1次の多項式の除法の計算方法
1次の多項式の除法の計算方法
多項式の除法において,特に1次式で割る場合には,前節で紹介した2つの方法以外にも, 覚えておきたい計算方法が2つある.
組立除法
ここでは,$x^3 + 2x^2 + 3x + 1$を$x – 2$で割ったときの商と余りを求めることを例として, 具体的な計算方法を見ていく.
ここではまず,組立除法(synthetic division)という計算方法について学ぶ.
$a_0x^3 + a_1x^2 + a_2x + a_3$を$x – \alpha $で割ったときの,商を$b_0x^2 + b_1x + b_2$,余りを$R$とすると
\begin{align} &a_0x^3+a_1x^2+a_2x+a_3\\ =&(x-\alpha)(b_0x^2+b_1x+b_2)+R \end{align}と表せるが,右辺を展開して整理すると
\begin{align} &a_0x^3+a_1x^2+a_2x+a_3\\ =&b_0x^3+(b_1-\alpha b_0)x^2\\ &+(b_2-\alpha b_1)x+R-\alpha b_2 \end{align}となるので,両辺の係数を比較することにより
\begin{align} &a_0=b_0~,~~a_1=b_1-\alpha b_0~,~~\\ &a_2=b_2-\alpha b_1~,~~a_3=R-\alpha b_2 \end{align}が成り立つ.
これから,$b_0,b_1,b_2,b_3,R$を解くことにより,商の係数や余りは
\begin{align} &b_0=a_0~,~~b_1=a_1+\alpha b_0~,~~\\ &b_2=a_2+\alpha b_1~,~~R=a_3+\alpha b_2 \end{align}と計算できる.
この計算の手順は,右上の図のように考えればよい.
たとえば,$x^3 − 4x^2 + 2x + 5$を$x – 2$で割ったときには,右図のような計算結果になるので
商は$x^2 − 2x − 2 $余り1
と求まる.
例題(組立除法)
$x^3 + 2x^2 + 3x + 1$を$x – 2$で割ったときの商と余りを組立除法で計算せよ.
組立除法を実行すると
となるので,商は$\boldsymbol{x^2+4x+11}$,余りは$\boldsymbol{23}$となる.
$x-a$で展開するということ
たとえば,多項式$x^3 − 4x^2 + 2x + 5$は
\begin{align} &x^3-4x^2+2x+5\\ =&(x-1)^3-(x-1)^2-3(x-1)+8 \end{align}のように表すことができる(右辺を展開して左辺と等しくなることを確かめてみよ). このような変形を行ったとき,右辺のような形の式のことを$x – 1$で展開された式という.
このように変形するには,次の手順を踏めばよい.
STEP1
まず,$x^3 − 4x^2 + 2x + 5$の各項から,無理やり$(x − 1)$をくくる. このとき,$x = (x − 1) + 1$とみるのがポイントである.
\begin{align} & x^3-4x^2+2x+5\\ =&\left\{(x-1)+1\right\}^3-4\left\{(x-1)+1\right\}^2\\ &+2\left\{(x-1)+1\right\}+5 \end{align}STEP2
次に,$(x − 1)$のかたまりを崩さないように,展開していく.
\begin{align} &\left\{(x-1)+1\right\}^3-4\left\{(x-1)+1\right\}^2\\ &+2\left\{(x-1)+1\right\}+5\\ &=\left\{(x-1)^3+3(x-1)^2\right.\\ &\qquad\left. +3(x-1)+1\right\}\\ &\qquad-4\left\{(x-1)^2+2(x-1)+1\right\}\\ &\qquad+2\left\{(x-1)+1\right\}+5 \end{align}STEP3
最後に,同類項どうしで整理する.
\begin{align} &\left\{(x-1)^3+3(x-1)^2+3(x-1)+1\right\}\\ &\qquad-4\left\{(x-1)^2+2(x-1)+1\right\}\\ &\qquad+2\left\{(x-1)+1\right\}+5\\ &=(x-1)^3+3(x-1)^2+3(x-1)+1\\ &\qquad-4(x-1)^2-8(x-1)\\ &\qquad-4+2(x-1)+2+5\\ &=(x-1)^3-(x-1)^2-3(x-1)+8 \end{align}このような変形を利用して,1次式の割り算を考えることもできる.
例題($x-a$で展開するということ)
$x^3 + 2x^2 + 3x + 1$を$x – 2$で割ったときの商と余りを,$x^3 + 2x^2 + 3x + 1$を$x – 2$で展開することにより求めよ.
