geqq\sqrt{a_1a_2} \end{align}すなわち,相加平均は相乗平均以上であることがわかる.
一般には次のような関係が成り立つ.
相加平均と相乗平均の関係
$n$ 個の $0$ 以上の数 $a_1,~a_2,~\cdots,~a_n$ において,相加平均$\dfrac{a_1+a_2+\cdots+a_n}{n}$ と 相乗平均 $\sqrt[n]{a_1a_2\cdots a_n}$ の間には,次のような関係が成り立つ.
\begin{align} \dfrac{a_1+a_2+\cdots+a_n}{n}\geqq\sqrt[n]{a_1a_2\cdots a_n} \end{align}等号が成立するのは, $a_1=a_2=\cdots=a_n$ のときである.
特に, $n = 2$ のときは
\begin{align} \dfrac{a_1+a_2}{2}\geqq\sqrt{a_1a_2} \end{align}(等号成立は $a_1=a_2$ ,)
であり, $n = 3$ のときは
\begin{align} \dfrac{a_1+a_2+a_3}{3}\geqq\sqrt[3]{a_1a_2a_3} \end{align}(等号成立は $a_1=a_2=a_3$ ,)
である.
吹き出し相加平均と相乗平均の関係
相加平均と相乗平均の関係式は,分母をはらった
\begin{align} a+b\geqq2\sqrt{ab} \end{align}の形で使われることが多い. 左辺の和 $a + b$ と,右辺の積 $ab$ の間の関係を与えたものだということに注目しよう.
暗記3文字の場合の相加平均と相乗平均の関係の証明
等式
\begin{eqnarray} &&x^3+y^3+z^3-3xyz\\ &=&(x+y+z)(x^2+y^2+z^2\\ &&\qquad\qquad\qquad-xy-yz-zx) \end{eqnarray}$\qquad\tag{1}\label{anki3mozinobaai} $
が成り立つことを利用して, $a_1\geqq0,a_2\geqq0,a_3\geqq0$ のとき
\begin{align} \frac{a_1+a_2+a_3}{3}\geqq\sqrt[3]{a_1a_2a_3} \end{align}を証明せよ.また,等号が成立する条件も求めよ.
$x=\sqrt[3]{a_1},y=\sqrt[3]{a_2},z=\sqrt[3]{a_3}$ とおくと,
$x\geqq0,y\geqq0,z\geqq0$ で,
$x^3+y^3+z^3=a+b+c,$
$xyz=\sqrt[3]{a_1}\sqrt[3]{a_2}\sqrt[3]{a_3}=\sqrt[3]{a_1a_2a_3}$ である.
$\eqref{anki3mozinobaai}$において
\begin{align} &\quad x^2+y^2+z^2-xy-yz-zx\\ &=\dfrac{1}{2}\left\{(x-y)^2+(y-z)^2\right.\\ &\qquad\qquad\qquad\left.+(z-x)^2\right\}\geqq0 \end{align} $\blacktriangleleft$ 実数の平方であり
\begin{align} x+y+z\geqq0 \end{align}であるから
\begin{align} &x^3+y^3+z^3\geqq3xyz\\ &\Leftrightarrow~\dfrac{x^3+y^3+z^3}{3}\geqq xyz \end{align}よって
\begin{align} \dfrac{a_1+a_2+a_3}{3}\geqq\sqrt[3]{a_1a_2a_3} \end{align}また,等号が成立するのは $x = y = z,$ すなわち $a1 = a2 = a3$ のとき.
一般の場合の証明は,付録一般の場合の相加平均と相乗平均の関係を参照のこと.
相加平均と相乗平均の関係を利用した不等式の証明
ただし, $x > 0,y > 0,z > 0$ とする.
- $x+\dfrac{1}{x}\geqq 2 $
- $x+\dfrac{9}{x+2}\geqq 4$
- $\left(x+\dfrac{1}{y}\right)\left(y+\dfrac{4}{x}\right)\geqq 9$
- $(x+y)(y+z)(z+x)\geqq 8xyz $
$ x>0,\dfrac{1}{x}>0$ であるから,相加平均と相乗平均の関係より
$\blacktriangle x$と$\dfrac{1}{x}$をかけると約分され定数になることに着目した
\begin{align} x+\dfrac{1}{x}\geqq 2\sqrt{x\cdot\dfrac{1}{x}}=2 \end{align}また,等号が成立するのは $x=\dfrac{1}{x}$ ,すなわち $x = 1$ のときである. $\blacktriangleleft x > 0$ である
$x + 2 > 0,\dfrac{1}{x+2}>0$ であるから,相加平均と相乗平均の関係より
$\blacktriangle$ (1)のような形にもちこみたいため, $x$ ではなく $x + 2$ をかたまりとして考えてみる.
\begin{align} &(x+2)+\dfrac{9}{(x+2)}\\ &\geqq 2\sqrt{(x+2)\cdot\dfrac{9}{x+2}}=6 \end{align}よって, $x+\dfrac{9}{(x+2)}\geqq 4$ となる.
