数学B 第4章 ベクトルの定義と基本演算 — ベクトルの定義

ベクトルとは何か

「向き」を含む問題

まず,次のような問題を考えてみよう.

  1. りんごを2 個購入して,さらに2 個購入した時,最初から数えて何個購入しているか?

  2. 北に2 km 移動して,さらに東に2 km 移動した時,最初の位置からどの場所へ移動しているか?

  3. より「4 個」である.

  4. は移動距離としては より4 km だが,最初の位置から4 km 離れた距離にいるわけではない.下図のように,2. の正確な答えとしては「北東に km 移動した」となる.

これまで学習した分野(関数や数列など)では,1. のように「大きさ」のみを取り扱ってきた.

これに対して,本章以降では2. のように「大きさ」に加えて「向き」という概念を含んだ量を取り扱っていく.なお,このように「向き」と「大きさ」で定まる量のことを,一般にベクトル(vector)という.それに対して,大きさだけをもつものをスカラー(scalar)という.

「北へ 2 km」を表す上向きの矢印と、その先端から「東へ 2 km」を表す右向きの矢印が伸びている。始点から終点へ直接向かう斜めの矢印には「北東へ 2√2 km」と表記されている。

有向線分

有向線分というものをもちいて,「向き」を図で表してみよう.

次の図の線分 において,点 から点 への「向き」を考えたものを有向線分(oriented segment) といい,点 から点 への矢印として表す.このとき,点 をその始点(initial point),点 をその終点(terminal point),線分 の長さをその大きさ(length)という.

各図における有向線分 と有向線分 の違いを確認しよう.

上段に線分AB、下段に点Aから点Bへ向かう矢印による有向線分ABが配置され、その間に「点Aから点Bへの向きを考える」という下向きの矢印が示されている。 「1) 始点の異なる有向線分」と題された図。方眼上に、始点の異なる2つの有向線分ABとCDが描かれている。どちらも右へ5マス、上へ3マス進む同じ向きと大きさの矢印で、点Aから点Bへの矢印と、その下にある点Cから点Dへの矢印は平行である。

「2) 向きの異なる有向線分」と題された図。方眼の上に、同じ位置にある始点A,Cから伸びる2つの有向線分ABとCDが描かれている。有向線分ABは右上へ、有向線分CDは右へ伸びている。
マス目上に、共通の始点A,Cから右上へ伸びる2つの有向線分ABとCDが描かれている。点Cから点Dへの矢印と、同じ向きでより長い点Aから点Bへの矢印により、向きが等しく大きさが異なる様子が表されている。
3) 大きさの異なる有向線分

一般に,有向線分は次のいずれかの条件を与えれば定まるといえる.

  1. 始点,終点
  2. 位置(始点or 終点),向き,大きさ

ベクトルの定義

有向線分は「位置」が固定されているものであった.そして,この「位置」条件の存在のために,上の図1) の有向線分 と有向線分 は,向きと大きさが同じであるにもかかわらず互いに異なる有向線分となっていた.

これに対して,有向線分であるための条件2.(位置,向き,大きさ)から「位置」条件を無視したものは「向き」と「大きさ」だけとなるのでベクトルを表すと考えることができる.

この有向線分 の表すベクトルを,記号で

と書く.

このように有向線分から「位置」条件を無視し,ベクトルとみなすことでどのようなメリットがあるかを説明しよう.

次の図のような2 次関数の平行移動を考える.

このとき,各有向線分 は全て異なる有向線分となるが,各ベクトル は全て同じベクトルを表している.

このように,有向線分は位置条件が存在するため,「平行移動」という事象に対して統一的に考えられないが,ベクトルは位置条件を無視するため,「平行移動」という事象に対して統一的に考えることができるようになる.

左下の放物線上の点A、B、Cから、右上に平行移動した放物線上の対応する点A'、B'、C'へ、長さと向きが等しい3本の矢印AA'、BB'、CC'がそれぞれ伸びている。

ベクトルの相等の定義

上記の議論によって,有向線分を利用してベクトルを可視化することができた.

