数学II 第1章 式と証明 — 等式の証明

恒等式

多項式とはなんであったか

FTEXT 数学Iで学んだように,いくつかの単項式の和や差として表される式を多項式(polynomial) といった. たとえば, は, の2次多項式である. この式の にはさまざまに変化する値が代入されると想定されるが,このような 変数(variable)と呼ぶ. それに対して,この式の のように,一定の値のまま変化しないものを 定数(constant)と呼ぶ.

これらの言葉をつかうと,定数 を係数とする変数 の式

の多項式と定義できる。

多項式の相等

という等式は, という数が という数と等しいという,関係を表したものである. この例は数の関係を表したものであるが, 関係はなにも数に限ったことではなく,多項式についても同様に関係を表すことができる. 多項式と多項式の関係の1つである,多項式の相等を以下に定義しておこう.

定理1多項式の相等 §

2つの次多項式

において,すべての係数が等しい,すなわち

が成り立つとき, は多項式として等しいという.

たとえば,多項式 と多項式 は, すべての係数が等しいので,多項式として等しいといえる. しかし,多項式 は,すべての係数が等しいわけではないので, 多項式として等しいとはいえない.

恒等式とは何か

または のとき成り立つ等式である. このように,特別な値を入れたときだけ成り立つ等式を方程式(equation)という.

これに対して,式 のように, にどのような値を代入しても成り立つ等式のことを 恒等式(こうとうしき)(identity)である.

値を代入する文字,すなわち変数は1つとは限らない. たとえば, は, にどのような値を代入しても成り立つので恒等式と考える.

定義2恒等式の定義 §

ある等式において,その変数にどのような値を代入しても, 常に等式が成り立つとき,その等式をそれらの文字についての恒等式(identity)という.

一般に,式の変形によって導かれる等式は,どれも恒等式である. たとえば, を展開すると となるので,等式

は恒等式である.

問題1恒等式〜その1〜

次の等式のうち,恒等式はどれか.

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  1. 左辺を展開すると

    (左辺)

    \begin{eqnarray} &=&x^2+4x+3-5x-5\ &=&x^2-x-2\ &=&(x-2)(x+1)= \end{eqnarray}

    (右辺)

    ゆえに,

    恒等式である.

  2. 両辺に, を代入すると

    はひとつの例である

    (左辺)

    (右辺)

    左辺の値と右辺の値が異なるので

    恒等式ではない.

  3. 両辺に, を代入すると

    はひとつの例である

    (左辺)

    (右辺)

    左辺の値と右辺の値が異なるので

    恒等式ではない.

    以上から,恒等式は

    である.

多項式が恒等的に0になる条件

を定数とするとき,等式 についての恒等式となるのは, 係数 にどのような条件が備わっているときなのか調べてみる.

についての恒等式であるならば, にどのような値を代入しても,この等式は成り立つので, たとえば, をそれぞれ代入すると

が必要であり,この連立方程式を解くと

となる(下の の証明). 逆に, とすると,等式 は明らかに についての恒等式となる(下の の証明).

以上より,次のことが成り立つ.

についての恒等式である」

この例では2次式の等式について考えたが,一般に,同類項を整理した後の多項式について,次のことが成り立つ.

定理3多項式が恒等的にになる条件 §

多項式 において

が恒等式となるのは, の各項の係数がすべて になる,すなわち

のときである.

この証明は,付録多項式が恒等的に になる条件の証明で行う.

多項式が恒等的に0になる条件

この証明は,このあと習う知識を必要とし,しかも少々難しいので,初読の際には読み飛ばしてよい.

暗記1多項式の恒等式

2つの 次の多項式 をそれぞれ

とおく.このとき,等式

が恒等式となるのは, が多項式として等しいとき,すなわち

が成り立つときであることを上の多項式が恒等的に になる条件を使い証明せよ.

解答を見る

等式 が恒等式であることと,等式 が恒等式であること,すなわち

が恒等式となることとは同値である.

←このあとすぐに習う『等式の証明について』の知識を使った

この恒等式が成り立つのは,多項式が恒等的に になる条件より

すなわち

が成り立つときである.

この例題の内容をまとめると,次のようになる.

定理4多項式の相等と恒等式 §

を多項式とするとき

が恒等式となるのは, の次数が等しく,両辺の同じ次数の項の係数がそれぞれ等しいとき,すなわち 多項式として等しいときである.

このことから, の多項式 についての等式 が恒等式となるための条件として,

i) に具体的な値を代入して両辺が等しくなる(代入法)

ii)左右両辺の同じ次数の係数が等しくなっている(係数比較法)

上記のいずれの条件でもよいことがわかる.

以下では,この2つを活用して,恒等式を求めてみよう.

問題2恒等式〜その2〜

次の等式が恒等式となるように,定数 の値を定めよ.

解答を見る
  1. 両辺の の係数を比較すると, である.

    両辺の の係数を比較すると, である.

    両辺の定数項を比較すると, である.

  2. 両辺の の係数を比較すると, である.