また,等号が成立するのは $x+2=\dfrac{9}{x+2}$ ,すなわち
\begin{align} &(x+2)^2=9 \\ \Leftrightarrow~&(x+5)(x-1)=0\\ \therefore~&x=1 \end{align} $\blacktriangleleft x > 0$ であるのときである.
$ x > 0,\dfrac{1}{x}>0,y > 0,\dfrac{1}{y}>0$であるから, 相加平均と相乗平均の関係より
\begin{align} & \left(x+\dfrac{1}{y}\right)\left(y+\dfrac{4}{x}\right) \\ &=xy+\dfrac{4}{xy}+1+4 \\ &\geqq 2\sqrt{xy\cdot\dfrac{4}{xy}}+1+4=9 \end{align} $\blacktriangleleft xy$ と $\dfrac{1}{xy}$ をかけると約分されて定数になるような形があらわれたまた,等号が成立するのは, $xy=\dfrac{4}{xy}$ ,すなわち
\begin{align} &x^2y^2=4 \\ \therefore~&xy=2 \end{align} $\blacktriangleleft x > 0,y > 0$ より, $xy > 0$ であるのときである.
$x > 0,y > 0,z > 0$ であるから,相加平均と相乗平均の関係より
\begin{align} &x+y\geqq 2\sqrt{xy}\\ &y+z\geqq 2\sqrt{yz}\\ &z+x\geqq 2\sqrt{zx} \end{align}であるから,辺々を掛け合わせて
(左辺)
\begin{align} &\geqq (2\sqrt{xy})(2\sqrt{yz})(2\sqrt{zx})\\ &=8xyz \end{align}また,等号が成立するときは $x = y,y = z,z = x$ ,すなわち $x = y = z$ のときである.
相加平均と相乗平均の関係は,上の例題で見たような不等式の証明だけでなく,次の例題でみるように最小値を求める際にも利用できる.
相加平均と相乗平均の関係を利用して最小値を求める
次の関数の最小値を求めよ.
- $f(x)=x+\dfrac{1}{x}~~~(x>0) $
- $f(x,~y)=\dfrac{y}{x}+\dfrac{x}{y}~~~(x>0,~y>0)$
$ x > 0$より$\dfrac{1}{x}>0$であるから,相加平均と相乗平均の関係より
\begin{align} x+\dfrac{1}{x}\geqq2\sqrt{x\cdot\dfrac{1}{x}}=2 \end{align}$\blacktriangle$ ここまででいえたことは $f(x)\geqq2$ である
等号が成り立つのは $x=\dfrac{1}{x}$ ,すなわち
\begin{align} &x^2=1 \\ \therefore~~ &x=1 \end{align} $\blacktriangleleft x > 0$ である以上より,最小値は $f(1)=\boldsymbol{2}$ とわかる.
$\blacktriangle$ 等号が成立する $x$ の存在がわかって初めて最小値といえる.
$\dfrac{y}{x}>0~,~~\dfrac{x}{y}>0$ であるから,相加平均と相乗平均の関係より
\begin{align} &\dfrac{y}{x}+\dfrac{x}{y}\geqq2\sqrt{\dfrac{y}{x}\cdot\dfrac{x}{y}}=2 \end{align}$\blacktriangle$ ここまででいえたことは $f(x,~y)\geqq2$ である
等号が成り立つのは $\dfrac{y}{x}=\dfrac{x}{y}$ のとき.これを計算していくと
\begin{align} &x^2=y^2\\ \Leftrightarrow~&x^2-y^2=0\\ \Leftrightarrow~&(x-y)(x+y)=0 \end{align}$x > 0,y > 0$ なので, $x+y\neq0$ であるから, $x = y$ となる.
以上より,最小値は $f(x,x)=\boldsymbol{2}$ とわかる.
$\blacktriangle$ 等号が成立する $x$ と $y $ の存在がわかって初めて最小値といえる.
吹き出し相加平均と相乗平均の関係
相加平均と相乗平均の関係を使って最小値を求める方法は
- 関数がある値以上であることを示し(不等式の証明)
- その関数がある値になることを示す(等号成立条件)
という2つのプロセスから成り立っていることに注意しよう.