剰余の定理
多項式$f(x)$の$x$に数$a$を代入したときの$f(x)$の値を$f(a)$と書く .
たとえば,$f(x) = x^3 + 2x^2 + 3x + 1$とすると
\begin{align} &f(1)=1^3+2\cdot2^2+3\cdot1+1=7\\ &f(0)=0^3+2\cdot0^2+3\cdot0+1=1\\ &f(2)=2^3+2\cdot2^2+3\cdot2+1=23 \end{align}である.
剰余の定理のための補題
$f(x) = x^4 − 3x^2 + 5x – 8$とする.
- $f(x)$を$x – 2$で割ったときの余りを求めよ.
- $ f(2)$の値を計算せよ.
無題
割り算を実行すると
\begin{align} f(x)=(x-2)(x^3+2x^2+x+7)+6 \end{align} $\blacktriangleleft$組立除法を使うなら図となるので,余りは$\boldsymbol{6}$である.
$ f(2)=2^4-3\cdot2^2+5\cdot2-8=\boldsymbol{6} $
上の例題では,$f(x)$を$x – 2$で割ったときの余りと,$f(2)$の値が等しくなっているが, これは,偶然に一致したわけではなく,次の理由による.
多項式$f(x)$を1次式$x – a$で割ったときの商を$Q(x)$,余りを$r$とすると,$r$は定数であり
\begin{align} f(x)=(x-a)Q(x)+r \end{align}が成り立つ.この式に$x = a$を代入すると
\begin{align} f(a)=(a-a)Q(a)+r=r \end{align}となり,$f(a)$が$f(x)$を$x – a$で割ったときの余り$r$と等しいことがわかる.
剰余の定理
多項式$f(x)$を$x – a$で割ったときの余りは$f(a)$である.
剰余の定理の確認問題
次の式の組について,左側の式を右側の式で割ったときの余りだけ求めよ(商は求めなくてよい).
- $x^2+2x+1,x-1 $
- $x^3+3,x+1$
- $ x^3-4x^2-2x+5,x-2 $
- $x^3-2x^2-x+6,x-3 $
剰余の定理より,$f(1)=\boldsymbol{4}$
剰余の定理より,$f(-1)=\boldsymbol{2}$
剰余の定理より,$f(2)=\boldsymbol{-7} $
剰余の定理より,$f(3)=\boldsymbol{12}$
吹き出し剰余の定理
余りを求めるだけならば剰余の定理が大変な威力を発揮する.
暗記剰余の定理の拡張
多項式$f(x)$を1次式$ax + b$で割ったときの余りは$f\left(-\dfrac{b}{a}\right)$であることを証明せよ.
$f(x)$を1次式$ax + b$で割ったときの商を$Q(x)$,余りを$r$とすると,$r$は定数であり,次の関係式が成り立つ.
\begin{align} f(x)=(ax+b)Q(x)+r \end{align}この式の$x$に$-\dfrac{b}{a}$を代入すると
\begin{align} &f\left(-\dfrac{b}{a}\right) \\ =&\left\{a\cdot\left(-\dfrac{b}{a}\right)+b\right\}Q\left(-\dfrac{b}{a}\right)+r\\ =&(-b+b)Q\left(-\dfrac{b}{a}\right)+r\\ =&r \end{align}となり,$f\left(-\dfrac{b}{a}\right)$と余り$r$が等しいことが分かる.
剰余の定理の拡張
多項式$f(x)$を1次式$ax + b$で割ったときの余りは$f\left(-\dfrac{b}{a}\right)$となる.
剰余の定理の利用
次の各問に答えよ.
多項式$f(x)$を$x – 1$で割ると$2$余り,$x – 2$で割ると$3$余る.$ f(x)$を$(x − 1)(x − 2)$で割ったときの余りを求めよ.
多項式$f(x)$を$x – 1$で割ると$3$余り,$(x − 2)(x − 3)$で割ると$3x – 2$余る. $f(x)$を$(x − 1)(x − 2)(x − 3)$で割ったときの余りを求めよ.
多項式$f(x)$を$x – 1$で割ると$2$余り,$(x − 2)^2$で割ると$3x – 2$余る.$ f(x)$を$(x − 1)(x − 2)^2$で割ったときの余りを求めよ.
【解1:除法の式を変形して解く】
$f(x)$を$x – 1$で割ったときの商を$Q_1(x)$とすると,余りが$2$だから
\begin{align} f(x)=(x-1)Q_1(x)+2 \end{align} $\blacktriangleleft$多項式の除法の一意性よりとおける.さらに,$Q_1(x)$を$x – 2$で割ったときの商を$Q_2(x)$,余りを$a$とすると
\begin{align} f(x) &=(x-1)\left\{Q_2(x)(x-2)+a\right\}+2 \\ &=(x-1)(x-2)Q_2(x)\\ &\qquad\qquad\qquad+ax+2-a \end{align} $\blacktriangleleft Q_1(x) = Q_2(x)(x − 2) + a$であるここで,剰余の定理より
\begin{align} &f(2)=2a+2-a=3 \\ \therefore~ &a=1 \end{align} $\blacktriangleleft f(2) = 3$を使ったとなる.よって,求める余りは$\boldsymbol{x+1}$である.