    を代入すると

    ←右辺には という形の式があるので, を代入することで不明な文字が少ない式をたてることができる

    \begin{eqnarray} &&1^2=1(1-1)^2+b(1-1)+c\ &&\Leftrightarrow~\boldsymbol{c=1} \end{eqnarray}

    また, を代入すると

    以外の数でもかまわないが,一番計算が簡単にできる を使った

    \begin{eqnarray} &&0^2=1(0-1)^2+b(0-1)+1\ &&\Leftrightarrow0=1-b+1\ &&\Leftrightarrow\boldsymbol{b=2} \end{eqnarray}

  3. 両辺の の係数を比較すると, である.

    を代入すると

    ←右辺には という形の式があるので, を代入することで不明な文字が少ない式をたてることができる

    \begin{eqnarray} &&1^2=1\cdot1(1+1)+b(1-1)+c\ &&\Leftrightarrow2+c=1\ &&\Leftrightarrow\boldsymbol{c=-1} \end{eqnarray}

    また, を代入すると

    ←右辺には という形の式があるので, を代入することで不明な文字が少ない式をたてることができる

    \begin{eqnarray} &&(-1)^2=1(-1)(-1+1)\ &&\qquad+b(-1-1)-1\ &&\Leftrightarrow~-2b-1=1\ &&\Leftrightarrow~\boldsymbol{b=-1} \end{eqnarray}

  4. 両辺の の係数を比較すると, である.

    を代入すると

    ←右辺には という形の式があるので, を代入することで不明な文字が少ない式をたてることができる

    \begin{eqnarray} &&1^3=a(1-1)^3+b(1-1)^2\ &&\qquad+c(1-1)+d\ &&\Leftrightarrow~\boldsymbol{d=1} \end{eqnarray}

    右辺を展開すると

    (右辺)

    \begin{eqnarray} &&=1(x^3-3x^2+3x-1)\ &&\quad+b(x^2-2x+1)+cx-c+1 \ &&=x^3+(b-3)x^2\ &&\quad+(-2b+c+3)x-c \end{eqnarray}

    の項の係数を比較すると

    この連立方程式を解くと, となる.

    【別解:微分法を用いる】

    を代入すると

    ←右辺には という形の式があるので, を代入することで不明な文字が少ない式をたてることができる

    \begin{eqnarray} &&1^3=a(1-1)^3+b(1-1)^2\ &&\qquad+c(1-1)+d\ &&\Leftrightarrow~\boldsymbol{d=1} \end{eqnarray}

    与式の両辺を微分すると

    これに を代入すると

    ←右辺には という形の式があるので, を代入することで不明な文字が少ない式をたてることができる

    の両辺をさらに微分すると

    これに を代入すると

    ←右辺には という形の式があるので, を代入することで不明な文字が少ない式をたてることができる

    \begin{eqnarray} &&6\cdot 1=6a(1-1)+2b\ &&\Leftrightarrow~\boldsymbol{b=3} \end{eqnarray}

    の両辺をさらに微分すると

  5. 右辺の の係数は なので, である.

    を代入すると

    また, を代入すると

    ←右辺には という形の式があるので, を代入することで不明な文字が少ない式をたてることができる

    \begin{eqnarray} &&(-1)^3=1(-1)(-1+1)(-1+2)\ &&\qquad+b(-1)(-1+1)+c(-1)+0\ &&\Leftrightarrow~\boldsymbol{c=1} \end{eqnarray}

    さらに, を代入すると

    ←右辺には という形の式があるので, を代入することで不明な文字が少ない式をたてることができる

    \begin{eqnarray} &&(-2)^3=1(-2)(-2+1)(-2+2)\ &&\qquad+b(-2)(-2+1)+1(-2)+0\ &&\Leftrightarrow~\boldsymbol{b=-3} \end{eqnarray}

問題3【恒等式〜その3〜】

が任意の値をとるとき,常に次の等式が成り立つように, の値を求めよ.

解答を見る

左辺を展開し, についてまとめると

これが がいかなる値でも成り立つのは

のとき.

と考えて両辺の係数を比較した

この連立方程式を解くと である.

2つ以上の変数に関する恒等式

を定数とするとき

についての恒等式であるとき,係数にはどのような関係が成り立つのか考えてみる.

まず,左辺を について整理すると

となるが,まず についての恒等式であるから,多項式が恒等的に になる条件より次のことが成り立つ.

また,これらが についての恒等式でもあるから,結局得られるのは

となる.

一般に,次にようにまとめることができる.

定理52つ以上の文字に関する恒等式 §

複数の変数に関する等式が恒等式となる条件は,同類項でまとめたあとの各項の係数がすべて になることである.

等式の証明について

等式の証明を考える

恒等式 を証明するには, の一方を変形して,他方を導けばよい.

たとえば

を証明するには

\begin{eqnarray} \text{(左辺)}&=&(x^2+x+1)(x^2-x+1)\ &=&x^4-x^3+x^2+x^3\ &&-x^2+x+x^2-x+1\ &=&x^4+x^2+1\ &=&\text{(右辺) } \end{eqnarray}

とすればよい.