さて本章冒頭で述べたように,ベクトルは「大きさ」に加えて「向き」という新しい概念を含んだ量であった.そのため,等号「」や演算記号「」「」なども新たに定義する必要がある.

ここでは,まずは等号「」について定義しよう.

さきほどの図1) に登場したベクトル は向きと大きさが等しいので同じベクトルであった.そこで

と書くことにし,このとき, は等しいということにする.

一般に,2 つのベクトルは,向きが同じで大きさも等しいとき等しいという.ベクトルは位置を無視したものであるから,始点の位置が異なっていてもかまわない.

また,ベクトルは始点と終点を明記しないで,単に と書くこともある.たとえば,次の図のようなとき は向きと大きさが等しいので

となる.

正方形の格子状の方眼の中に、点Pを始点、点Qを終点とする矢印と、それと平行で向きと長さが等しいベクトルaを表す矢印が描かれている。

問題1ベクトルの相等

次の図のベクトル について,互いに等しいベクトルをいえ.

方眼の上に、右に1上に3進むベクトルa、右に1上に1進むベクトルbとベクトルc、右に1下に1進むベクトルd、右に2上に2進むベクトルe、右に2進むベクトルfが配置されている。
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大きさと向きの等しいものを見つければよいので,が等しいベクトルである.

ベクトルの大きさの表し方

の大きさを,それぞれ と表す.ここで, は,(有向)線分 の長さに等しい.特に,大きさが であるベクトルを単位ベクトル(unit vector)という.

平面ベクトルの成分表示

平面ベクトルを成分で表す

座標平面上にあるベクトルに対して,そのベクトルを成分を用いて表してみよう.

次の図のように, 平面上に2 点 をとり,有向線分 を考える.

このとき,

の増分:

の増分:

を用いて, と表すことにする.

一般には,点 において,有向線分 におけるの増分 の増分 をもちいて

と表す.ベクトルのこのような表し方を成分表示といい, の値を成分(x-component) の値を 成分(y-component) という.

ベクトルでは位置を考えないので,同じベクトルを表す有向線分をどこにとっても の増分と の増分は変わらない.つまり,成分は始点の取り方によらずに定まる.

座標平面上に点Aから点Bへ向かう矢印が描かれている。点Aから右方向へ5進む矢印には+5、続けて上方向へ3進む矢印には+3と添えられている。

問題2ベクトルの成分表示

次の図のベクトル を成分で表せ.

マス目のある座標平面上に、原点(0, 0)から(1, 2)へ向かうベクトルa、(-2, 0)から(1, -2)へ向かうベクトルb、(-3, 0)から(-2, 3)へ向かうベクトルcの3つの矢印が描かれている。
解答を見る

まず, の始点の座標は,終点の座標は である.したがって

となる.また, の始点の座標は ,終点の座標は である.したがって

となる.同様にして, となる.

成分表示された平面ベクトルの相等

一般に,2 つの の相等に関して

が成り立つ.

2 つのベクトルの向きと大きさが等しいということは, 方向の増分と 方向の増分がともに等しいということだからである.

成分表示された平面ベクトルの大きさ

また,さきほどの2 点 の例では,の増分がの増分が であった.この の大きさ は,線分 の長さであるから,三平方の定理より

となる.

一般に, の大きさ

で求まる.

特に,2 点 については

となる.

問題3有向線分のあらわすベクトルの大きさ

次の図のベクトル について,それぞれの大きさを求めよ.

1目盛りが1の方眼がある座標平面上に、4つの有向線分が描かれている。ベクトルaは点(3,3)から点(1,2)へ、ベクトルbは点(1,-2)から点(4,2)へ、ベクトルcは原点(0,0)から点(-2,3)へ、ベクトルdは点(-3,-1)から点(-1,-2)へ向いている。始点と終点はいずれも格子点上にある。
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最終更新: 2026-08-13

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