【解2:余りの多項式をおく】$ f(x)$を$(x − 1)(x − 2)$で割ったときの,商を$Q_3(x)$,余りを$ax + b$とすると
\begin{align} f(x)=(x-1)(x-2)Q_3(x)+ax+b \end{align} $\blacktriangleleft$多項式の除法の一意性よりである.ここで,剰余の定理より
$\left(f(1)=\right)a+b=2 \blacktriangleleft f(1) = 2$を使った
$\left(f(2)=\right)2a+b=3 \blacktriangleleft f(2) = 3$を使った
これを解くと$a = 1,b = 1$であるから,求める余りは$\boldsymbol{x+1}$である.
【解1:除法の式を変形して解く】
$f(x)$を$(x − 2)(x − 3)$で割ったときの商を$Q_1(x)$とすると,余りが$3x – 2$だから
\begin{align} f(x)=(x-2)(x-3)Q_1(x)+3x-2 \end{align} $\blacktriangleleft$多項式の除法の一意性よりとおける.さらに,$Q_1(x)$を$x – 1$で割ったときの商を$Q_2(x)$,余りを$a$とすると
\begin{align} f(x) &=(x-2)(x-3)\left\{Q_2(x)(x-1)\right.\\ &\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad \left. +a\right\}\\ &\qquad+3x-2 \\ &=(x-1)(x-2)(x-3)Q_2(x)\\ &\qquad+a(x-2)(x-3)+3x-2 \end{align} $\blacktriangleleft Q_1(x) = Q_2(x)(x − 1) + a$である.である.ここで,剰余の定理より
\begin{align} &f(1)=a(-1)(-2)+3-2=3 \\ \therefore~ &a=1 \end{align} $\blacktriangleleft f(1) = 3$を使ったとなる.よって,求める余りは$(x-2)(x-3)+3x-2=\boldsymbol{x^2-2x+4}$である.
【解2:余りの多項式をおく】$ f(x)$を$(x − 1)(x − 2)(x − 3)$で割ったときの,商を$Q_3(x)$,余りを$ax^2 + bx + c$とすると
\begin{align} &f(x)=(x-1)(x-2)(x-3)Q_4(x)\\ &\qquad+ax^2+bx+c \end{align} $\blacktriangleleft$多項式の除法の一意性よりここで,剰余の定理より$f(1) = 3,f(2) = 4,f(3) = 7$なので
$\left(f(1)=\right)a+b+c=3 \blacktriangleleft f(1) = 3$を使った
$\left(f(2)=\right)4a+2b+c=4 \blacktriangleleft f(2) = 4$を使った
$\left(f(3)=\right)9a+3b+c=7 \blacktriangleleft f(3) = 7$を使った
これを解くと$a = 1,b = − 2,c = 4$であるから,求める余りは$\boldsymbol{x^2-2x+4}$である.
【解1:除法の式を変形して解く】
$f(x)$を$(x − 2)^2$で割ったときの商を$Q_1(x)$とすると,余りが$3x – 2$だから
\begin{align} f(x)=(x-2)^2Q_1(x)+3x-2 \end{align} $\blacktriangleleft$多項式の除法の一意性よりとおける.さらに,$Q_1(x)$を$x – 1$で割ったときの商を$Q_2(x)$,余りを$a$とおくと,
\begin{align} f(x) &=(x-2)^2\left\{Q_2(x)(x-1)+a\right\}\\ &\qquad+3x-2 \\ &=(x-1)(x-2)^2Q_2(x)\\ &\qquad\qquad+a(x-2)^2+3x-2 \end{align} $\blacktriangleleft Q_1(x) = Q_2(x)(x − 1) + a$であるここで,剰余の定理より
\begin{align} &f(1)=a(-1)^2+3-2=2 \\ \therefore~ &a=1 \end{align} $\blacktriangleleft f(1) = 2$を使ったであるから,求める余りは$(x-2)^2+3x-2=\boldsymbol{x^2-x+2}$である.
【解2:余りの多項式をおく(微分法を使う)】
$f(x)$を$(x − 2)^2$で割ったときの商を$Q_1(x)$とすると,余りが$3x – 2$だから
\begin{align} f(x)=(x-2)^2Q_1(x)+3x-2 \end{align} $\blacktriangleleft$多項式の除法の一意性よりとおける.この式を$x$で微分すると
\begin{align} &f'(x) \\ =&(x-2)Q_1(x)+(x-2)^2{Q_1}'(x)+3 \\ =&(x-2)\left\{Q_1(x)+(x-2){Q_1}'(x)\right\}+3 \end{align} $\blacktriangleleft$微分の計算法則の関数の積の微分法を使った$Q_1(x) + (x − 2)Q_1'(x)$は多項式なので,これを$Q_2(x)$とおくと
$f'(x)=(x-2)Q_2(x)+3$
$\therefore~ f'(2)=3$
$\tag{1}\label{zyouyonoteirinoriyou}$
いま,$f(x)$を$(x − 1)(x − 2)^2$でわったときの商を$Q_3(x)$,余りを$ax^2 + bx + c$とおくと,
$f(x)=(x-1)(x-2)^2Q_3(x)$
$+ax^2+bx+c$$f'(x)=((x-2)$を因数に持つ多項式$)+2ax+b$
であるから
\begin{align} f'(2)=4a+b=3 \end{align} $\blacktriangleleft\eqref{zyouyonoteirinoriyou}$を使ったさらに,剰余の定理より
$f(1)=a+b+c=2 \blacktriangleleft f(1) = 2$を使った
$f(2)=4a+2b+c=4 \blacktriangleleft f(2) = 4$を使った
これを解くと$a = 1,b = − 1,c = 2$であるから,求める余りは$\boldsymbol{x^2-x+2}$である.