しかし,問題によっては と同値である

  1. かつ

などの等式を証明する方が簡単なときもあるので,適宜使い分ける.

問題4等式の証明〜その1〜

以下の等式を証明せよ.

解答を見る
  1. 左辺を展開し整理すると

    (左辺)

    \begin{eqnarray} &&=x^2+2xy+y^2-(x^2-2xy+y^2)\ &&=4xy= \end{eqnarray}

    (右辺)

    となる.

  2. 両辺をそれぞれ展開し整理すると

    (左辺)

    (右辺)

    \begin{eqnarray} &&=a^2c^2+2abcd+b^2d^2\ &&\qquad\qquad-(a^2d^2+2abcd+b^2c^2)\ &&=a^2c^2-a^2d^2-b^2c^2+b^2d^2 \end{eqnarray}

    よって,(左辺) 右辺)がいえる.

    ←「 かつ 」ならば「 」という論法を使った}

  3. 左辺を変形して

    (左辺)

    \begin{eqnarray} &&=(x+1)(x^2-x+1)(x^2+x+1)\ &&=(x+1){(x^2+1)^2-x^2}\ &&=(x+1)(x^4+x^2+1)= \end{eqnarray}

    (右辺)

    となる.

問題5等式の証明〜その2〜

以下の等式を証明せよ.

解答を見る
  1. 左辺を通分して計算していくと

    (左辺)

    (右辺)

    となる.

  2. 両辺をそれぞれ通分して計算していくと

    (左辺)

    (右辺)

    よって,(左辺) (右辺)がいえる.

  3. 左辺を通分して計算していくと

    (左辺)

    (右辺)

    となる.

条件つきの等式の証明

等式の中には,恒等式ではないが,ある条件のもとではつねに成り立つ等式がある.

たとえば, 恒等式ではない( を考えてみよ). しかし, という条件の下では常に成り立つ. これを証明するには,条件 から が成り立つことを利用して

(左辺)

(右辺)

より,(左辺)(右辺)とすればよい.

一般に,ある条件のもとで成り立つ等式を証明するには,その条件式を証明すべき式に代入すればよい. そのことを次の例題で学んでいこう.

問題6条件つきの等式の証明-その1-

次の等式を証明せよ.

  1. のとき,
  2. のとき,
  3. のとき,
解答を見る
  1. 左辺を変形すると

    (左辺)           を使った

    よって,(左辺) (右辺)がいえる.

  2. より, なので

(左辺)        を使った

(右辺)

よって,(左辺) (右辺)がいえる. 3. より, なので

(左辺)          を使った

       

(右辺)        を使った

    
  

よって,(左辺) (右辺)がいえる.

問題7条件つきの等式の証明-その2-

次の等式を証明せよ.

  1. のとき,
  2. のとき,
  3. のとき,
解答を見る
  1. より, であるから, と変形できる.

これを左辺にもちいると

(左辺)

 

  (右辺) となる.
  1. を左辺にもちいると

(左辺)         という変形を使った

               	    を使った

より,(左辺) (右辺)である. 3. より, なので

(左辺)

  

    (右辺)	      を使った

となる.

比例式を条件にもつ等式の証明

の定義は である. 特に でないとき, と変形できる. この のように,比の値が等しいことを示す式を比例式(proportional expression)という.

比例式を条件とする場合には,比の値を ,すなわち などとおき, かつ の形で利用すると計算しやすい.

また

を, 連比(continued ratio)といい, かつ かつ ,すなわち

かつ かつ

と定義する. こちらの場合も, でないとき, と変形できる.

問題8比例式を条件にもつ等式の証明

でない実数 において,次の等式を証明せよ.

  1. のとき,
  2. のとき,
    のとき,
解答を見る
  1. とおくと         比例式の利用

(左辺)       を使った

 

 

より,(左辺) (右辺)である. 2. とおくと         比例式の利用

(左辺)=          を使った

 

(右辺)               を使った

より,(左辺) (右辺)である. 3. とおくと         比例式の利用

(左辺)=      を使った

 

(右辺)      を使った

 

より,(左辺) (右辺)である.

対称式

対称式の定義

次の6つの式

において,各式の中の を入れ換えてみると

となる.

ここで,式 はそれぞれ元の式 と恒等的に等しく, はそれぞれ元の と等しくない.

このように,文字を入れ換えても,式が変わるものと変わらないものとがあり, 変わらないものを対称式という.

定義6対称式の定義 §

式の中の文字 を入れ換えても,同じ式となる式のことを, その文字に関する対称式(symmetric expression)という.

対称式の中でも特に

の2式を,基本対称式(elementary symmetric expression)という.

対称式の基本定理

証明は高校の程度を越えるが,一般に次のことが知られている.

定理7対象式の基本定理 §

すべての対称式は,基本対称式の和,差,積,商の組合せで表すことができる.

問題9対象式を基本対象式の組み合わせで表す

とするとき,次の各式を を用いて表せ.

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元記事: http://www.ftext.org/text/section/105(取得日 2026-08-07)

最終更新: 2026-08-07

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