まず,$x^3 + 2x^2 + 3x + 1$を$x – 2$で展開する.
\begin{align} & x^3+2x^2+3x+1 \\ =&\left\{(x-2)+2\right\}^3+2\left\{(x-2)+2\right\}^2\\ &+3\left\{(x-2)+2\right\}+1\\ =&\left\{(x-2)^3+6(x-2)^2+12(x-2)+8\right\}\\ &\quad+2\left\{(x-2)^2+4(x-2)+4\right\}\\ &+3\left\{(x-2)+2\right\}+1\\ =&(x-2)^3+6(x-2)^2\\ &+12(x-2)+8+2(x-2)^2\\ & +8(x-2)+8+3(x-2)+6+1\\ =&(x-2)^3+8(x-2)^2+23(x-2)+23 \end{align}次に,この式を$(x − 2)$でくくると
\begin{align} & (x-2)^3+8(x-2)^2+23(x-2)+23\\ &=(x-2)\left\{(x-2)^2+8(x-2)+23\right\}\\ &\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad+23 \end{align}最後に,中括弧の中を展開すると
\begin{align} & (x-2)\left\{(x-2)^2+8(x-2)+23\right\}+23\\ &=(x-2)(x^2-4x+4+8x-16+23)\\ &\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad+23\\ &=(x-2)(x^2+8x+11)+23 \end{align}となるので,結局
\begin{align} &x^3+2x^2+3x+1 \\ =&\overbrace{(x-2)}^{A}\overbrace{(x^2+8x+11)}^{B}+\overbrace{23}^{C} \end{align}と変形できる.
多項式の除法の一意性 より,($A$の次数)$\gt$($C$の次数)を満たす関係は一通りに定まるので, 商は$\boldsymbol{x^2+8x+11}$で,余りは$\boldsymbol{23}$となる.
多項式の除法(再)
次の式の組について,左側の式を右側の式で割ったときの,商と余りを 組立除法と$x – \alpha$で展開する方法の2通りで求めよ.
- $ x^2 + 2x + 1,x − 1 $
- $ x^3 + 3,x + 1 $
- $ x^3 − 4x^2 − 2x + 5,x − 2 $
- $ x^3 − 2x^2 − x + 6,x − 3 $
【解1:組立除法】
組立除法を行うと
となるので,商は$\boldsymbol{x+3}$,余りは$\boldsymbol{4}$である.
【解2:$x − \alpha$で展開する方法】
\begin{align} & x^2+2x+1\\ &=\left\{(x-1)+1\right\}^2+2\left\{(x-1)+1\right\}+1\\ &=(x-1)^2+4(x-1)+4\\ &=(x-1)(x-1+4)+4\\ &=(x-1)(x+3)+4 \end{align}となるので,商は$\boldsymbol{x+3}$,余りは$\boldsymbol{4}$である.
【解1:組立除法】
組立除法を行うと
となるので,商は$\boldsymbol{x^2-x+1}$,余りは$\boldsymbol{2}$である.
【解2:$x − \alpha$で展開する方法】
\begin{align} &x^3+3\\ &=\left\{(x+1)-1\right\}^3+3\\ &=(x+1)^3+3(x+1)^2(-1)\\ &\qquad+3(x+1)-1+3\\ &=(x+1)(x^2+2x+1-3x-3+3)\\ &\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad+2\\ &=(x+1)(x^2-x+1)+2 \end{align}となるので,商は$\boldsymbol{x^2-x+1}$,余りは$\boldsymbol{2}$である.
【解1:組立除法】
組立除法を行うと
となるので,商は$\boldsymbol{x^2-2x-6}$,余りは$\boldsymbol{-7}$である.
【解2:$x − \alpha$で展開する方法】
\begin{align} & x^3-4x^2-2x+5\\ &=\!\left\{(x-2)+2\right\}^3\!-\!4\!\left\{(x-2)+2\right\}^2\\ &\qquad-2\!\left\{(x-2)+2\right\}\!+5\\ &=(x-2)\left\{(x-2)^2+2(x-2)-6\right\}\\ &\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad-7\\ &=(x-2)(x^2-2x-6)-7 \end{align}となるので,商は$\boldsymbol{x^2-2x-6}$,余りは$\boldsymbol{-7}$である.
【解1:組立除法】
組立除法を行うと
となるので,商は$\boldsymbol{x^2+x+2}$,余りは$\boldsymbol{12}$である
【解2:$x − \alpha$で展開する方法】
\begin{align} & x^3-2x^2-x+6\\ &=\!\left\{(x-3)+3\right\}^3\!-2\!\left\{(x-3)+3\right\}^2\\ &\qquad-\left\{(x-3)+3\right\}+6\\ &=\ (x-3)^3+9(x-3)^2+27(x-3)\\ &\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad+27\\ &\quad-2(x-3)^3-6(x-3)\\ &\quad-18-(x-3)-3+6\\ &=(x-3)(x^2+x+2)+12 \end{align}となるので,商は$\boldsymbol{x^2+x+2}$,余りは$\boldsymbol{12}$である.